熱を持つ霧 5
周囲の建物のガラスが割れ地面に降り注ぐ。
「みんな居るか?」
「たぶん、無事っす」
ホルテンの返事を聞きながらベニユキは起き上がり見回す。
ドミニクは立ち上がってカビ臭い埃を払っていて、ギルベルトがネシェルを引き寄せ無事を確認している。
川の方から重々しい音が続けて響き建物が継続的に揺れた。
「やたらめったら撃って建物を崩す気か。生き埋めになる前に逃げよう」
「外は危ないからって逃げ込んだばかりだろ。表に出れば大砲の弾に直撃するかもしれないんだぞ、どうするんだ?」
「飛んでくるのが見えるとはいえ、流石に目で見て避けるなんて芸当もできませんし。厳しいっすね」
不満を漏らすギルベルトとベニユキがどうするかを考えている間にも砲撃は続き、近くの建物が倒壊し大量の土煙が道路に広がる。
何かが焼けるにおいと火薬のにおいが立ち込め、舞い上がった土煙で外の視界が悪くなるがそれでも砲撃音は止まらない。
「行くなら今しかない」
「まじかよ」
ドミニクとネシェルが顔をしかめるが、逃げ込んだ建物が砲撃を受け奥の部屋に砲弾が屋根から突き抜けてきて着弾し壁も扉も吹き飛んだのを見て覚悟を決める。
「あの戦闘ロボットの本拠地みたいな場所にどうやって近寄るか」
建物が軋み始めたので口論をやめて皆は建物を飛び出た。
直後に砲撃に耐えかねた建物が倒壊しさらなる土煙が辺りを包み、それに紛れて走り出す。
「ちゃんとついて来てるか! また敵の影を味方と見間違えないようにお互い声を出して確認し合おう」
「はい、しっかりと!」
「これ声出すと口ん中に土が入ってくるんだが」「ゴホッゴホッ!」「煙たい、髪が土まみれ」
土煙を抜けるとベニユキたちの捜索に向かってきていた機械兵と鉢合わせ即座に戦闘になる。
その横で砲弾が着弾し道路がめくれ上がりベニユキたちも機械兵もバランスを崩す。
「敵だ! 死なないから砲弾降り注ぐ中に突っ込ませてきた」
即座にベニユキは武器を構え向かってくる機械兵に攻撃を加える。
敵を破壊したところで絶え間なく続く砲撃が止まることはない。
銃身が長く構えると動きにくくなるネシェル以外は、皆武器を構えて向かってくる機械兵を破壊する。
「足を止めれば砲撃に巻き込まれるっすよね」
「爆発はしないんだな。ガンガン砲弾が降ってきているけど意外と破片は少ない」
「榴弾じゃなくて徹甲弾なんじゃないっすか? ただの金属の塊で、建物とかが標的になるやつ。破片弾頭でもないからそもそも対人用ではないのかも」
「なんであれ直撃すれば粉々だ」
砲撃はただ撃ち込んでいるだけで正確な狙いもなくでたらめで、手こずるであろうと思われた厚い装甲を持つ巨体の機械兵に直撃し破壊した。
その飛び散った部品が地面を跳ね不運にもギルベルトの片目を潰す。
「ぐあぁぁ……くそっ目が!」
「立ち止まるな!」
負傷し目を押さえるギルベルトにネシェルが手を取り走る。
「そこの小道に入れ!」
砲撃の直撃を免れながら小道へと入ったが目標を見失っても、砲撃の範囲を広げ建物を攻撃してきていた。
「この道がどこまで続いているかわからないが、ジグザクに走っていけるところまで進む。ギルベルト、無理だと思うなら下がってエレオノーラたちとの合流を目指せ」
「いや、俺も進む。ここまで来たんだ、まだ戦える」
狭い路地を進み正面から道を塞ごうとする機械兵をホルテンが剣で裁断し道を切り開いて川を目指す。
振り返れば背後からも機械兵は追ってきているが、砲撃の音は聞こえるもののベニユキたちの近くに着弾しなくなる。
「音はするのに、弾が飛んでこなくなったな」
「壊れたわけじゃないよな?」
「向こうの空にまた飛行するやつがいるな。誰かが追われてるんだろ」
建物の切れ目から土煙の上がる場所を視認する、砲撃の降り注ぐ建物の上には鳥のような影が五つ白い尾を引いて飛んでいた。
「他の生存者か、はぐれたキュリルかグリフィンたちか?」
「なんでもいいだろ、向こうが頑張ってきてくれるうちに俺らも進むぞ!」
「了解っす」
砲撃も止んだこともあってネシェルが視界の通る十字路で立ち止まり長い銃身を構えて遠くの空を飛ぶグライダーを狙う。
そのまま音のない射撃とともに一つ二つと空飛ぶグライダーは不自然な挙動をして地上へと向かって落ちていく。
「よく落とせたな」
「まぁ、落ち着いて狙えるし」
誰かを追って空飛ぶグライダー、その空に見える全てを落としベニユキたちはまた走り出す。
負傷した目を押さえるギルベルトは誰ともなく尋ねる。
「あの船、砲弾何発あると思います?」
「数はわからないっすけど、戦艦というのなら数時間は戦えるほどはあると思うっす」
「なら弾切れは望めないか。飛んでくる弾、撃ち落とせたりしないのか?」
「今のところ着弾まで三秒ほど、飛んでくるのは榴弾じゃないとなると軌道をそらすのがやっとかと。大きな鉄の塊を弾くにはそれなりの威力が必要になりますし、近づけば近づくほど時間は短くなっていくっすよ」




