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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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私は人形 2

 道の先にいる銀色の物体を見てベニユキは周りに警告する。


「みんな止まれ」


 逃げていたウーノンたちは来るときはなかったそのオブジェを見て足を止め固まった。


「何だれは」

「来るときはあんなものなかったぞ、それにあの足元の赤いの血じゃないのか?」

「あれも敵なのか」


 その像には不思議な力があり、なぜか見ているだけで不安や恐怖が心のどこからか渦巻くように湧き上がってくる。


「あれと、たたかうのか……?」


 その時、銀色の像の顔が少し歪み笑ったように見えた。


 ふと笑っていたアンバーが静かになり、落ち着いたと思いガーネットは少し力を緩める。

 何を思ったかポケットから白い銃を取り出すとゆっくりと自分の頭へとむけた。

 そして迷いもなく引き金に指をかける。


「駄目!」


 不審な動きに気が付いたガーネットが慌ててアンバーの持つ白い拳銃を力任せに奪おうと手を伸ばす。

 銀色の木を見ていたエレオノーラも我に返りアンバーの凶行を止めようとして飛び掛かった。


「ハハハ、どうして邪魔するんだい?」

「こっちのセリフです! 何をしてるんですか、アンバー!」


 元々腰を抜かし倒れるような姿勢だったアンバーの両手を掴み銃を空に向けさせる。


「こうしないと、呼んでる。私もガーネットもほら」

「誰が! 正気に戻って!」


 押さえつけられてもなお白い銃を頭に向けようとするアンバー。

 抵抗した時に鼻をぶつけたのか彼女の華からはとめどなく血が流れ出ていた。


 こうしている間にも前にも後ろにも行けずそうしている間にも最後尾で戦うグリフィンたちが迫ってくる。

 アンバーの持つ白い銃の銃口が自分自身ではなく腕を押さえて止めようとするガーネットへと突然向く。


「だいじょうぶ、こわくない、わたしたちは、ひとつになるんだ」

「ガーネット!」


 引き金が引かれた。

 しかし銃口が緑色に光るだけで弾は出ない。


「おや?」


 弾が出ずカチカチと引き金が引き続けた。

 二人がかりで彼女の手から白い銃をもぎ取る。


「故障?」

「たぶん、味方誤射しないよう安全装置がかかってるんだと思います……AIの判断で?」


「たすかった~」


 エレオノーラたちが抵抗するアンバーから銃を取り上げている頃、ベニユキはグリフィンの方へと引き返していた。


「道を変えよう、このままは進めない」

「どうした?」


「降りてすぐに見たオブジェだ、待ち伏せしている」

「まだ数発対戦車兵器が残っている、大きな怪物なら当たるだろう」


「たぶん、ブラットフォードたちを殺したのはあいつだと思う、奴の体に血が付いていた。来る時見ただろ、轟音と空を飛んでいくロケットをよくわからないが向こうは攻撃を躱せるのかも」

「そうか、だが立ち止まることもできん。見ての通り、後ろは人形でぎっしりだ」


「打つ手なしか」

「銃弾も無駄うちせず白いのにしか撃っておらん、だがじり貧だな」


 一瞬空が暗くなり見上げれば空に浮かぶ物体。

 銀色の像を見ていたマルティンが叫ぶ。


「箱舟の入口だ! 迎えが来た!」


 皆が空を見上げ安堵の声を漏らすと道の先で待ち構えていた銀色の像が動き出す。

 上半身を金属の硬さなど感じられないほどグネグネと揺らし手で周囲の木々の枝を掴み、金属の足を地面にめり込ませ泥を飛ばしながら複数の足を虫のような動きで歩き迫ってくる。


「来たぞ!」


 赤や白の人影たちとは比べ物にならない程早く足止めのために銃を撃つが、銃撃は無意味で金属の体に食い込むことなく弾かれた。


「手榴弾を投げる!」


 テオが銀色の怪物の進路に手榴弾を投擲する。

 銀色の像は投げられた者から距離を取るように足を止め横に飛んで迂回し、何もない空間で手榴弾が爆発した。


「気持ち悪い動きで躱しやがった、くそ素早いな!」


 ジャラジャラと太い鎖が音を立ててエレベーターが降りてくる音が聞こえる。

 銃を撃っていて気が付かなかったグリフィンたちもちらっと空を見上げた。


「迎えか!」


 しかし降りてきたのはオートマトンだけで人が乗れる昇降機はいつまで待っても降りてこない。


「くそっ、こんな状態でも鉄を集めろってか!?」

「上に乗っているものを見ろ」


 その背に乗っていたのは固定された銃座に乗せられた重機関銃を見て叫ぶ。

 オートマトンは箱舟の入口から離れるように動いた後足を折りたたみ停止する。


「銃座は手動だ、乗り込んで撃て! 厄介な方からだ」


 グリフィンが叫び指示を出すと同時に二機目の重機関銃オートマトンが降りてくる。

 足を折りたたんで動かなくなった一機目にキュリルが辿り着き、二機目にアインが向かう。


「こんな機関銃あった?」

「これ饅頭戦車の砲塔に乗っていたやつか?」


「私を撃ったやつか」

「銃の大半は砲塔の中だったからなよくわからないが、時期的にそうだろ?」


「これ動かし方は」

「横のハンドルだ、仰角俯角は赤いレバー」


 二人は銃座を動かす。

 狙いは銀色の像。


「う~ん旋回が遅いな、装弾数何発だろ」

「かまうな、敵を倒せそれだけだ」


 三機目が降りてきたのを見てアインが引き金を引く。


「確かに」


 皆が持つ突撃銃とはけた違いの音が大きく重たい。

 音に見合う威力はあるようで木々や苔むした岩が数発で砕け散る。


 狙われた銀色の像が木々を掴み足をばねにして飛んだり急旋回してよけようとするが弾丸に追いつかれその体に穴が開く。

 その瞬間、雷にも似た大きな鉄板を叩くような音に暴れていたアンバーが気を失う。


「エレオノーラたちはそのまま伏せてろ!!」


 ベニユキは三人のもとに向かうか考えてすぐに姿勢と低くするように銃声に負けないように叫んだ。

 テンメイの手を引いてウーノンがオートマトンの方へと向かう。

 木々を刈り取る勢いで連射される重機関銃の弾にうっかり薙ぎ払われないように皆がオートマトンのもとへと集まり、三機目のオートマトンにマルティンが乗り込んだ。


「マルティン君は、後ろの赤い奴らを任せられるか!」

「ああ、そうだね」


 マルティンが動かす銃座はグリフィンの指示に従い背後の赤い人影とそれに交じる白い人影の方へと向け、同じように射撃を開始した。


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