駒を育てる 2
アンバーが閉ざされた扉を叩く。
「閉じ込められた!」
「自動で閉まったんだ機械だろうさ、人の手じゃ開かないんじゃないかな? さて、礼拝堂のような場所だね。出てくるのはどんな神を、あるいは悪魔を崇める教祖様かな」
体当たりをしてでも開けようとするガーネットを手伝うようにアンバーも扉を押して開閉を試みる。
周囲が暗くなっていき舞台の上に光の粒が集まっていく、そして銀色の長髪と瞳の女性の姿をした管理AIのミカが現れた。
『皆さまおはようございます。これから説明をします、落ち着いて席についてください。まずはこの施設について話をしましょう』
ホログラムとして現れたミカの自己紹介にアンバーが振り返り、舞台の上に立つホログラムの姿を見て扉を開こうとする手を止める。
「彼女が私たちの疑問を解消してくれる説明をしてくれるのかな、ベニユキさん?」
「あ、ああ。到底信じられないことを言うけども本当だよ」
押しても引いても閉じた扉は動く様子はなく、ガーネットもあきらめて力を抜き扉に寄り掛かり聞こえてくる声に耳を傾けた。
『当施設の名は、並行世界潜航亜空間活動拠点長期居住船箱舟、アルカアンヘル三号です。箱舟とお呼びください。私はこの箱舟の指揮管理AI、ミカと申します。よろしくお願いします』
近くの席にベニユキたちは移動しミカのいる舞台から最も遠い最後尾の席に着く。
「へいこー? 何急に、早口言葉?」
「そんなわけないだろう、ガーネット。……AIか、この建物は無人で管理されているのかな。人が居ないとするとこの建物は人の気が少ない砂漠や海底や宇宙にでもいるのかい?」
話が終わると礼拝堂の明かりが戻り明るくなる。
『この箱舟で今用意できるすべての武器です。本日は前回の資源回収の続き、金属回収を行ってもらいます。どうぞ皆さま前に来て武器をお取りください』
何人かが席を立ち舞台の前に用意された武器の方へと向かい、彼らに続いて他の者たちも舞台の方へと向かっていった。
ベニユキは立ち上がりエレオノーラも席を立つ。
ガーネットたちの様子をうかがいながら前へと向かおうと席を立って前へと向かう。
ミカの話を聞き混乱して理解がついて行けないガーネットが席を立ちとりあえず離れ離れにないようにアンバーの手を掴んで引く。
「逃げよう! こんな変なことに従う必要なんかないよ、この建物の外に出すって言ってたしその時にさ、アンバー」
「フィクションなんかだと真っ先にやられそうなセリフを言うんじゃないよ……。実際、私らは捕まっている。なんであれ少しは従うそぶりはした方がいいんじゃないかとおもんだけどねぇ」
「戦ってくれって! こんな服着させておいて言うんだよ! 絶対普通じゃないじゃんおかしいじゃん!」
「まぁ、そうだね。でも私らに選択肢はないよ」
大きな声は広い空間に反響することなく吸い込まれるように消えて行き、手を引いたままガーネットはエレオノーラとベニユキの方を見る。
誰かしらと何度か見たやり取りを見届け、どう説得しようか困ったような表情をしている彼女を見てガーネットは声を荒げた。
「エレオノーラ、あなたはどうしてそんな冷静でいられるの!? こんなおかしな場所で!」
大きな声に驚きびくりと体を震わすエレオノーラ。
驚いた拍子に何かに焦り両手を振ってこたえる。
「え、あっ、私はここで二日戦ってますから」
「私は兵隊じゃない、記憶ないけどそれだけは違うって絶対わかる」
「でも、あのっ従わないと記憶が戻りません。あと……ここから出ていくのはあまりよくないんです。ベニユキさんが何とかしてくれますからついて行くだけでも、ねっガーネットさん」
「少しでも変だと思ったら私はアンバーを連れていくからね。それで、どこへ行けばいいの?」
現状への理解が追い付いておらずどこに向けても不満を漏らせないピリピリとしたガーネットは舞台の方を睨みつける。
「行くよアンバー!」
「強く引っ張らなくても今行くともガーネット。ところで、逃げるときは私は無理やりにでも連れていかれるのかい?」
長椅子の間を抜けアンバーを連れてベニユキたちと舞台の前に向かう。
舞台の前に並べられた箱、アンバーとガーネットはそこに並んだ大きな銃の類を見て固まった。
効率のよく洗練された暴力の形。
「こんなものを、いかれてる。外に出たらすぐに通報しなきゃ」
「管理用のAIまで用意しているようなところだ、国と裏でつながっているかもしれない。消されるのは私たちかもね」
「ならどうしたらいいの!?」
「外に出ても私らにはいく当てがないし、脱走が見つかったらどうなるかもわからない。逃げ出せたとしたら誰にも見つからないようにひっそりと暮らすしかないんじゃないかな」
「ならどうしたら」
「ここで尻尾を振って生きるのも手だ、さっき言ったもの以外に山奥か孤島か外国かも考えられるか……記憶がないのだから元の自分がどんなものかそれこそ整形などで顔を変えてしまうというのもあるのか。どうせ記憶もない、零から始めるのもいいかもね」
「どうしてアンバーはそんなに楽しそうなの?」
「何もわからないまま動きたいくないってだけだよ、逃げるにしても情報は集めないと」
すでにほどんどの者が舞台の上に上がっていてガーネットたちが最後になる。
ベニユキとエレオノーラに見守られるようにアンバーは並べられている武器を見た。
「随分とまぁ、物騒なものがそろっているじゃないか。大きいのから小さいのまでまぁ、戦争でもできそうなほどにそろっているじゃない……恐ろしいねぇ」
「絶対ここやばいところだよ、逃げようアンバー」
「そうだね、これを向ける先は一体何か。囚人か獣か私たち同士か、私らの体に発信機とか埋め込まれていたりしそうだね」
「もうヤダ……わけわからない」
パニックを起こしかけているガーネットを見かねたアンバーが優しく背中をさする。
ミカが舞台の上から最後になったベニユキたちの様子をうかがっており、エレオノーラも銃へと手を伸ばし水と食料などをポケットへと入れていく。
「それてベニユキさん、私たちはこれらを持ってこの上に上がればいいのかな?」
「そうだけど、向こうに付いたら俺らが何とかするよ。グリフィンやブラットフォード達だっているし、できるだけ悲劇を起こさないようにする」
「戦いがあるとして、誰かが死んだら補填されるのだとしたら私らは補填された人間か? 落ち着いていて私たちを気にかけてくれるのはそういう理由だったり?」
「ひとまず今日一日、死なないでいてくれたら分かる」
「言っても信じないと言いたげな声だ、わかったよ」
物騒なものは持ちたくないからとガーネットは最初から箱舟が用意していた玩具のような白い銃を手に取り、替えの弾倉をいくつかポケットに入れた。
アンバーは今まで誰も興味を抱かなかった双眼鏡を手に取る。
箱舟が用意した白い銃と同じおもちゃのような雰囲気のある純白の折り畳みの双眼鏡。
「なかなか高級そうな双眼鏡だ」
「たぶん使わないぞ、そういうの」




