悪臭放つ大地 5
テンメイは自分で弾倉を取り換えられ、ウーノンとマルティンがエレオノーラに弾倉の装填の仕方を教えるとベニユキが扉を開け部屋の中に入る。
「人を見つけたらとりあえず俺らで戦う。さっきみたいに何かあったらエレオノーラたちが援護を」
「わかりました、頑張ります」
テンメイが返事をしエレオノーラが頷く。
大きなものは壁際に寄せられた部屋の奥には大きな穴が見えたので、目的のものがあるという下に降りる方法がなかったので一同はそこへと向かう。
荷物が積まれた倉庫、そこにも誰かが生活していたような荷物が散乱してた。
うっすらと砂ぼこりが散らばる中に破けた雑誌、凹んだ水筒、穴だらけの洋服などを避けながら奥へと進む。
「何があったんでしょうねここ。さっきもありましたけど、子供の玩具とか転がってますし」
「誘拐とかしてきていたんだろうか、いやあの化け物の餌として連れてこられたのかも? なんであれ、俺らがあれの餌にならないようここからさっさと逃げたいな」
部屋の奥には下側から破壊されたような大きな穴が開いていた。
覗けば落ちた床が砕けて無数の石片となって転がっている。
「下まで3か4メートルはありそうか……高いな、そっちに飛び出ている鉄筋に捕まって降りれるか?」
「僕らなら行けそうではあるけど、テンメイさんたちが降りれるか心配だ」
「なら俺らが先に降りて下から支えるか」
「そうだね。ウーノン、僕らは先に降りるから彼女たちがおりるとき、滑り落ちないよう手を掴んで降りるのをサポートしてくれるかい」
ウーノンは頷き5人は銃をポケットにしまい、降りる準備をし床に空いた穴からマルティンとベニユキが先に下に降りた。
その後エレオノーラとテンメイの降りる補佐をしつつ一人ずつ下に降りていく。
「帰りはここ使えるかマルティン?」
「荷物積み上げて階段にするにしても、少し危ないような」
「道がなかった場合の話だよ、上に続く階段かエレベーターあればそっちを使うけど」
「そうだね、床に穴が開いているくらいだし上に上がる階段なんかが崩落してくことも考えられるか」
白い銃を下に向けると反応は更に下に、銃を向けて場所を調べていたエレオノーラが泣きそうな顔になる。
「まだ下なんですね」
最後にウーノンが降りてきて扉を開けると、床一面に転がる空の薬きょうと弾切れになった機関銃が捨てられていた。
「派手に撃ったな、先に着た連中がやったのか?」
「さっきの音はここからかな? ここで戦ってるのは僕らしかいないし、先に行かせた人らか」
床一面に転がる薬きょうを足でかき分け踏んで転ばないように気を付けながら進む。
通路の先は戦闘で弾が当たったのか蛍光灯が割れ暗くなっていた。
建物の構造がわからずマルティンがため息をつく。
「迷路みたいだね、どういう作りの建物なんだろう」
足元に転がる薬きょうを見てベニユキがつぶやく。
「……で、この銃は何を撃ったんだ? どこにも誰も倒れてないぞ? 撃ったやつもどこに行ったのやら」
「早くいこう、ここのどこかにまたあれと同じものがいるんだ。戦うのは彼女たちの精神によくないし僕らも危険だ見つかりたくない」
「戦わずに行けるならいけた方がいいものな」
足音を立てないように気を付けながら早歩きで5人は通路を進みさらに下を探す。
一部屋ずつ部屋を開けて中を確認し次の部屋を調べ、もしかしたら先ほどと同じように床に穴が開いていていないか見て回る。
「僕たちの降りてきたさっきの穴は何だったんだろうね」
「この建物まだ新しい感じだし、老朽化したって感じじゃないよな」
「まだ何かがいるってのは考えたくないね」
「ほんとなんだよあれは、俺らが誘拐されてる間にどうなっちまったんだよ」
「戻ってあのホログラムの女性に聞いたら教えてくれるだろうか」
「あの化け物はこの建物以外にもいるんだろうか?」
「なら戦うための道具を取りに行かされてるのか、ここにはあの怪物を倒す何かがあると?」
「兵士の損耗を減らすなら……でも説明も少なく放り出されて、失敗する確率の方が高い」
「死んでも困らない、消耗品みたいだよな。俺らはいなくなってもいい人間とかってことか?」
「わからない」
近くでベニユキたちに向かって通路を歩いてくる足音が聞こえ、5人は慌てて引き返し安全を確かめた近くの部屋へと入りこむ。
銃を構え扉に耳を当て音が通り過ぎてくれるのを祈るベニユキ。
「ベニユキ君、来るのは怪物だと思うかい?」
「どうだろう、人の声も聞こえてくるが……でも見つかってからでは遅いしもう少し様子見を」
「ならこのままやり過ごそう」
「それがいい」
先ほどのことを思い出しエレオノーラが自分の体を強く抱きしめ身震いする。
「人じゃなかった、頭を撃たれても動いていた。ここ、きっと夢なんですよ」
「エレオノーラ、ちゃんとして。まだ何もしてないんだよ私たちは、戻ってこーい」
テンメイに後ろから抱きしめられ頬をつねられるエレオノーラ。
「……はひ、ごめんなさい」
声は通り過ぎベニユキはそっと扉を開けて外の様子をうかがう。
数は二人、髪が長く同じ髪色で体のラインが細いことから施設に最後に入ってきた双子のよう。
施設の配られたものと同じ服装の背中が見えベニユキはほっと息を吐く。
「味方っぽいな、追いかけて話しかけてみるか」
「そうだね、この際、数は多いほうががいいか。なら脅かさないように呼びかけ……」
二人が相談して言う最中に通路の方から短い悲鳴が聞こえベニユキが恐る恐る覗くと、皮膚が変色した怪物が通路の曲がり角から出てくるところだった。
怪物は足のすくんで動けない彼女らに飛び掛かり彼女らを掴むと、そのまま力任せに引きずってどこかへと連れ去っていった。
怪物は複数名いて彼女らを連れ去った怪物以外の何人かがそのまま通路を進みベニユキたちの隠れる部屋の前を通り過ぎていく。
聞こえてくる悲鳴と銃声に心拍数が上がり自分の胸元を掴んでエレオノーラが過呼吸を起こす。
様子を見ていたベニユキが我慢できず銃を構えるが、マルティンが出ていこうとするのを肩を押さえて止める。