偶像創造 3
柵を乗り越え戦闘音の聞こえる方へと進み続けた。
「そこに誰かいますグリフィン」
キュリルが指さす反対側の柵は一部が壊されており、その近くには箱舟で渡されるジャケット服を着た誰かの息絶えた姿。
その誰かは強い力で振り回されたのか辺り一面の落ち葉を赤く染め、その血の持ち主の上半身だけが転がっている。
敵の姿が見えないまま聞こえていた銃撃音はついに聞こえなくなくなると、足を止め聞こえてくる音を探す。
「音が止まったな」
「安心はできないな。倒した敵の姿が一つもない、敵の勝利で終わったのかもしれないな」
「逃げ切ったとかで何人かでも無事だったらいいんだが」
「そうだな、どんな敵だったか情報が手に入る。ああ、勿論皆の無事も心配だ」
辺りに散らばる薬きょうや空の弾倉の跡をたどって先頭を歩くキュリルが手にしたバットを強く握って立ち止まる。
そこに転がるどれも無残な殺され方をした大勢の死体。
大半は落ち葉の上や木の幹にぶつけられたように倒れていたが、高い木の枝に引っ掛かりぶら下がっている者もいた。
ついさっきまで生きていた彼らの体から鮮血が流れ出ている。
そんな惨たらしい死に方をしたものたちを見て、エレオノーラや何人かが精神的な体調の不調を訴えった。
死体を見るのに耐性の無いものが多くその場にうずくまったり背を向けたりする中、グリフィンやウーノン、アインたちのような数人だけが平然と周囲の警戒を続けていた。
「一度ここを離れようエレオノーラたちが辛そうだ」
「そうだな、調べまわったが収穫もなかった。敵がなんだかわからない。ここにいるより足跡を追った方が賢明だろう。ベニユキ君も顔色が悪いな、まぁ兵士か医者でもない限りは損壊した人体を見る機会も少ないか」
「ああ、俺も少し辛い。グリフィンたちは大丈夫そうだな?」
「記憶を戻される前ならどうだか知らなかったが、記憶が戻ってきている今ならこういうことは何度もあったと頭が勝手に理解してくれていてそこまで苦ではないな。そうそう、テオ君とアイン君は私の会社の社員だということ言うことを思い出したよ。二人とその話もした、向こうも記憶が戻りうすうす感づいていたようで若返った俺に驚いていたがな」
気分がすぐれないが話していないと得体のしれない怪物への恐怖からよくない考えが巡ってしまうためベニユキは会話を続ける。
視界の端でテンメイが耐えきれなくなり空の胃から無理やりにでも何かを吐こうとしている様子が目に入った。
「傭兵会社の? それとも、どこかで戦っていたときか?」
「会社を立ち上げたときだな。記憶を失っても俺を慕ってついて来てくれているというのは何というか少し感動してしまったよ。涙もろくなった老人ではなく若返っていなければ威厳も何もなくなるほどにはな」
戦闘の後を追いかけ進んでいると、ロケット弾を撃ち込んだ跡か周囲の枯葉が吹きとばされ木の幹や根が焼け焦げた跡がありまだ小さく火が燻っている。
その近くに倒れていた物の死体を見てグリフィンは呟く。
「ブラットフォードたちで間違いはなさそうだな」
ベニユキはグリフィンとともに損壊の酷い仲間の姿を見て回っていると顔見知りの姿を見つけ一層暗い表情をする。
「ああ……そうだな」
この場を離れようとしているとテオとともに行動していたキュリルが声を上げる。
「グリフィン、こっちに来てください」
マルティンたちもその場へと向かうと地面に足跡のようなものが残っているのを見つける。
戦闘の跡がある場所に大きな足跡が点々とついていて、それは山のふもとへと向かうように森の奥へと続いていた。
銃撃はその足跡が通った道へと向いているようで、彼女らの戦闘はこの足跡の持ち主としていたと判断する。
「これは何でしょうか? 足跡のようですが……」
「人の足に似ていないこともないが大きいな、今回の相手は雪男かな。さて、冗談はさておきこれだけではよくわからん。どこかにヒントとなるような何かが落ちていないか探してくれ」
まだ近くに敵がいるだろうから辺りには十分注意するようにと付け加えグリフィンも足跡をたどって何か落ちていないか探し始めた。
皆が顔を見合わせる中でアンバーが地面に残る足跡を観察している。
そんな彼女の肩をガーネットが掴んでいた。
「土が柔らかいとはいえ随分と深く沈み込んだ足跡だね、まるで雪の積もった地面に棒を突き刺したような跡じゃないか。相手は足が小さくて重量をうまく地面に流せていないのかな?」
「どうでもいいよ、逃げるなら今じゃないアンバー?」
「当てずっぽうに逃げても私らは食べられる山菜などわからないだろうガーネット? せめて安定して食料が手に入るような場所を見つけてからにしようじゃないか」
「……わかった」
足跡を見に来たベニユキに気が付きアンバーは顔を上げる。
「まだ逃げる気でいるのか?」
「まぁ、いつでもチャンスはありそうだから今すぐにというわけではないよ。それに君らの言っていたこともでたらめではないとわかった。その……人が死んでいるというのは、ショックが大きいが……」
「でも、あのミカって機械の指示に従ってると死ぬまで働かされるんでしょ、死ぬまで!」
今にも泣き出しそうなガーネットを安心させようと優しく抱きしめるアンバー。
死んでも生き返らされて戦わされるとはベニユキもエレオノーラも言わなかった。
「脅す気はないけど、こんなことをする化け物がいる世界で生きていけるのか?」
「わかっているよ、だからこうして従ってついて行っているのさ。他に選択肢はない」




