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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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悪臭放つ大地 3

「なら、階段から行こう」


 皆の意見を聞いてエレベーターの横にあった非常階段の扉を開けると、そこは崩れた瓦礫で塞がっていた。


「いきなりドン詰まったな」

「そうだね、向こうにエスカレーターがあったから向こうに行くかい?」


「広い空間だから誰かに見つかりそうだけど、閉じ込められた空間よりかはましか?」


 巨大な施設で吹き抜けの突き出るように作られたエスカレーター。

 外から入り込む砂が積もり時折ぎこちなく止まりかかる、それに5人は乗ってゆっくりと下っていく。

 エレオノーラがマルティンに尋ねる。


「この散らかってるゴミ、なんかいろいろありますね? リュックや紙の皿、カップめんの容器。誰かここで暮らしていた?」

「野盗かなにかがいるのかも、さすがにこれでこの建物が正常に動いているとは思えないし誰かが利用しているんだろうね」


 テンメイとウーノンが呟く。


「電気があるのは? 本来使っていた人がいないなら電気いらなくない?」

「……建物のどこかに発電機か発電所があるんだろう。砂が舞っていたが日差しも強い、見てきた中にそう言ったものは見られなかったが、太陽光か風力発電程度なら建物一つ分の電力は生み出せるだろう」


 エスカレーターに乗ってゆっくりと降りていくと、各階に大掛かりな機材が置かれたガラスの壁で仕切られた部屋がある。

 次の階へと向かう途中にそれらを見てエレオノーラがベニユキに尋ねた。


「いくつかの部屋にベットっぽいのが見えますし、元は病院ですかね?」

「待合室っぽいのがなかったしだとすれば表に看板くらいはあると思うけどな。でも店や工場って感じもしないな」


「だとしたら研究所とか? 見たことはないんです、勝手なイメージですけど……」

「そう言われてみるとしっくりくる感じだな」


 下の階から聞こえてくるけたたましい銃声。

 その音に全員が体をこわばらせて音の発生源もわからないままベニユキとウーノンが銃を構えた。

 滝のような銃声が建物中に反響しそれを聞いた全員その場に固まり、少し遅れて何が起きたかを調べようとする。


「戦闘が始まったんですか?」

「じゃないか、とりあえずエレオノーラは後ろに下がって。テンメイも」


「敵は」

「音が反響しててわからないどこで戦っているのかも」


 震えるエレオノーラ。


「怖い」

「こんなの怖くない奴なんていないだろ、しっかりしろパニックになるなよ」


 少しして銃声が止まり再び恐ろしいほど静かになる屋内。

 音を聞いていた5人は顔を見合わせテンメイがベニユキに尋ねる。


「おさまった?」

「どっちだろうな、勝ったのか負けたのか。誰が戦っていたかわからないけど」


「あぁ、引き返したいもう帰りたい」

「それでも記憶を取り戻したいから俺は進む」


「ちょっとくらいの弱音はいいじゃない!」

「まぁ、本気かどうかわからないからやめてくれ。あと大声は出さないで」


 エスカレーターに乗って下っていくと下の階に逃げ回る人影を見つけた。

 彼らは白い拳銃をどこかに向かって撃ちながら走ってベニユキたちの死角へと消えていく。


「今、向こうに誰かいたね」

「逃げているように見えました」


 恐る恐るエスカレーターで移動し下の階に降りる。

 白い銃をかざして緑色に光る銃口を頼りに目的の物の場所を探ると、白い銃はまだ下を指していた。


「まだ下があるみたいだ」

「とはいえエレベーターも階段もこの階で終わりだったぞ?」


 マルティンとベニユキ、テンメイが銃を下に向けながら他に下に向かう方法を考える。

 震える手で銃を持つテンメイは辺りを見回す。


「どこかほかに階段はないの、早くあのミカとか言うのが言っていたやつを見つけて帰らないとここはまずいって!」

「エレベーターホールの横の階段は? 上の階は崩れていたけどこの階まで壊れてるとは限らないし」


「よし他に案もないしとりあえず行ってみるか」

「ここにいても始まらない」


 通路の奥に人影が見えた。

 人影には黒い靄のようなものがかかりゆっくりとベニユキたちの方へと歩いて来ていて、周囲を見ていたエレオノーラがそれに気が付き指をさす。


「あ、あれ、人です」

「まただれか逃げてるのか? それとも敵か、注意」


 向かってくるのはベニユキたちとは違う服装。

 あわててマルティンが叫ぶ。


「僕らとは服が違う、ここに住む人間だ隠れて!」


 一斉に今降りてきたエスカレーターの裏に回り込んで盾にして隠れる。

 そして向かってくる人影を警戒してそれぞれ銃を構えた。


「数は一人っぽいですね。巡回?」

「さっきの音を聞いて出てきたのかもな、武器持ってたかどうか見てなかった。防弾チョッキとか着ていたら俺らのこの武器は通用するのか?」


「どうします?」

「た、戦う……でも少し様子を見るか?」


「逃げるのにもたついたから、もう見つかってますよ」

「でも武器みたいのは持ってなかった。一瞬だったから見落としただけかもだけど」


 距離を詰めるために走るわけでも足音を消して慎重に近づいてくるわけでもなく人影はゆっくりと近寄って来ている。

 近づいてくる足音に5人は心臓を押さえつばを飲み込む。


「相手は一人だし取り押さえるか? なんかできる気がする」

「相手が武器を持っていたら誰か撃たれちゃいますよ?」

「ここにいたって危ないでしょ」


 隠れているエスカレーターの後ろから声がかかってくる。


「そおに隠れているのはられだ?」


 呂律のまわっていないかのような声にエレオノーラとテンメイが驚き体が小さく跳ねた。

 歩いてきた相手はエスカレーターから少し離れたところで立ち止まる。

 息を殺し静まり返りどこからかやってきたベニユキたちの耳元で蠅の羽音がうるさく響く。


「……俺がやる」

「ウーノン」


「すでにどこかで誰かが戦ってる、こうなったら戦うしかないだろ」

「……わかった」


 見かねたウーノンがそういうと物陰から飛び出て拳銃を撃つ。

 射撃の音は小さく、ツタッと小さく弾ける音。


 いきなり頭を狙う勇気はなくウーノンは足を狙って何発も撃たれそのうちの一発が相手の足に当たる。

 ベニユキたちに誰かが倒れる音が聞こえてきて遅れてマルティンたちが飛び出た。


「殺しちゃったの?」


 まだまだ弾は残っているが惜しむことなく新しい弾倉を取り換えるウーノンに隠れていたテンメイが尋ねる。


「いいや、……足を撃ったつもりだ。痛みで声を上げないのが不思議だが」


 ベニユキがそっと様子をうかがうと撃たれた男はゆっくりと立ち上がっていく。

 撃たれた男の足の部分には白いものが蠢き傷跡を塞いでいる。

 青紫色の肌に蠅が集り耳障りな羽音が響く。

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