偶像創造 2
高低差のある長距離の移動に誰もが疲労の色を見せグリフィンとマルティンベニユキたちが話し合い少し開けた休める場所まで移動する。
休むといっても全員が一斉に休むと襲撃に対処できない為、周囲の警戒をかって出たグリフィンとアインが話していた。
「休むのは賛成だが、帰りもこうだと箱舟に帰るの明日になるんじゃないか?」
「山登りの装備ではないからな、仕方あるまい。それよりもう一時間近く歩き回っているが接敵していない、予定より長期の滞在となるなら食料をなんとかしないとな」
「知らない世界の食物が食えるんですかね?」
「箱舟のアナウンスも食料には手を付けるなと言っていたな。とはいえ得体のしれない化け物がうろつく世界の食べ物を食べようとするやつがいるのかね」
「この世界の物に気を付けるというの羅水と食料は危険だ、全員が持っている食料を取り上げるか?」
「箱舟はオートマトンを用意している。気を聞かせて食料品などをそいつに乗せて届けてくれればいいんだが」
二人が来た道を戻るように視線をベニユキに映す。
「何の話だ?」
「食糧問題だよ。どういうつもりか今回は接敵するのに時間がかかっている、時計がなく体感的ではあるが今までは一時間以内には何かしらの戦闘が起きていたからな。しかし今回は明らかに一時間以上は立っている今も敵の姿はない、そうなると箱舟に戻るのがいつになるかわからないそういう話をしていた」
「なるほど、確かに何日もいるというのなら食べ物は問題か。金属集めて帰るだけなんだけどな、どうしてこんな遠くに今回は降ろしたんだろうな」
「さぁ、機械の考えていることなどわからんな。それも俺らに死ぬ思いをさせているような間接的な殺人機械だ」
「時間がかかりそうなら日が落ちる前に箱舟の下に戻ろう。意外と話せばわかってくれるかもしれない」
「この道をまた昇りなおすと聞いたらここの連中の大半は死にそうな顔をするだろうな」
休息も十分に取りそろそろ出発しようとしていると山をこだましてどこからか響いてくる重低音。
それが爆発音と銃撃音の混じったものだとわかると立ち上がり武器を構える。
グリフィンは耳を済ませるキュリルに尋ねる。
「どこから聞こえてくる?」
「山で音が反響してるけど私たちより先、ふもとの方からな気がします。先に行った連中でしょうか? この山道は音の方向に伸びていない、この道からでは合流できないかもしれません」
「充分休んだ休憩はいいな? 出発するぞ!」
グリフィンらが戦闘を進んで速足で音の聞こえる方向へと進み始める。
ガーネットが駄々をこねるがエレオノーラとテンメイが強く手を引き、アンバーは興味半分恐怖半分という表情でついて行く。
先を走っていたウーノンが制止の合図を出し、木々の密集率の低い位置から黒煙が見えるのを確認した。
「あれが見えるか」
「ああ、間違いなく戦闘中だな」
皆がついて来ているかを振り返って確認しながらグリフィンは続ける。
「向こうだ、まだ戦闘は続いている。音に寄ってきた他の怪物と出会わないように警戒は全周囲に!」
グリフィンの一声で今日が戦闘初めてのアンバーやガーネットを含めた数人が不安そうな顔で見合わせついて行く。
「記憶がないからわからないのだけど、私こんなに体力があったかな」
「確かに、山を走って下ってるけど軽い息切れだけだねアンバー。もしかしたら私たちスポーツ選手だったのかも」
黒煙が立ち上がる場所はまだ遠いが先ほどと違い進む速度が歩く程度にまで落ちた。
落ち着くように促していたテンメイとエレオノーラも銃を抱え直すとガーネットたちから離れていく。
急に周囲がピリピリとした空気に変わったためガーネットが戸惑った様子でベニユキに尋ねる。
「ね、ねぇ、これどうやったらかちなの? あなたたちは何日もここで生活してるんだよね?」
「一番長生きしていて三日だよ、今日で四日目。今日は鉄を持ち帰る、大量にな。そうすれば箱舟からの帰還許可が出てあの施設の中に戻れる。まぁ、また何か条件を付けられてそういうわけのわからない場所に送り出されるんだけどな」
「怪物ってどんな?」
「さぁな、ぐにゃぐにゃしたゾンビやらカラフルな怪獣やら錆びついた無人戦車やらだよ」
「エレオノーラも言ってたけどなにそれ、どうなってるの?」
「こっちが聞きたいくらいだ」
空へと向かって薄く白い尾を引いて飛んでいく対戦車兵器のロケット弾。
森の上を突き抜けていくように飛んでいったその煙を目印に山道から外れて急斜面を下り道なき道を走り出す。
山道に慣れていない何人かが注意不足で地面から飛び出た木の根や斜面に積もる枯葉で足を滑らせ派手に転ぶが、もたついていると止まらないグリフィンたちに置いて行かれるため痛がりながらもすぐに立ち上がり追いかけた。
「少し急ぎ過ぎじゃないか、後から追ってくるやつらが引き離されてる」
「聞いていて気が付かないかベニユキ君。銃声の数が減っている、向こうは劣勢だ。後続は戦闘の経験が浅い、戦力としては先を進む俺たちがメインだ」
「遭難者が出ちまう」
「俺たちが戦い始めればその音を頼りに追いついてくる。敵が何かわからないままでいる方が危険だ、このまま進む」
向かって行くうちに攻撃する音が少なくなっていき、戦闘が行われたであろう木が強い力でへし折られている場所を見つけたころには敵か味方が撃っている銃撃音が一つだけ。
「聞こえるのは銃撃音だけで向こうはどんなものかわからないのが怖いな」
道なき道を進んでいたが不意に簡易な柵で道の両脇に手すりが設置され石畳で舗装された別の山道に出た。
山道は日の光が当たり空の薬きょうが日の光を浴びて煌めき、それがベニユキたちの周囲に散らばっている。




