沈黙の楼閣 1
話している間に次の部屋にたどり着きマルティンが扉を開く。
しかしマルティンが扉を少し開いたところで、何者かによる力が加わり扉が内側から勢いよく開かれた。
「わぁっ!」
開くために扉の前にいたマルティンが吹き飛ばされ、そばにいたテンメイも驚きよろけ倒れる。
中に誰がいようと関係なくブラットフォードや起き上がったテンメイ、皆が銃を部屋の中へと向けて引き金を引く。
何重にも重なる音と乱射される弾丸。
扉を開けたそれは銃弾を受けてもよろめくことなくその場に立っていた。
「は?」
「これは」
複雑な文字のような模様の入った両手を前に伸ばした鬼の形相をしている黒い像。
座禅を組んだ姿でも大人の身長より高く人を模した筋骨隆々で座禅を組んだような姿、民族衣装のような体に長い布のようなものを巻いたそれは床から一メートルほど宙に浮いている。
「怪物!!」
「人じゃない!」
驚き後退するブラットフォードたちの間からウーノンが黒い機関銃を構えた。
「伏せろ!」
足を動かすことなく宙に浮いたまま移動し部屋を出てくる黒い像は機関銃の弾を受けて体が欠けていく。
「効いてる!」
前に伸ばした片腕をウーノンの方へと向けると黒い像の掌の上で空間が歪む。
歪んだ空間は球体となり音もなく弾ける。
と同時に黒い像の手のひらを中心とした場所から強力な衝撃波が迫ってきた。
「なッ!?」
機関銃を打っていたウーノンやその近くにいたブラットフォードたちが見えない力に吹き飛ばされて通路の壁まで飛んでいく。
ウーノンを狙い背中を見せた黒い像に扉の反対側にいたマルティンが赤く光る刀を持って飛び掛かり斬りつける。
黒い機関銃の攻撃を受け損傷した胴体に赤い刃は食い込む。
「硬い……」
一刀両断とはならなかったが剣は黒い像の一部を赤く光らせ融解させ、白い湯気を立たせて胴体に深くに浸透し傷をつけた。
木こりの斧のようにもう一度同じ場所へとむけて剣を振るうと、腕と首を動かす黒い像の体は二つに割れ同時に浮いていた体が床へと落下した。
「なんでここに怪物が、人はここは箱舟の中じゃなかったのかよ!?」
「わからないよ、騙されたんじゃないの?」
「人が怪物と一緒に行動しているのか?」
「箱舟は怪物の回収もさせてくる?」
地面に落ちた黒い像はそれ以上動くことはなく、ゆっくりと体全体に亀裂を入れながら砕けていく。
弾倉を取り換えるウーノンに近寄るベニユキ。
「大丈夫か? 衝撃波みたいのが見えたが」
「あんな攻撃をしてくるとは、驚いた」
「威力が高い銃じゃないと全く傷つかないな。人はどこにもいないし」
「そうだな。でも、これすら火力不足だと思った」
何人かが念のため部屋の中を確認し他に怪物がいないことを確認した。
勢いよく開いた扉に体を強く打ち付けたマルティンは片腕を押さえながらよろよろと前に出てくる。
「大丈夫か? 怪物に飛び掛かっていくとはな」
「痛むけど折れてはいないみたい。まだ戦えるよ」
剣を持ち直しマルティンは皆を見るように振り返る。
「一度戻ろう、怪物が出てくるなら強力な武器が必要だ」
誰も反対はせず頷きすぐに来た道を引き返しだす。
時折誰かが振り返り怪物の姿がないかを探す。
「あれは、怪物を飼いならしているんでしょうか?」
「番犬代わりにか?」
「部屋の中にいました中を確認しましたけど、ガラスケースはあれど檻のような物はありませんでした」
「あれだけなのか、あれがたくさんいるのか、あれ以外にもいるのか」
会話にテンメイが割り込んでくる。
「飼いならすってどうやってよ? 話も通じないし武器を持っていたって私らより向こうの方が強いんだよ? 犬を飼いならすとはわけが違う」
「ですけど、ここに人が居るんですよね。一緒に暮らしているってことなんじゃないですか」
「檻なんかなくたって部屋に閉じ込めておけばいいんだよ、私らが着たタイミングで部屋を開ければ勝手に戦いだすんだから」
「そういわれればそうですね。でも何のために閉じ込めて?」
エレオノーラの後ろでアンバーが答えた。
「生体の研究とかじゃないのかい? 通路でさえこんな感じに展示物が多い、流し見で一つ一つをしっかりと見ていないけど銃や何かの武器による損傷が付いている。戦いのトロフィーなのかもね」
「トロフィー?」
「倒した怪物を物としての記憶、勝利した思い出みたいな感じにさ」
「これ全部そうなの?」
「それはわからないけど」
箱舟の入口のある部屋を目指していると通路の奥から赤みを帯びた霧が流れてきて皆が足を止める。
「何だこれ、毒ガスか?」
「だったらもう戻れないってことか?」
霧の奥向かう先から聞こえてくる銃声。
不安を浮かべ顔を見合わせた。
「戦ってる」
「向こうにも怪物が出たか」
人とは思ない奇声が響く。
霧の中で何かが動きガーネットが銃を構える。
霧の奥からやってくるのは人影の様で複数人ベニユキたちのいる方向へと向かって走ってきた。
「オレンジ色の防弾チョッキ! 待て仲間だ!」
霧を潜り抜け何人かとアインが出てきて待ち構えていたベニユキたちに驚き銃を構える。
「待て待て味方だ!」
「あ、ああ、悪い」
お互いに武器を降ろし赤い霧の方を向く。
「危うく撃たれるところだった」
「こっちもだよ」
霧の奥からキュリル、グリフィン、テオと他何人かが霧の中から飛び出てきた。
「やぁ、ベニユキ君たちか。この霧の中は見えない何かがいる入らない方がいい。銃を撃ったがあまり戸ごたえもなく味方を撃つ可能性もある」
「ああ、見てて分かったよ」
そういって血の滴る大きく抉れるような切り傷を見せる。
傷を見たエレオノーラが慌てて応急処置をしにグリフィンたちへと駆け寄っていく。




