偶像創造 4
まだ見ぬ怪物の足跡を道なき道を追いかけていくのは危険と判断し山道へと戻る。
「追っかけないのか?」
「相手は派手に大立ち回りをしたというのに足跡しか残っていない全く不明な存在だ。警戒を緩める気はないが足元が悪い場所で戦うのはこちらが不利だ。安全な道を進もう、我々の目的は金属を集めることだ。無理して得体のしれない敵を追うことじゃない、向こうが出てきてくれるのを待とう」
落ち葉がいくらか積もっているも比較的歩きやすい舗装された道を進んでいると、分かれ道と道しるべを見つけた。
片方は別の山へと延びており、もう片方は山のふもとへと続いているよう。
キュリルと一緒に先を進んでいたテオが報告する。
「あと一キロほどでふもとに出るそうです。長いですね」
「まぁ、ロープウエイがあるくらいだからな。普通は向こうを使ったんだろう」
二人の会話で一キロと聞いた何人かがその道のりの途方の無さに溜息を吐く。
一同は道しるべの前で一度休息をはさみ、数少ない情報の交換などを行った。
何人かは対戦車用の武器を背負っているため、一度降ろして反対側の肩で背負いなおす。
敵がいつまでたっても出てこないことから緊張が解け始めており、先ほどの戦闘跡は何だったのか何と戦っていたのかと話し声が増え始めた。
「何か居ます!」
いつまでもここにいても仕方ないと休息を終え歩き出そうとしていた時に聞こえてきたエレオノーラの声に皆が一斉に武器を構える。
「どこにいる?」
「そこの、木の陰に人影が見えました!」
放していた者たちも黙り込み辺りは静まり返ると、エレオノーラの指さす方へウーノンが白い機関銃を構えて慎重に歩いていく。
ある程度奥まで行ってから周囲を確認しこちらに振り返った。
「誰も、いないぞ? 落ち葉が踏み荒らされた跡もない」
「見たんです頭まで白い服で包んだ人影、箱舟の見せた画像に移っていたやつみたいなのが一人こっち見ててスーって」
「揺れた木に当たった光とかの見間違いか?」
「違うんです……ほんとに人影でした」
その後ももう少し奥まで進んで人影を探したが結局見つけることはできず、エレオノーラの見間違いということで一同は下山に戻る。
そして山を抜けてふもとに降りてきた。
森を抜け視界が開けてると売店とロープウェイ乗り場を超え駐車場の先に町が見え、山を抜けたことで何人かが喜びの声を上げた。
山を下ったことにエレオノーラが喜びながら疲れた声を上げる。
「やったぁ、町だぁ……」
「お疲れエレオノーラ、やっとふもとまで降りてきたな」
「山二つ超えました、今までより移動に時間がかかりましたね」
「そうだな、あの巨大樹の森を歩かされた時以上に歩いたな」
「あの時は休む時間がありましたね。今日はこれから戦って鉄を探すですよね」
「そうだな、他のみんなも疲れてるしさっきのこともあって不安が尽きないな」
周囲をそわそわと落ち着かないように見渡しながらガーネットの手を引いて青白い顔をしたアンバーがやってくる。
「ベニユキ君!」
「どうしたアンバーさん?」
「ほ、ほら周りを見てさ、気が、付かないのかい?」
「え、なにが?」
「この駐車場にほら、あっただろう……この駐車場にさ、奇妙なオブジェが……」
言われてベニユキも辺りを見回す。
山の上で双眼鏡で見たロープウエイ乗り場の近くにあったはずの奇妙なオブジェがない。
「そういえば……ないな」
駐車場の真ん中に落ち葉一つ落ちていない不可解に綺麗な円があるだけ。
「さっきの戦闘音を聞いて、誰かが運んだとかならいいんだけど」
そういってアンバーは地面を見る。
何か重たいもので叩かれたように一定の間隔でひび割れたアスファルトが山へと向かって点々と続いていた。
「まさか、動いたのかあれが?」
「君が言い出したんだろうそれはないって。運んでいった……いいや無理があるね、やっぱり」
「少し話をしてくる」
「信じてくれるとは思えない、狂人だと思われないかい?」
「悪夢よりひどい世界を戦ってきたから半分は信じてくれるだろ」
いまだに敵の存在が確認できずグリフィンは街の様子をうかがっていた。
道は落ち葉などが片付けられておらず車両の通った跡を感じられないが、建物は綺麗で外観に損傷は見られずまだ人が住んでいそうなほど。
周囲も山の上から見たときと変わりはなく怪物が暴れたような破壊の後はどこにも見られず皆顔を見合わせて首をかしげていた。
「さて、ここまで何も出てこないこともあるんだな。皆の集中力も切れているし隠れてまた休憩をとるとするか」
「グリフィン!」
「どうしたベニユキ君、何か見つけたか?」
「今回の敵は、おそらく金属のオブジェだ」
「ベニユキ君が山頂で見ていたやつか?」
「この駐車場にあったが消えている。そしてこの足跡だ、信じたくないが」
「ロボットではないんだろ」
「ああ、人で手やら足やらのパーツが増えた感じの柔らかい様なぐにゃぐにゃしたデザインのやつだ」
「なら今回は数メートルの金属の化け物ということか。説明するのがめんどい奴だ」
少し悩むとグリフィンはマルティンたちを集めベニユキの報告したことを伝え始めた。
報告を聞き足跡が続いている山の方を向く。
「これってもう戻れないんじゃないかい?」
「そうだな。戦うのに変わりはないけど逃げ道ないってのは怖いなマルティン」
良く見えないが白いものが家の窓からこちらを見ている。
それをいち早く見つけたグリフィンが銃を構えながら叫ぶ。
「さぁ始まったぞ、様子をうかがう必要はない! ブラットフォード君たち死んでいるわけだからな、突っ立って死にたくなければ向こうが攻撃をしてくる前に撃て!」
そういってグリフィンは屋内に見える白い影に向かって茶色い突撃銃の引き金を引いた。




