悪臭放つ大地 6
「やめよう、今から出て行っても離れすぎていて助けも間に合わない」
1分も満たない間に悲鳴は消え、足音が遠ざかり再び扉を開けるとそこには誰もいなかった。
ベニユキはそっと部屋の外を確認して怪物の足音が去っていくのを確認する。
「連れ去られたのか……」
「どのみち間に合わない、銃を持っているからって至近距離まで行かないと間違って当たってしまうから。僕らは自分の身を守るのが精いっぱいの凡人なんだ、ヒーローじゃない」
「そうだな……」
「自分のことだけでいっぱいいっぱいなんだ」
「わかったって」
その後も少し様子見としてしばらく隠れていて、音がしなくなってから5人は恐る恐る部屋を出た。
「可哀そう」
「俺らも余裕がないんだ、行こう。建物に入る前にも言ったことだけど、先に行った人たちには囮になってもらう」
マルティンの決定につらそうな表情を浮かべてエレオノーラとテンメイ、ウーノンが頷く。
より慎重に通路を進み下へと続く道を探し見取り図もなく、当てもなく通路をすすんでいると通路の奥に非常階段が見えてくる。
「非常階段だ、あそこから下に行けるかもしれない」
「エレベーターホールの横にあったな非常階段、ここはその下か」
金属の扉を開け中に入ろうとすると一歩踏み出したとたんに、ベニユキの頭に茶色い銃口が向けられた。
扉の左右に待ち構えていた茶色と黄土色の大きな銃の銃口が2つ。
誰も待ち伏せに気が付かず武器を構える時間もなかった。
「動くな、言葉はわかるよな? 動けば容赦なく撃つ。ああ、でも手を上にあげろ」
非常階段の上から低い声が聞こえ、同じ大きな突撃銃を持った男が姿を現す。
ベニユキたちは驚きのあまり立ち止まりゆっくりと頭より高い位置に手を挙げた。
「何だ味方か、ぞろぞろとしゃべりながら歩いて、驚かせないでくれ。二人とも武器を降ろしなさい」
男の指示で銃を向ける二人は武器をおろした。
オレンジがかった茶髪の癖毛の男性と、どこかで拾った色の薄いサングラスとカウボーイハットをかぶった男性。
「すまなかったね、こちらは戦闘の後ですこしピリピリしていてね。無礼を許してくれるかな」
エレオノーラたちが非常階段の踊り場に全員が入ると、サングラスをかけた男が金属の扉を閉めた。
階段の上に立つ男が段差に腰を掛ける。
「我々も君らもお互いに記憶のために動いていると見える、ならば協力し合おうじゃないか。君たちはあれを見たか?」
「あれが何を言っているのか知らないが、死なない人間……人のようなものなら見た」
「ああそうだね。あれにも驚かされた、まるで悪夢の中にいるような感覚だ」
「あんたたちはここで何をしている、休憩か?」
「偵察だよ。今、先行させている3人が来たら進む予定だ」
「死なない化け物相手に数を裂いて進んでいるのか? 危険じゃないのか?」
「だから偵察させている。人を見つけ話し合いで穏便に済ませようとしたところ、2人犠牲になった。他にもあちこちで銃声と悲鳴を聞いた、今何人この地下にもぐっているのかわからないがかなり数は減ってしまっただろう」
淡々と語る男の言葉にテンメイとエレオノーラが表情を曇らせる。
顔色の良くないエレオノーラを支えるベニユキの代わりに、マルティンが階段の上で腰掛ける男との話を続けた。
「ついさっきも僕らの目の前で二人……犠牲に」
「奴らに連れ攫われたとでもいうべきか、こちらの持つ銃も効かず数も多くてな、見捨てて逃げるしかなかった。ああ、自己紹介が遅れたな。俺の名はグリフィン、もっとも本当の名前なのかさえ少し疑わしいが。そこの二人はテオとアインだ」
「ここはまだ地下1階、この階段で降りて来たのか?」
「いいや、この上は瓦礫で塞がっている。ここに来たのも10分ほど前だ。何があったかは知らないが、帰るときは別の道を探さねばならないな。君らはどうやってここへ来た」
「上の階の部屋の一つが床に穴が開いていて、そこから降りてきました」
「他の場所にも穴が開いているのか。俺らも床に空いた穴から降りてきた、最も部屋ではなく通路に空いていた穴からだが」
下の階から金属の扉をしまる音が聞こえ階段を上ってくる音が聞こえる。
アインとテオは階段の下方に向かって大型の銃を構えた。
「俺らだ、撃つなよ! 偵察から戻ってきた、味方だよ!」
ミカが配っていた武器の中にあったバットを持った艶やかな黒髪をした切れ目の女性と、黒い機関銃を持った金髪の男性が階段を上がってくる。
「タリュウくん、大声は出さないでくれというお願いだったはず」
「うるせぇ! 下の階は無茶苦茶だ、奴らが多い! 見てこなかったが場所は地下3階のガラス張りの部屋! 途中でエディンが死んだ!」
「そうか、彼の犠牲は残念だ」
「あの中を進むのは無理だ! 死にに行くようなもんだ!」
「わかった、では行くとしよう」
「待てよ! おい、聞いてなかったのかよ! 無茶だ、少し見ただけで8体はいた! もっといる! 行けば死ぬぞ!」
「静かにしてくれと言ったのが聞こえなかったのかね、タリュウ。奴らに見つかればそれで我々は終わるのだ。あのミカと名乗る女性の手の上で踊ることを選んだ以上、我々は目的のものを持ち帰らなければならない」
「俺は残るぞ!」
「勝手にしてくれたまえ。では行こうかテオ、アイン、キュリル。もちろん合流してきた君らも来てくれるよな、目的は一緒なのだから」
顔を見合わせマルティンたちも階段を降り始める。