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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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暗い暗い闇の底 5

 キュリルが建物を見て立ち止まりベニユキたちも立ち止まる。


「どうした?」

「何か聞こえない?」


 耳をすませばどこからかコンクリートの建物をひっかくような音が水の流れる音に交じって聞こえた。

わずかに聞こえる音にキュリルは音の発生源を探そうとし、ベニユキも耳を澄ませてようやく音を聞きかける。


「小さい音だけど何か聞こえる、よく聞き分けられたな」

「私、連れてこられる前は音楽活動してたからかも。音の聞き分けが出たのは」


「そういえばどうしていつも銃じゃなくてそのバットを持っているんだ?」

「音楽じゃない五月蠅い音は耳が痛くなるから嫌いなの」


「そういう理由だったのか、生きるか死ぬかがかかってるってのに」

「私にとっては音楽できなくなることが死だから。はぁ、ギター欲しいな」


 ライトを照らして周囲を見ていると天上にぶら下がる白い塊を見つけて声を上げる。


「上だ!」


 声を聞いて手にしていた皆の一斉にライトが上を向く。

 天上からぶら下がる白い何かの無数の小さな目が光を反射している。


「なっ!」


 光を当てられ誰も何も言わずに銃を上へと向け引き金を引くが、同じタイミングで天井のそれらは飛び降りてきた。

 重たい音を立てて地面に落下してくるそれらは大型犬サイズの大きなネズミ。

 纏まって移動していたベニユキたちは落ちてくるの動く落下物の直撃避けるため、逃げ回り自然と三つのチームに分かれた。


「くそっ、分断されたぞ!」

「意図的ではないとは思うけど、向こうはただの獣だろうし」


 巨大ネズミたちに向かって放たれる鉛玉は白い体に吸い込まれていき無数の穴を穿つ。

 弾かれることもなく銃撃を受けて怪物たちだけでなく天井から光源のカバーか何かのガラスが降り注ぐ。


「ガラス片が降ってきてるな、ここの明かりは電気だったのか」

「箱舟の中みたいにパネル式なのかも、なんであれ破片は目に入れないようね」


 天上から降りてきた大きなネズミは熊のように立ち上がり牙と長く伸びた前歯で噛みついてくる。

 銃弾を撃ち尽くし弾倉を変えている最中に襲って来たため銃床を頭に打ち込み、ひるんだところで蹴り上げひっくり返すと起き上がる前にその頭を強く踏みつけた。


 暗く襲ってくる怪物の数もわからない襲撃。

 突然の戦闘にエレオノーラとガーネットも生き残るために銃を撃つ。

 銃を撃つ反動に振り回されながらも自分たちが生き残るために引き金を引いた。


「うぅ、生き物を殺してる……、肉が、血が」

「ネズミは病気を持っています、噛まれると危険かもです」


「この大きさなら噛まれたら手足を持ってかれるよ、病気うんうんの前に死ぬ」

「その調子で他のこと考えながら戦えば、吐き気も抑えられます。まず、生き残らないと」


 固い殻も鱗もなく十数発の弾丸受けてその体は地面に崩れていく。

 銃声が止み周囲に転がる死骸を見てベニユキとマルティンは大きく息を吐くき、後ろで肉片のついたバットを振りキュリルが同じように息を吐いていた。


「何匹いた?」

「死骸は二四匹くらいだ、離れたところのは数えていない。重傷で何匹か逃げてったからもっと多いよ」


「逃がしたならまた追ってくるんだろうか、死者は?」

「四人、孤立した時に一番数が少なかったところに集中して襲ってきたっぽい。落ちてきたこいつらに直撃して首の骨を折ったの二人と、噛みつかれ腹を掻っ捌かれたやつ。連れていかれたのか一人行方不明だ。怪我人は多い」


「望み薄だがまだ生きてるかもしれないけど捜索している時間はないよな」

「ううん、次の犠牲者が出る前に進んだ方がいいだろうね」


 倒した怪物たちをテオがライトで照らし、まだ息のある個体の頭に一発ずつ銃弾を撃ち込んでいく。

 改めての襲撃を警戒してベニユキたちがライトで周囲の建物の窓や天井を調べているとエレオノーラがやってくる。


「みんなの応急処置は済ませました。知らない生き物に噛まれた傷、薬が効くのかはわかりませんができることはしました」

「ありがとうエレオノーラ」


 弾倉を取り換え準備が整うと速足で歩きだす。

 大きな道へと入り乗り捨てられた車両の数がぐっと増える。


「広いですし上にも下にも階があって、結構な人口だったんでしょうね」

「なんであれ、今は誰もいない」


「武器を探してくるって言ってましたね?」

「データの入ったコンピューターを持ち帰るんだ。こう汚いとどうなってるのかわからないけど」


 距離を取ってネズミが追いかけていたのを見つけ発見の報告と何度か銃声が鳴った。


「追ってきてるか」

「もう一戦くらい盛大に戦いそうだね、今回も弾薬が足りなくなりそうだ」


「でもあれなら天井にさえ気を付けていれば対処が出来そうだよな」

「そうだね、でもあいつらはエレベーターを滑り落ちてきた奴じゃない。大きさが違った、白かったけどでかいのはもっとぬらぬらしてた」


「他の生き物がいることも気を付けないといけないか」

「今までの戦いもそうだったからね」


 またキュリルが何かを見つけ隣にいたテオが辺りをライトで照らして何かを探し始める。


「今度はどうした? 行き止まりか?」

「何って、あれ見ろよ。ネズミはあんなことしないだろ、何があんなことするんだよ」


 ライトの照らす先、通路を装飾するように等間隔に数個ずつ積まれた人の髑髏。

 自然と足が止まりそれらを無言でライトを照らしたのち、銃を強く握って一同は骸骨の並ぶ道を歩き出す。


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