10.魔王降臨
「なるほど、俺の死体をここに捨てる予定だったのか。」
俺がいるのは小高い丘の上、見渡す限りの樹海。ここに死体を捨てれば誰にも見つからずに朽ち果てるのみだな。とりあえずこの丘をグリーンアイランドと名付けよう。
「ブッ...右手に本」
ボワンという音と共に赤本が出現する。この世界でもこの本は使えるようだ。
「まずは現状の把握と護衛の召喚だな。確か、『召喚、召喚可能な範囲で最強な人型の魔物』」
詠唱完了直後、地面に現れた魔法陣の中から、頭から2本の角と背中から羽が生えた2メートル近い身長のオッサンが出現する。
「タナカだったか、無事こっちの世界に来れたようだな。」
実はこのオッサンを呼び出すのは2回目、前回は召喚スキルの熟練度が120になった時に呼び出した。事情の説明やスキル上げの相談にのってもらい、武術系スキルの練習相手も紹介してもらった。
オッサン自身は万能系で職業は魔王、召喚時間1秒につき1000のMPを奪っていくボッタクリ仕様。MPの自然回復を考慮しても、30分もたずにMPが尽きる。しかも、魔法などMP消費する技のMPは召喚者負担というおまけ付。今回はどんな環境に落とされたかわからない為、魔王様に護衛をお願いすることにしたのだ。
「という訳で、魔王様には10分程護衛をお願いします。これ、味噌ラーメンと言います。よろしければどうぞ。」
魔王様に軽く状況説明をしたあと、賄賂の味噌ラーメンを献上する。
さて、まずは最後に取得した探知の効果を確認。ついでにスキル表示順を見やすいように並べ替え。
NAME:田中 一郎
AGE:15
HP:183,573/183,573
MP:1,481,823/1,581,531
USKILL
・勇者 熟練度:0%
・拳王 熟練度:0%
・剣王 熟練度:0%
・遅老 熟練度:120%
・神速 熟練度:120%
・瞬速 熟練度:120%
・召喚 熟練度:120%
・探知 熟練度:0%
→周囲のあらゆるものを探知する。
最大効果範囲は熟練度1%につき半径10m。
1秒につき、MPを半径/10消費する。
正確性は熟練度に依存。
・鑑定眼 熟練度:120%
・遠視眼 熟練度:120%
・料理作成 熟練度:120%
・衣類作成 熟練度:120%
・武具作成 熟練度:120%
・原材料作成 熟練度:120%
・ポーション作成 熟練度:120%
CSKILL
・体術 熟練度:120%
・剣術 熟練度:120%
・槍術 熟練度:120%
・弓術 熟練度:120%
・斧術 熟練度:120%
・盗聴 熟練度:120%
・瞑想 熟練度:120%
・毒耐性 熟練度:120%
・MP回復 熟練度:120%
・HP回復 熟練度:120%
・ハイド 熟練度:120%
・ステルス 熟練度:120%
・魅了耐性 熟練度:120%
とりあえず探知を最大効果範囲で展開、周囲の索敵を開始する。次に冒険者の服と革の鎧上下、鉄っぽい剣を作成して装備。
魔王様召喚からここまででおよそ10分。そろそろお帰り願おうと思ったら、突然魔族と人族の関係について語り始めた魔王様。そういや、前呼び出した時にやる事がないって愚痴ってたな。
暇を持て余した、魔王様の、語り。
「知っての通り、この世界には我々魔族の支配する大陸と、人族の支配する大陸の2つの大陸を中心に構成されておる。」
いや、知らないから。
「元々魔族と人族は同じ種族であったが、長期に渡り海を隔てた別々の大陸に隔離された結果、2つの種族に別れたと言われておる。」
それで角と羽が生えるって、魔族の大陸どんなんだよ。
「そして数百年前、それまで北方にあった海が、陸地へと変わっていたのだ。」
大規模な地殻変動か、寒冷期と温暖期で海水面の大幅な変動があったのかな。
「この時、調査メンバーを強い者から順に選んだのが、我らと人族の不幸の始まりだったのかも知れん。人族側の調査団が我らと遭遇した途端、悪魔だと叫び逃走してしまったからな。」
角と羽が生えた威圧感がハンパない大男の集団に遭遇したらそりゃ逃げるわな。
「体格差はともかく、角は冠、羽根は魔道具で両方取り外せると言っても、なかなか信じてもらえない。」
飾りだったのか!
「さて、タナカのMPが枯渇しそうなので、余はそろそろ帰るとするか。」
そうだね。MP0になったら俺が気絶すると同時に魔王様は送還されちゃうから、多分俺死んじゃうしね。
「魔王様、すみません、失礼かと思いますが、今後の参考までに、鑑定で能力を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか。」
「かまわん、好きなだけ見ると良い。」
NAME:カッコイイ 魔王
AGE:永遠の18歳
HP:1,451,619/1,451,619
MP:1,881,531/1,881,531
Lv:2449
USKILL
ERROR
CSKILL
ERROR
「魔王様。スキルを読み取るのを妨害されたのは予想できるんですけどね、名前と年齢の趣味がおかしいんですけど。」
「タナカよ、余の趣味は悪くないぞ。お前の感覚がおかしいのだ。それと、今は数値の偽装はしていないが、鑑定の力を過信してはならないという良い参考になっただろ。もう一つアドバイスだ。鑑定は相手の弱点を探るようなものだからな、相手の許可なく行ったら問答無用で反撃を受けても文句を言えないぞ。では、また会おう!」
そう言って、魔王様は自分の足元に送還用魔法陣を展開し勝手に帰って行った。召喚者の意思を無視して帰れるなんて、欠陥スキルかよ。
今のところ探知には何もひっかからないが、護衛がいなくなってしまったので神速と瞬速を同時起動、これで不意打ちをくらったとしても対処できるはずだ。
とりあえず問題なく異世界デビューを果たした俺。だがこの時、致命的なミスを犯していたことを後に思い知るのだった。