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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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合間のブレイクタイム 2

風呂に入り体が冷めないうちに眠りにつく。

夢に見るのはミカから返される過去の記憶。


広くうす暗い部屋の隅で明かりを置き工具を手に機械の塊をいじる白に近い金髪の女性。

その横でベニユキは警棒を持って周囲を見ていた。


「……あの」

「なんだ?」


何かのふたを開け、鞄から小型のパネルを取り出すと奥から引っ張り出した配線をいじりながら女性はベニユキに話しかけkる。


「そろそろ名前、教えてくれてもいいんじゃないですか? 私は初めましてで自己紹介したのに」

「別に、関係ないだろ。同じ会社じゃないんだ」


「今回限りとはいえ同じ仕事をしているんですから」

「社長からは何も言われていない」


「下っ端は上の意見を聞かないと行動が出来なくて大変ですね」

「なに?」


パネルと装置をつなぎ終えると彼女は立ち上がる。


「すまないね、時間をかけたよ。準備、終わりました」

「別にいいよ、それより行こうぜ。もうすんだんだろ、ここに用はない」


「すぐに電源が付く、扉の前に移動しましょう」

「下がってろ、開いたとたん襲われでもしたら気分が悪い」


「下の階にいる可能性が高く、こちらのルートにはいないと思うんですけどね」

「万が一を引いて殉職した同僚の話するか? 俺と同期で就職してその初任務で勤務時間三十三分で体が炭化しちまった」


バタンと配線を押し込めハッチを閉めると機械パーツがひしめくバックを担ぐ。


「ここからが大変だけど大丈夫か?」

「除染済み汚染度は限りなくゼロに近い、施設内の空気はすべてグリーンカラー。この奥はクラスC災害、放射能実験による産物の徘徊する地下実験棟。私はサンプルの回収」


「俺らはセーフティーエリアに逃げ込んで助けを待つ研究員の保護」

「お互いここから先は目的からバラバラになりそうですね。持ち帰りやすいサンプル見つかればいいのだけど、実験用ラットって話だし捕縛ネットで済みそう」


「武器はなさそうだが大丈夫なのかと」

「最近のパワードスーツは全身タイツのものまであるんですよ。防御力と持続力が低めなんですけどね、火とか吹かない限りは何とでもなるはず」


「死ぬなよ、さっきまで生きていたやつを死体袋に入れるのは目覚めが悪いからな」

「死にませんよ、私は夢のためにお金をためてるんですから。夢の研究ために」


暗かった施設に電気が付き閉ざされていた分厚い扉の横についていたランプが黄色く光点滅する。

二人はその扉の前に移動し開閉を待つ。


「夢の? 何の研究をしてるんだ?」


ベニユキの持つ装備から他の仲間たちの声が聞こえ、もうすぐ扉が

「ん、人に近いAI開発。そのために思考回路の研究をね、どれだけ文明が進んでてもいまだに完成が遠い技術だよ」

「今のAIだって十分人に近いだろ、違うのか?」


「今のAIとは違うんだ、あれは情報の蓄積から最適解を選んで答えるだけ。私の目指すAIは命令されてからではなく、自分で考え主が何を求めているかを導き出す……長年連れ添った夫婦が何も言わず通じ合うような、ドラマとかで見るお屋敷のハイスペックな執事さんとかみたいな」

「完成したら人が堕落しそうだな」


「人が便利を目指すことは悪いことじゃないでしょ、依存しすぎることがよくないの。私はこの作ったAIを病院とか学校とか務める人によって質が変わるような場所を整えたいだけ」

「なんで学校と病院? それくらいできるなら他の公共施設やレジャー施設の建物の管理だって使えるだろう」


「私はちゃんと学校で学びを受けていないんだ、そして両親はいい加減な診療で死んだ」

「そうか、機械に強い人間がこんなちっぽけな職について何してるのかと思えば」


「まぁ、機械に強かったのは昔から学校が問題から目を背けていたから、学校には行かずずっと機械をいじってきた。この仕事は私の趣味がいかせたし、機械に強くなるってことで必要経費として勉強もさせてくれる」

「そうなのか」


扉の前に立つと分厚い扉が開きだす。

人もそれ以外も中の物を何としても逃がさないようにと作られた分厚い扉が開いていく。

そんな扉を見て彼女は一歩後ずさる。

背にした武器を握りなおす彼女を見てベニユキはフンと鼻で笑う。


「なんだ、怖いのか?」


彼女は俯き気味に先端に缶詰のような物が付いた銃を構えて軽く笑って見せる。


「まぁ少しね、実験用ラットと言われてもミュータント化しているわけだし。……痛いのは嫌だ」


扉が開くと二重構造で奥に同じ様な扉が待っていて、二人が一枚目と二枚目の扉の間に入ると外側の扉が閉まり内側の扉が開き始めた。


「全く、飛んだ素人が来たもんだ」

「なにさ、こわいもんは怖いだろ。誰だって死にたくはないはず」


二枚目の扉が開く歩き出すベニユキ、その後を追って彼女も腰が引けたまま歩きだした。

進むと背後で二枚目の扉も閉まりだす。

ベニユキは仲間との無線を何度かやり取りしちらりと後ろを振り返る。


「……まぁ、脅威を排除しておけば安全に助け出せるか」

「なに?」


「捕まえるの、手伝ってやるよ。その……へまして逃がされるのも面倒だからな」

「え! あ、ううん、ありがとう」


「ベニユキだ、名前」

「あ、ああよろしくねベニユキさん」


「それで、ええっと……なまえ……」

「ええ!? 自己紹介したのに……、ルナです。よろしくお願いします。ベニ、ユキ、さん」

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