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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
2章 --時計針止まるアークエンジェル--
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偶像創造 1

 こめかみを押さえたアンバーがベニユキに白い双眼鏡を渡し彼女が指さす方向を見る。

 高い山の上からということで景色はよく見えそこからかなり遠くに見える山のふもと、ロープウエイの下った先に町が見えた。


「変なのが見えたというのはどの辺なんだ?」

「駐車場というのかな、乗り場から少し左上ほどに離れたところなんだ。手前の小さな山の先にあるロープウェイの下のの利益みたいなところだ。醜かったら倍率を下げてくれ、よく見ようとしてズームしたままかもしれない」


 一度双眼鏡をおろしアンバーの説明を受けながら双眼鏡のズーム倍率を下げてから改めて見る。


 日の光を受け鈍い光を放つ一体の巨像。

 人型の巨像にはいくつもの円が重なり合った幾何学模様が彫り込まれており顔の部分だけ目と口のような穴が開いている。

 指がやけに長く四本の腕を空に上げ六本の脚で立っていた。


「あれか」

「不思議だろう、何かのオブジェにしては薄気味が悪くあれを見ていると背筋がぞわっとした。それにあの周囲だけやけに片付いているんだ」


「少し錆びついているけど土埃とかが見えない、アンバーの言う通り掃除され……磨かれているみたいだ」

「鉄を探すのならあれのもとまで行かないといけないのか。でも何か嫌な感じがするんだあれには近寄ってはいけないような、そういう感じの」


「勘がいいんだな……。俺たちが戦うのはそういう嫌な感じのする化け物たちだ。変なものを見つけたらそこに行かないといけない、大体そういうところに目的のものがあるからな。今回は金属を集める、つまりあの像を回収するんだ」

「はぁ、精神が参っちまうね。私はガーネットと一緒にいるよ、彼女の不満を聞き続けているエレオちゃんがかわいそうだ。もう少しその双眼鏡を貸しておくよ、何かの役に立てておくれ」


 少し顔色を悪くしたアンバーは去っていきベニユキはグリフィンたちに相談する前にもう一度像を見つけた場所を見る。

 見れば見るほど不気味さを感じる像。


「気味の悪い像、何を思ってあれを作ったんだ」


 少し見ていない間にその像の首の向きが変わり空虚な穴がベニユキと目が合った気がした。

 その瞬間、腕が反射的に双眼鏡をおろしベニユキは自分の行動に驚く。


「なんだ!」


 急に大声を発したベニユキに反応して周囲は銃を構えて戦闘態勢をとり周囲に警戒の目を向けた。

 テンメイがガーネットの口を押えて無理やり黙らせてエレオノーラがアンバーのそばへと駆け寄り姿勢を低くするように促す。

 ベニユキが動揺する間もなく、すぐに身を低くしたグリフィンが険しい顔をして武器を持ってやってくる。


「どうしたんだベニユキ君、何か見つけたか?」

「い、嫌なんでもない。ただ、町の方角で金属を見つけた。人型のオブジェだ。ちょうどいい比較対象がなかったけど周囲に生えて居る気よりも大きい、十メートル以上ある大きなものだと思う」


「それは動きそうか? 俺たちの敵になる存在か?」

「いや、ロボットの類には見えなかった。ただ何か居る、まだ姿を見ていないけどオブジェの周りがやけに綺麗だった、掃除する何かがいるんだろう」


「そうか、なら山を下り町へ行くとするか。あっちにブラットフォード君たちが降りて行った道とは違う道を見つけた。ん……どうしたベニユキ君? 鼻血を流しているぞ?」


 指摘されベニユキは鼻に触れると手が赤く染まった。

 流れる血の量が多く驚いて動いた拍子に地面に滴る。


「いや、わからない何だろうな。突然」

「毒ガス……? 先ほどまでは無事だった。俺たちの体を管理している箱舟の不備、いやなら一人だけってことは無いか、やはりガスか? どこかに溜まっていたのが風で流れてきたのかもしれない。何が起きてもおかしくないというのはここ何度かで嫌というほどわかったからな、慎重になって悪いこともないだろう」


 周囲の人間に聞こえるようにグリフィンは少し声を張り上げた。


「彼が原因不明の出血をした、毒ガスがあるのかもしれない。ハンカチか何かで口元を押さえて行動するように! それとこれから山を下りる、どこに怪物やトラップがあるかわからない奥も足元も空も警戒を怠るな」


 すぐに戦闘の気配を感じグリフィンの指示に従い各々が思う臨戦体制のまま皆で山を下り始めた。

 山に慣れていない何人かが落ち葉の積もった斜面で苔むしる木の根や岩に足を滑らせ転倒する。


 停車していた錆びたロープウェイに白い銃でビーコンを撃ち込みその場を離れた。

 穏やかに草木が揺れ鳥の鳴く山。

 ブンブンと近くを飛び回る羽虫に苛立つガーネットはベニユキを睨みつける。


「鼻血なんかで大げさな、やましいことでも考えてたんでしょ!」

「そんな、ベニユキさんは思春期の中学生なんかじゃないですし」


「どうだか、男は獣なんだから! ったく。はぁ、アンバー離れずに一緒にいてよ」

「ガーネットさんは元気ですね。でも、まだ敵の姿も見ていませんし戦う前に疲れちゃいますよ」


「どこの国かわからないけどこんな大掛かりな場所を用意して、あなたたち役者ね! どこかにカメラがあるんでしょ!」

「困りましたベニユキさん、いくら説明してもわかってくれません!」


 いくら説明をしてもガーネットが信じる様子はなくベニユキに泣きつくエレオノーラ。


「一回化け物を見れば信じるだろうさ、とりあえずできるだけ二人を守ってやることだけを考えていこう」

「わ、わかりました……」


 山のふもとまでは遠く箱舟のある山の頂上からは小さな山を一つ越えないと町へはいけない。

 山一つ越えたところでテンメイたちなどが疲れて休憩を求めた。


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