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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
3章 --刹那を刻むアルヒェエンゲル--
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硝煙煙る戦場 2

 エレベーターが降下を続ける中で、エレベーターの中央に立つミカがこれから向かう先について説明を始めた。


『本日も新たな武器の情報が入っている機材の回収をお願いします。皆様に降りていただく世界は飽和蒸気の世界。攻撃と防御それと移動によって生み出される蒸気にすべてが包まれた世界です。蒸気の中は相手の攻撃範囲と考えてください、彼らは集団で戦闘を行います囲まれないように気を付けてください』


 行く先の説明を終えると光の粒となって消えていくミカ。

 その後は鎖の音を響かせ効果を続けるエレベーター。

 異世界への到着まで手すりに寄り掛かり待っているとベニユキはふと腕を上に伸ばして準備体操をしていたブラットフォード目が合う。

 彼女は足元に置いた武器を取りベニユキの方へと歩いてくる。


「おはようベニユキ君。なんかみんなやる気に満ち溢れているな?」

「おはようブラットフォード。昨日俺らは死んでその死に方があまりにも残酷だったから、死に物狂いで生き残ろうってなったんだとさ」


「なんだか皆の顔つきが違うな。私は死んでしまったみたいだが前回の戦い一体どんな死に方をしたらこうなる?」

「家電製品に群がられて死んだらこうなるみたいだ」


「家電製品? ……想像しがたいが、皆の顔つきを見ているとなんか取り残された感じだな」

「ああ、俺らも追いつかないとダメそうだ」


 少しの間暗い通路を下りているとエレベーターが速度を落とし、エレベーターに外の光が差し込んできた。

 エレベーターが降り立ったのは短い草や苔が建物を覆っている廃墟の町の真ん中。

 山か丘か緩やかな斜面に立ち並ぶ緑色に染まったレンガ造りの建物群を見てベニユキがマルティンに話しかけた。


「今回は普通の廃墟だな。蒸気がどうのって話だったけど、空も青くてきれいだ。草も枯れてはいないし」

「そうだねって、廃墟を見て普通って言えてしまうあたりもう慣れたんだろうね」


「町が大きく壊れていないから砲撃やミサイルは飛んでこないか?」

「大きな怪物とかもいなさそうだね、見える範囲にはだけど」


 町を横切る大きな道路の真ん中で錆びた車両や朽ちたゴミが転がっている。

 槍を背負い茶色い突撃銃を構え落ち着きなく周囲を見回すエレオノーラが近寄って来た。


「今回は何が出てくるんでしょう?」

「戦闘の痕跡を探すしかないだろうな。どこかにあるだろう、誰か見つけたら教えてくれ」


 皆がエレベーターから降りると武器コンテナを積んだオートマトンが降りてきてエレベーターの出口から外れた場所へ移動する。

 ブラットフォードや何人かは武装を選び直すためにオートマトンの方へと歩いていき、グリフィンはどこへ向かうのか白い銃を持つアンバーたちと話していた。


「ここはレンガ作りの建物が多いですね? 絵画みたいな綺麗な街並みなんですけどね」

「入り組んだ街並みだな。建物との間隔も広いあそこに見える細い道が町全体、あちこちに広がってるんだろうな」


「鬼ごっことかしたら楽しそうな町ですね」

「これから始まるんだよ命がけの鬼ごっこが」


 対戦車ロケットを担いだグリフィンの号令で一同は行動を始める。

 コケや草が生い茂る建物の中に銃を構えて注意をし廃墟を進む。

 ベニユキたちの近くを歩くマルティンとテンメイ。


「さて、見た感じはただの廃墟だけど何がいるのやら」

「ところで蒸気って何?」


「スチームアイロンとか、スチームクリーナーとかのあれっていえばわかるかな?」

「ああ、シャツのしわ伸ばすあれね、わかった。今回は蒸されて殺されるのね。あーあ―シュウマイとか肉まん食べたかったなぁ」


「悲観的になるな、生き残るんだよテンメイ」

「出来たらね。どうせ今回も死ぬんだ、明日になったら何も覚えていないんだ」


 戦う前からふてくされているテンメイに困ったマルティンは、近くを歩いていたベニユキを見つけ話しかける。


「やぁ、ベニユキ君。今のところ敵の姿が見えないけど蒸気機関といえば汽車とかかな?」

「戦った痕跡がないよな。蒸気船というのも考えられるけど、レールも海も川も見当たらないよな。出会いたくないけど、敵の正体がわからないのもモヤモヤするな」


「いくら戦うのを避けても、武器を持たせて俺たちを嫌でも戦わせるから避けられないんだけどね」


 集団で歩いているとネシェルの持つ銃の長い銃身が目を引く。


「そういえば、ネシェルの持つあの武器は結局何だったんだ? 地下の世界で見つけた、あの槍みたいなやつ」

「ああ、あの大きな銃か。照射式のレーザーだったね、目に見えない光が敵を焼く」


「それは強いな!」

「ただ長い時間当てていないとダメみたいで、使い勝手が悪い。長いし、でかいし、腰のバッテリーも重たいしな、戦闘が始まってすぐに荷物になるから降ろしていたよ。でも小さい機械なら簡単に溶けていった」


「相手次第か。あの襲いに行った箱舟に乗り込んだ時の、広い部屋で戦ったあの怪物相手なら俺たちは楽に勝てたか?」

「回復速度も速かったし倒すのはどうかな、戦えばダメージは与えられるのかも知れないね。でもあれは銃身が長くて重いし、撃った弾が見えないから、誰の弾が当たっているのか、怪物が追って来た時重くて邪魔で逃げににくいとかいろいろあるとはおもうね」


「やっぱ重くて大きいのは不利か。何に使う用の武器だったんだろうな」

「さぁ、工具にしては大きいし対人用だとしたら恐ろしい威力だと思うけどね。何せ鉄を溶かすほどの威力ではあるし」


 戦闘を進んでいたグリフィンたちが大きな道を離れ住宅街の細道へと入っていき、ベニユキたちも後を追って細い道へと入っていく。


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