硝煙煙る戦場 4
「でもその剣、二本もいるのか? ああ、戦闘で落としたり折れた時用の予備か」
「え、二本とも振り回しますよ。二刀流っす、おれアニメとか好きでずっとこういう悪と戦うのに憧れてたんっす! でも昨日の戦闘で思ったんすけど雑魚とは言えたくさん集まると厄介っすね、必殺技とか考えた方がいいっすかね!」
「お、おおう。でも命がかかってるんだぞ。攻撃を受ければ痛むし、怖くないのか?」
「でもほら、昨日あんな目にあったベニユキさん生きてるじゃないですか。それにこういうのにずっと憧れたんす。痛みがあった方がスリルあるし、エイチピー制じゃない方が楽しめるっす!」
楽しそうに話すホルテン。
そっとエレオノーラがベニユキの隣にやってきてほほ笑む。
「なんか、男の子みたいでかわいいですね。入院してた男の子にゲームの話ばかりしてる子いたなぁ。記憶が完全に戻されていないから顔とかは思い出せないですけども」
「精神の年齢がとかそういうあれじゃないよな……、いやまぁここまで開き直った方が一周まわっていいのかもな」
「でもベニユキさんが食べられてしまったとき、自分たちのせいでってすごい泣いていましたよ」
「根はやさしいんだな」
「でも全然煙なんてないですね、もっともくもくしてて息苦しいものだと思っていました」
「そうだな、景色はきれいだし戦闘の後もない。でもまぁ、町に敵がいることはわかっているし。気は抜けないな」
「目的地で待ち伏せされてるんですものね」
「銃が利く相手だけど、ミカが言ってた敵が強くなるってのは何だったんだろうな」
知らぬ間に隣りを歩いていたアインが口をはさむ。
「今までとは違うだろ。最初に倒したのが通信でもしていたのか、待ち伏せしこちらを迎え撃とうとしている。相手が何も考えず突っ込んでくるのではなくな」
「そういわれればそうだな、今までの敵は俺らを見つけたら一目散に飛び掛かってくるやつらばかりだった」
港町に入るまでもうすぐというところで、町から人型の機械が一斉に走り出してきた。
数は三百ほど、頭の上に平べったい円錐形の帽子のような物を被り、その手には棒状のものを持っている。
「敵だ、数が多い!」
「おわっ、急に来た!」
何時でも戦えるように武器は構えていたものの、一気に飛び出て来た事に皆うろたえ引き金を引くのが遅れた。
整列し綺麗に並んで走ってくる黒い機械の兵隊。
「ひるむな撃て!」
グリフィンの号令とともに皆我に返り銃を構え、同時に人型機械は棒状のものを持たない方の腕を伸ばす。
するとその先端から銃声もなく白い煙を吐き細長い芯のような物を飛ばしてきた。
「伏せろ!」
飛んでくる矢を躱すため皆地面に伏せ、わずかな地面の窪みなどに身を隠す。
「ひらけていて遮蔽物がない!」
「命中率は良くないみたいだ、なるべく身を低く」
最後の障害物のあった飲食店もかなり後方、走って引き返せる距離ではない。
銃撃を受けて損傷した機械の背中に背負ったタンクが爆発し大量の水をまき散らす。
皆ともに地面に伏せたベニユキは飛んできた矢を一本拾う。
「これは、あの鉛筆みたいな矢か?」
「だな、毒とかの類は塗られてないが……数が多い」
相手は数百、放たれる無数に飛んでくる矢がベニユキたちに降り注ぐ。
「痛てて、肩に刺さった。どこかに隠れろ、串刺しにされる!」
「隠れろって回り見ていってる? 何もないよ!」
散りじりになって矢の着弾地点から避ける。
銃撃で反撃するが相手は機械、死など恐れず速度を落とすことなくまっすぐ走ってきていた。
それでも銃弾を浴び次々と倒れる機械の兵隊。
矢を撃ちすくしても進み続けある程度の距離まで近づくと今度は手にした棒を前に突き出す構えをして突撃してきてた。
だが今まで戦ってきた敵より装甲が薄く脆く、ウーノンやアインが持つ重機機関銃の掃射を受けみるみる数を減らしていく。
そして最後の一台を破壊する。
「意外と大したことなかったな、負傷者は?」
「死者はいないが、手足に矢の刺さった負傷者は多い。伏せずに走っていたブラットフォードくんが比較的重症だ。今エレオノーラ君が手当てをしている」
目の前の水と部品をばら撒いて倒れる残骸から目を話し、横や後を振り返れば手や足に矢が刺さり血を流すものたちの姿。
何名かは幸運にも矢に当たらずキュリルやホルテンは無傷でエレオノーラとともに負傷者の手当てを行っている。
「逃げていた者たち以外だと、ウーノン君やアイン君が集中攻撃を受けたようだ。機関銃を持っていたためだろうな。彼らはこの場に置いていきこのまま町へと入る、誰か彼らと武器を交換してくれこの機関銃は役に立つ。さぁ、すぐに進もう、他からまた集まってくる前にな」
「彼らはここに残すのか、街へ連れて行かないのか?」
「ああ、アイン君に引き返すように言っている。山向こう、あの町へと引き返すように言った。箱舟の前を守るようにな」
「大怪我をしても箱舟にすぐ戻れるしそれがいいか」
「帰るときに待ち伏せされても面白くないからな」
倒した機械軍団から装備していた長い槍を手にする。
「何の変哲の無いただの槍だ?」
「ほんとだね、特別なギミックとかもなさそうだ。ただの金属の塊」
「奪い取っての何も嬉しさもないね、重たい鉄の棒だし」
「矢の方もただ軽量化された重しのついた筒だからな、発射台もないし拾ってもどうしようもない」
「こんなところで得られる武器って何?」
「オートマトンだったか、機械の兵隊は戦闘に参加してくれないらしいからロボットを作るわけでもないだろうな」
町の入口で倒されていた一機の機械兵。
胴体がドロドロに溶けていたが他の黒い兵隊と違って、この機体だけ頭や肩に赤い装飾を身に着けていた。
「何だこいつだけ、色が違うな」
「持っている武器も違うね、最初にあったのと同じ剣だ」
ベニユキの後ろにいた身の丈を超える長い銃身をした銃を背負ったネシェルが呟く。
「そいつ、私が焼いた。なんか一番後ろにいたから、他のがぞろぞろ向かってくる中でこいつだけ動かなかったし」




