合間のブレイクタイム 3
目を覚ましベニユキは服を着替えながら夢を思い出しフッと笑い呟く。
「ルナ……か、出会ったとき、若かったな。今になってやっと名前を……。いや、なつかしい記憶だったな。……あいつは今どこで何をしているのだろうか、ここで出会わないのだからこの施設にはとらわれていないのだろうか」
着替えて部屋を出ればベニユキを待っているエレオノーラの姿があった。
「おはようございますベニユキさん。みんな、先に行っていますよ。今日も……頑張りましょうね」
「おはようエレオノーラ、体調は大丈夫か?」
「はい、いつもですけど昨日のこと夢に見ることもなくぐっすり寝て体も元気です。あ、そうです、私ここに来る前は看護師してたんですよ今日、夢の中で思い出しました」
「看護師か、確かにエレオノーラにはぴったりな仕事だな。それじゃあみんなのところに向かうか」
「あ、先に行っていてください、私はアンバーさんとガーネットを待ってますから」
「そうか、ならあの二人こと任せていいか? 俺はマルティンたちのところに行く」
「はい、私は二人を待ってます」
廊下を進み青白い光で照らされている礼拝所へと向かう。
ベニユキたち昨日の戦闘を生き残ったメンバー以外は礼拝所の左右の扉が解放され新しく増えた施設の探検をしていた。
礼拝所へとやってくると部屋の近くの長椅子に座っていたマルティンがベニユキを見て近寄って来る。
「おはよう、また今日が始まったね。今日はどんなところに送られるのやら。初日が一番安全な仕事だった気もしてきたよ」
「そうだな、日に日にひどくなっていってる。なのに悪夢の一つも見ないのだから困ったものだよ」
がっくりとマルティンは肩を落とす。
「テンメイも精神的に昨日は参っていた。戦闘の疲れは見えないところで溜まっていっているのかもしれない、今日も何人かがパニックを起こすかもしれないね」
「何とか今日も生きて帰りたいな、何と戦うか知らないが」
「ああ帰りたいね、できればみんなでね」
「そうだな」
話しているとエレオノーラがアンバーとガーネットを連れてやってきて合流する。
ややテンションの高いアンバーがベニユキとマルティンに話しかけた。
「おはよう、昨日あんなことがあったのに自分でもびっくりするほどよく眠れた。それに不思議な夢を見た、思い出せなかった昔の自分のようだった」
「ミカが返してくれる過去の記憶だよ、正真正銘のここに来る前の記憶。なんでここに来ることになったかわかる記憶を思い出してくれればいいんだけど」
礼拝所の広い空間の左右にある開いた扉に何人かが出入りし、施設が何なんかを調べに行くのが見える。
新たな施設を興味深げに見ているブラットフォードの姿が見えベニユキたちはそちらへと向かう。
「おはようベニユキ君、エレオノーラさん。開かなかった扉が開き新しい場所が増えているがこれを見るに、私はまた死んだのか? それとも今日新たにこの個所は増えたのか?」
「えっと、はい……。お風呂と談話室みたいな場所が増えました。昨日、キュリルさんやガーネットと一緒に入ったんです、お風呂広いんですよ! 泡も電気もいろんな成分が入っているのも、サウナもありましたよ」
アンバーとガーネットに軽く会釈しブラットフォードはエレオノーラに向き直る。
「そうか、まだ見ていないけど時間があったら後で見てくるとしようかな。ああ、私がどんな死に方をしたかとか言わないでくれ、聞きたくはない」
「わかりました」
開かれた扉の奥を見るブラットフォードたちの横でベニユキたちも壇上にミカが現れるまで席に着いて待つ。
同じく席に着いたマルティンがため息交じりに呟く。
「今日はどんなところへ行かされるんだろうね」
「そろそろ心癒されるようなかわいいところがいいですね。遊園地とか動物園とか、そろそろそういうとかでもいいと思うんです」
近くに座っていたエレオノーラが相槌を打ち聞いていたベニユキが呆れ気味に止めた。
「やめろやめろ、あのAIが聞いていたら本当にそこに送られるぞ。ファンシーな着ぐるみやメルヘンな遊具と戦うのも怪物になった小動物とも戦うのも嫌だぞ。無事に元の生活に戻された時、家族と楽しめなくなる」
「そ、そうですね。戦うのは嫌です、怪物と戦いたくはないです」
顔を青ざめさせエレオノーラは様子をうかがうように天井を仰いだが、施設内に変化はなく照明は青白い光を放っていて静かで変化はない。
ベニユキたちが席に着いてから少したって施設内にミカの声が響く。
『皆様おはようございます、エレベーターホールへとお集まりください。これから説明を行います』
そして皆が礼拝所に集まるとすべての扉が閉まり室内が暗くなった、そして舞台の上に光が集まっていきホログラムのミカが現れいつも通りの説明が始まる。
生き残ることができず何度目かの初めてで戸惑う者や、また戦闘が始まると重たい空気を纏ったものたちとで別れながらもミカの説明を聞き用意された武器を持ち舞台へと上がっていく。




