沈黙の楼閣 3
部屋を出ると片方の道には先ほどの赤い霧が立ち込めており、ベニユキたちが来た方には通路の先に宙に浮かぶ不思議なものがあった。
五十ほどある拳ほどからスイカくらいまであるサイズのバラバラな宙に浮かぶ黒い球体。
「さっきまであんなものはなかったのにどこから来た」
「次から次へと色々出てくるな。今度は数が多いな、撃つか?」
風船のようにゆっくりと地面や壁をバウンドし迫ってきていた。
「黒い泡が浮いてます?」
「これも怪物?」
「破裂したら何か出てくる? 毒か爆発か?」
「飲み込まれたり?」
テンメイとエレオノーラがバットを強く握る。
皆が戦闘態勢をとると黒い球体はその場にとどまり跳ね続けた。
「こっちに気が付いていないのか?」
「集団で行動しているようだがこっちへと来る気はないようだ。皆で飛び出て怪我をするのは好ましくない。テオ君、見てきてくれないか?」
グリフィンの指示を受けテオが少し迷ったが頷き物陰から出る。
戦闘になったとき助け出せるように皆銃を構えて反応をうかがう。
一番近くの球体に狙いをつけテオが部屋を出て黒い球体へと近寄った。
「気を付けて、爆発とかするかも」
背後でキュリルが見守りゆっくりと近づいていきテオは銃身で黒い球体をつつく。
黒い球体はただ球体はただふわふわとしているだけで、銃の先でつつかれるとプヨンと表面を波打たせ弾かれるように飛んでいった。
「無害のようにも見えるな。でもできれば生身でこれに触れたくはないけど」
「ありがとう、触れなければ無害ということはわかった。避けて通るとしよう」
球体に触れないように銃身やバットで球体をつついて方向を変えさせてそのうちに移動しその場から離れる。
赤い霧の方へと近寄らないように宙を漂う黒い球体を避けて移動していき、衝撃波を放つ黒い像と戦った場所を通り過ぎた先に上の階へと続く階段が見えてきた。
「何となくでまたかたまって移動しているけど、別れるか?」
「強力な武装に切り替えた、通路は一本道が多く奇襲を受けることも少ないだろう。時間差で登るってこともできるが?」
「別の階段から上るか?」
「そうだな、ならこの階段をどっちが上るかじゃんけんで決めるとしよう」
階段を上るグリフィンたちと別れベニユキたちは階段から離れ別の階段を目指して建物の奥へと進んでいく。
「毎度のことだけど別れてよかったのかも悩むよな」
「どっちが正しいかなんて今の段階じゃ全然わからないからね。探し物を早く見つけるためには別れて探した方がいいってのはあるけど、今までだって何とかやってこれてるんだ大丈夫だと思うよ」
「怪物を見かけたら一斉に撃てばいいだけか」
「だとしたら一度火力のごり押しですべての怪物を倒した方が楽な気もするけどね。さっきも言ったけど出会う前に目的の部屋を見つけたいね」
施設内を小走りで走っていたベニユキとマルティンが話していると木の根のような物が張り巡らされている通路に出る。
皆木の根を踏まないように途中で立ち止まり壁や天井に伸びるそれを見た。
「今度は木の根か、固まった溶岩みたいな色してるな」
「乾燥したみたいにパリパリになってるね。枯れてるのか」
道の奥には木の根の大本があるだろう扉の開いた部屋が見える。
しゃがんで木の根をよく見たエレオノーラが呟く。
「……これ、パリパリの下脈打ってます」
それを聞いて皆が後退りをし何人かが焼き払おうと手榴弾を手にする。
「引き返そう、無理して進む必要もない。道はまだたくさんある」
引き返し別の道を探す。
戻っても赤い霧が待つだけなのでグリフィンたちを追って上の階へ、彼らが進んでいったであろう道には空薬きょうが転がっており彼らの後を追わないように反対側に進んだ。
鍵のかかった部屋を見つけテンメイやエレオノーラがバットで叩いて蝶使い語と扉を破壊して部屋に入る。
「何かあるか?」
「ボイラー室? ではないですよね、何でしょうこの配管がいっぱいつながった装置」
「ここが目的の部屋か?」
疑問の答えは天井のスピーカーから帰ってきた。
『いいえ、ここは生命維持装置の一つです。すでに私が制圧しております』
皆が険しい顔つきで一斉に武器を構え天井を見上げる。
「どこから声が?」
『すみません驚かせてしまいました。私ですミカです、現在システムの大半を昭和くしつつありますが依然として、ここの管理AIのいるサーバールームが見当たりません。探索の具合から候補となる場所をいくつか見つけました、どこも怪物が陣取っており奥へと進めないでいます。どうか怪物の排除をお願いします』
部屋の隅にあったパネルが光って簡易的な見取り図を表示する。
皆がパネルの前に集まり顔を見合わせた。
「俺らなんて必要なくもう一人で全部済ませられるんじゃないか?」
「場所が絞り込まれているなら、グリフィンたちも向かってるか」
「五か所ほどあるけど? というかここ、七階建て……」
「一番近いところはさっきの木が伸びていた部屋……戻るんですか?」
溜息をつきながらも階段を降り木の根のもとへと戻ると、手榴弾を投げ木の根を吹き飛ばし部屋へと近寄る。
部屋の中には割れたガラスと怪物の破片、そして木の根の本体と思われる赤く丸い脈動する巨大な物体。
「部屋の中は、他と一緒。展示室みたいになってる、何あれ? 心臓?」
「なら先へ進もう、ここを見る必要はもうない」
足元では千切れた木の根が急成長し足元に絡みつこうとしていた。
「やっぱりこいつも怪物か」
部屋の中にいる木の幹のような物に銃弾を浴びせる。
内側からドロッとした赤い液体を流し幹が削れていく。
「もういい進め!」
いくら銃弾を浴びせても足元の根が動くを止めることはなく身動きが取れなくなる前に赤く光る刀身で絡みついてきたものを切除しその部屋の前を通り過ぎる。




