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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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暗い暗い闇の底 2

 ただ少量の水だけが流れ出ている光を当てないと見えない暗い穴。

 天上が高く少し手を伸ばせば届くようなものではなく、そこから上の階に上がるにも数メートルほどの天井と上の階の床があり瓦礫などで足場を作っても上がれそうにはない。


「町があったってことは人が居たんだろうな?」

「ですかね、積もった埃から結構昔の様ですけど」


 流れ落ちてくる水は通路の端の方へと流れて行き床の亀裂に吸い込まれて消える。

 白い銃でエレオノーラは目的のものがどこにあるかを探っていた。


「目的のものはどこにある?」

「真っすぐですね、そして下の方、点滅してます」


「遠いか?」

「わかりません、緑色にぴかぴか光るだけなんで」


 真っすぐ通路を進み建物を出ると、圧迫感のある天上のある街並みが広がっていた。

 広いところに出たため銃を構えベニユキは辺りを照らし敵がいないかを探す。


「広い通路だと思ったけど、道路かここ? 外に出たのか、景色が大して変わらなくてよくわからないな?」

「車がありますね、一人か二人乗りの豆車両」


「なにかここの怪物の痕跡はあるか?」

「さぁ、車も壁も大きく傷ついていませんし。戦った後みたいなものなく綺麗ですよ」


 皆が建物を出て周囲を手にしたライトで広い空間を照らして、地形の情報を集めた。

 あちこちに乗り捨てられるようにとめられた車両、通路の左右を走る水路、そして立ち並ぶ廃墟。

 動くものの気配もなかったので皆四方に散らばり建物や車両を調べ、マルティンとウーノンが放置された車両の方へと向かって行く。


「電気自動車だね。屋内だから排気ガスは極力減らそうとしたのかね」

「水の音が聞こえる、よりむあっとしてきたな」


 テンメイが皆から離れすぎないように皆の立つ位置を気にしながら水音の聞こえる方向へと歩いていく。

 道の両端から暗闇の奥へとどこから繋がってどこへ行くのかわからない水路。


「ここ水路か、暗い水って水深が分からなくて怖いなぁ。暗いから足元照らしてないと道と間違えて落っこちそう」


 水はしっかりと排水されていないようで水路の水かさは高く通路に溢れんばかりで、テンメイは周囲を見回し水路の水深を調べられるような棒のような物を探した。


「さぁ、進もうか。目的地は真っすぐだが建物があって進めそうにない。地図がないからわからないが道なりに進もうと思う、皆それでいいかな」


 グリフィンの声が響きぞろぞろとかたまって歩き出す。

 棒を探していたテンメイも車の中を見ていたマルティンも慌てて集団の方へと戻っていった。

 左右に並ぶ建物を見ているとブラットフォードが背中を掴む。


「気を付けろ、そっちは老朽化し脆くなっているようだ」


 見れば目の前の道が大きくひび割れ不自然に凹んでいた。

 どこからか流れてきた水が凹みのひび割れへと流れて行き消えていく。


「気が付かなかった。天然の落とし穴だな、気が付かず進んでたらみんなで下に落ちるところだった」

「結構古い建物なんですね、もうずっと誰もいなくなって町だけが残った」


 皆に注意を促し地面の凹みを迂回して進む。

 途中に二階建ての二両編成の路面電車を見つけそこでまた休憩をはさんだ。


「どこもかしこも水が滴ってるけど、下の階は水浸しなんじゃないか?」

「潜る装備はないですし、水没してたらどうするんですかね?」


 誰かの悲鳴が聞こえ振り返ると誰かが高い壁に光を当てていて、皆その方角にライトを向ける。

 ライトの光を浴びてらてらと光る茶色い昆虫が壁に張り付いていた。


「うわっ、虫!」

「でかいな、掌くらいはあるんじゃないか?」


 光に照らされていた虫は素早い動きで建物の影へと消えていき、虫が嫌いなのかガーネットがアンバーにしがみつき震えている。

 どこかでドポンと何かが水の落ちる音がして何人かが振り返った。

 しかし見えるのは暗闇だけ。


「こうしている今も建物は崩壊中か。敵だけじゃなく急な崩落にも気を付けないとな」

「やっぱりここ、町一つが丸々入っているんですかね?」


「そうかもな、地震なんか起きたらみんな一気に生き埋めだ」

「わぁ、怖いですね。救助用の装備もないですし助からないですよね」


 上下へと向かう斜めにスライドする大きなエレベータを見つける。

 稼働は停止しており一同は不気味な機械のある施設へと近寄っていく。


「ここから下に降りるのか?」

「他に道もないし、電源の無く稼働していない。それに、階段もある」


 指さすのは点検か整備用の通路と思われる階段。

 ただ場所は一般人が入ってこれないように施設の奥の方に作られており、エレベーターの通る数炉を渡った先にあった。


 すぐにアインが施設へ入る人員整理用に使われていたポールから錆びついた鎖を引っ張ってきてグリフィンに渡す。

 それを受け取ったキュリルがテオに心配されながら手すりもなく足元も滑りやすく慎重に進んでいく。


「さぁ、次は誰が行く?」


 鎖を近くの鉄骨に巻き付けキュリルが親指を立てると一人ずつ鎖を持ち渡りだす。

 埃もたまり水もぬめりを持っていて、細い通路を滑ってそのままエレベーターの通る坂を滑り落ちていかないように手を握って進む。

 全員は一気に渡れず、八名ほど先に渡っていった者をキュリルが引き連れ階段を下りていく。


「さぁ、昨日のように敵が集まってくる前に素早く終わらせよう」


 次にベニユキとエレオノーラが鎖を掴んで渡っていく。

 話を聞いていたブラットフォードが尋ねる。


「私は死んでしまったようだが、昨日も大変だったのか?」

「まぁ、死にかけることには変わらないよ」


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