硝煙煙る戦場 3
先を進んでいっていたキュリルとホルテンが戻ってくる。
進軍を停止し少し話し合ったのちグリフィンがマルティンやブラットフォード、ベニユキを呼んで物陰から進行先を見るように言う。
「奥に、見るからに怪しいものがあるそうだ」
「怪しいもの?」
ホルテンの案内に続いて進んだ先、皆でそっとうかがうと道の十字路に立つ人型の像。
見つけた人型はマネキンにも似た人型で全身が黒く角ばっている。
頭に真一文字の線が入っており窪んでいるよう。
「あれは、なんだ?」
「どれだい? あの鎧のような物かい?」
レンガ作りの建物が並ぶ廃墟に似つかわしくない人型はやや奇妙な形をしており、背格好は丸く猫背で太もも辺りがやけに太くなっており膝下が逆に細くなっている。
その謎の物体の手には短い棒状の物が握られていた。
「オブジェには見えないね。ロボットの様だけど……?」
「どう見てもお手伝い用の機械には見えないね。刃物持ってるし」
「なら敵か」
機能は停止しているようで動く気配はない。
声量を落としていたがベニユキの声に反応するように人型は動き出し、ぐるりと首から上だけを動かすとベニユキたちを見た。
「動いた!」
「あれがこの世界の敵か!?」
テオが覗いている人が溜まっている建物の角から飛び出て人型に向けて銃口を向ける。
「見敵必殺!」
同じようにアンバー、キュリル、アイン他数名が銃口を向け引き金を引く。
静かな住宅街に重なり響く銃撃音。
少し遅れてにブラットフォードやウーノンたちが加勢し銃声がさらに重なる。
「どうなった?」
人型は複数人の銃撃を受けバラバラに崩れ倒れていた。
「倒したぞ?」
「あっさりだった」
「銃弾を避けるくらいしてもよかった気もするよね」
弾倉を取り換えたテオが驚き半分な声を出し、周囲を警戒し皆で破壊したマネキンのもとへと向かう。
機械は何やらタンクのような物を背負っていたらしく、中に入っていた液体が漏れ部品は水たまりの上に散っていた。
銃弾を浴びバラバラになった破片を見てテンメイが喜ぶ。
「今回はあまり強くない!」
テンメイが喜ぶ横でベニユキとウーノンが機械を触る。
「ベニユキは機械に知識が?」
「いいや、嫁がこういうのいじっていたから何となく見ていただけだ。そういうウーノンは詳しいのか?」
「まぁ、普通よりかは。このあたりに散らばっているのはただの水か? 毒かもしれないからあまり触らない方がいいか。しかしなぜ毒水を、何のためのかわからないな」
「で、これは戦闘ロボットでいいんだよな?」
「見た感じそうだな。頭と胴体に複雑な機械が組み込まれてるが、手足などはすごくシンプルで動く少し安い義手義足に近い」
「武装は?」
「銃の類はないな、光学兵器も見当たらない。見たところ持っていた刃物とこの棒状のものだ」
ウーノンが拾って見せる二十センチほどの鉄の芯。
先端が銀色で末端には芯の中に収めておけるような簡素な弓矢のような風斬り羽根が付いていた。
辺りを見ていたグリフィンが近寄ってきて尋ねる。
「何かわかったかな?」
「これを」
近くに転がっていたロボットの装甲を手に取り渡した。
「軽いな……この装甲は金属ではない」
「たぶんカーボンやポリカーボネートだ。暴徒鎮圧の盾とかに使われる軽い素材」
「ならこいつらが防げるのは小銃程度か、どうやら今回も我々の攻撃が通じない相手ではないようだ。しかしまた機械か、だとしたら数が怖いな」
その後少しの間身構えていたが次の敵が現れることはなくベニユキたちは再び歩き出す。
町を抜けると植林され真っすぐと延びた木々が生い茂る森。
しかしそれも手入れをする者がいなくなって久しいらしく、いくつかは倒木して山道を塞いでいる。
「さっきの一体きりで、敵がまったく来ないな」
「意外とみんな故障して動かないんじゃない? あいつもこっちに気が付くの遅かったし」
落ち葉が道に積もり錆びたガードレールがあることで、かろうじて道がわかる程度の山道を進む。
「虫も鳥もいるねぇ、のどか」
「ただ歩いているだけだなんて、なんかみんなでピクニックしてるみたい。敵はどこ?」
自然の香りに深呼吸をするアンバーとガーネットが高い木々の上を見てつぶやく。
森を超えると山を下った先に大きな大河が見え港町が見え、白い銃で方向を確認したグリフィンが皆に伝える。
「目的地はあの港町の様だ。あれから何十分と歩いてその間、敵も現れず不気味だがこのまま進もうと思う」
レンガ作りの赤っぽい建物が並ぶ明るい感じの港町に、停泊している一隻の紺色の軍艦。
船の上部構造物は布がかけられほとんどの部分が覆い隠されており、船体の側面からは大砲らしきものが伸びているのが見える。
「おそらくはあの船に用があるんだろうな」
皆が歩き出す中、アンバーは双眼鏡で港町を見ていた。
彼女が置いて行かれないようベニユキが声をかける。
「みんな移動を始めた、進もう。何か見えるかアンバー?」
「あー、うん。人影が動いてる、数はわからないけど」
その言葉はすぐにグリフィンたちにも伝わり、何人かが双眼鏡や狙撃銃のスコープを構えた。
「見えるな、俺らをあの町で迎え撃つつもりか」
「でもこっちの方が強い、勝てるよ!」
周囲を見回しテンメイが銃を握った。
森を抜け町に向かう途中には途中に広い駐車場のある食事処がある程度で、ひたすら見晴らしのいい道が続いている。
その間も敵からの攻撃はなく、港の軍艦も動く気配はない。
「敵が全然出てこないな、まったくもって面白くない」
警戒への集中力の切れたホルテンが港町へと向かう集団の後部の方へとやってくる。
後ろや側面を警戒して歩くベニユキが彼の持つ剣を見て話しかけた。
「ホルテンは、その武器で戦えるのか?」
「もちろんっす。これで昨日生き残ったみたいなもんなんすから! 飛び掛かってくるアイロンたちをこの剣でドロドロに斬り裂いて道を作ったんすよ」
「言葉だけで聞くととても緊張感がないが大変だったな」
「そうなんすよ、斬っても斬ってもきりがないし、今振り返ると大したもんっす」




