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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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私は人形 3

 重機関銃から吐き出される銃弾が体を削るが、体がグネグネと動いているためか二門の重機関銃の無数の弾が数発しか当たらない。

 それでも弾が命中するたびおよそ金属に当たったとは思えない雷のような激しい音が響く。


「おい、大丈夫か?」

「なにが?」


「鼻、血が出てる」


 テオに話しかけられキュリルは自分が鼻血を流しながら射撃していたことに気が付く。

 同じように銀色の像を狙って射撃するアインも彼自身は気が付いていないが鼻血を流している。


「でも止まらないから」


 足がもげ腕が落ちても手足の一本程度など気にも留めず銀色の像はエレオノーラたちを無視して重機関銃へと迫り長い腕を振った。

 木々が折れ倒れた衝撃で地面が揺れて怪物を狙っていた銃身がぶれる。

 荒ぶる弾丸が細い枝を吹き飛ばし木の葉と木くずが舞う。


 損傷しながらも向かってくる怪物は一向に止まる様子もなく、逃げてオートマトンの付近の集まってきた生存者たちはオートマトンの背に乗って重機関銃を打つキュリルらをその場に置いて逃げ始めた。


「あいつら、薄情だな」

「テオも逃げて、向こうは差し違える気だ」


「バカッ、置いて行けるかよ」


 そういってキュリルの持っていたバットを手にし迎え撃つようにオートマトンの前へと出る。

 銀色の像はあっという間にそばに寄ってきた。

 何発もの銃弾を受け頭にある三つの穴以外に黒い穴が増え、その穴のすべてから風の抜ける音が響いている。


「今のうちに逃げるぞ!」

「うん」


 敵の接近にもオートマトンは微動だにせずアインが銃座を動かし重機関銃をそばまで迫った像へとむけようとしている。

 迫った細長い腕をテオがバットを振り回して弾き返す、その間にキュリルは銃座から飛び彼とともに降り逃げた。

 長い指で重機関銃をむしり取り先に逃げていった物たちへとむけて投げつける。


 複数の足でオートマトンを蹴飛ばしキュリルたちの方を見て追いかけようとする銀色の像が別のオートマトンのアインの銃撃を受けよろめく。

 咄嗟に重機関銃をむしりとったオートマトンの体を持ち上げ盾にしようとするが、足やエンジンなどに複雑な機械が入っている以外は単純なつくりのオートマトンの体を弾丸は容易く貫く。

 そしてまた腕が一本落ちる。


「このまま押し切れ!」


 撃ち続けるアインに向かってベニユキが叫ぶ。

 だがそれはいつの間にかそばに迫ったグリフィンによって否定された。


「駄目だ逃げるぞ!」


 そばにマルティンもおり声を聞いたアインが銃座から降りる、ベニユキが振り返れば背後の赤と白の敵の影。

 さっきまでマルティンが撃っていた重機関銃によって多少の数が減り始めたとはいえその数は数え切れずふもとまで行列が並んでいる。


「すまない物量に押され対処できなくなったよ」

「生き物でもロボットもないこいつらは何なんだ」


 銀色の像と違って赤い鉄の人形は銃撃を受け穴の開いた個所からどろりとした液体を流していて動くたびにゴポゴポとあふれ出ていた。

 ベニユキは最後に一発対戦車兵器を撃ち込むグリフィンたちとともにエレオノーラと合流し気を失ったアンバーを背負う。


「駄目なのか……、それで逃げるってどっちに」


 見れば銀色の像がこちらへと向かって来た事から山頂へと続く道には何の姿もない。

 背後で大きな音が聞こえ振り返ると赤い人影がオートマトンにぶつかり破壊していた。


「やはり飛び道具は無いようだ」

「だからって、この事態どうしようもなかったけどな。でも逃げてどうする箱舟の入口は……」


 箱舟の入口はオートマトンの残骸の上に浮いている。

 エレベーターは降りてこず追加のオートマトンもない。


「だが、ここにいても囲まれるだけだ逃げるしかないだろう」


 地面が弾け大量の土が舞い上がった。

 銀色の像が赤い人形を掴み投擲してきている。

 山の斜面に突き刺さった人型は体にひび割れを入れ液体を流しながらも動き出すが、地面に深くめり込み小刻みに震えるだけ。


「まだ望みは薄いが可能性はある」

「ここから勝てるってのか?」


「あの銀色を攻撃したら、奴らの動きが鈍くなった。どういうわけか知らないが白い奴は姿を消してみていない」

「あの銀色を倒せば?」


「かもしれないという話だ、どうせ死ぬかもしれない。ならば最後に一度試してみないか?」


 二度目の投擲が飛んできて逃げる一人に直撃し派手にしぶきを上げて散らばった。

 残るはベニユキ、エレオノーラ、マルティン、テンメイ、ウーノン、グリフィン、アイン、テオ、キュリル、アンバー、ガーネットの十一名。


 グリフィンが対戦車兵器の弾を詰めなおしながら言う。


「ここにいる十一名であの化け物を倒す。この弾が最後のロケットだこれを当てて仕留める。皆はそれに協力してくれ」


 キュリルたちは覚悟を決め武器を構えなおし、マルティンたちが弾倉を取り換える。

 ガーネットも人形の下敷きになったものが持っていた銃を拾って見様見真似で武器を構えた、


「エレオノーラ、彼女たちを頼む」

「私も……、はい。任せてください」


 ベニユキは背負ったアンバーをエレオノラに託しガーネットと共に下がらせる。


「行くぞ!」


 三度目の投擲から回避しながら四方に散らばり通じないとわかっていても怪物に向かって各々銃撃を開始した。

 命中率の悪い赤い人形の投擲をやめ銀色の像は散らばったベニユキたちへと向かって走り出す。


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