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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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鋼の移動要塞 3

 

 目で追うことのできない速さの弾丸がベニユキたちの隠れている地面や岩を削り、後部についていたガトリング砲が雨の腐食による劣化ではじける音ともに勝手に壊れた。

 弾は広い範囲にばらけ隠れているところから出ることができない。

 隠れながらでもエレオノーラの持つ散弾銃をテンメイが奪い取ってドローンを撃ち落とす。


「一応、ドローンは落としたよ。大きな銃を付けていたから」

「多分あれグレネードをぶっ放してくる感じのやつ」


「なら早めに落とせてよかった」

「どのみちここから出られないんだけど。なんか壊れた音がしたよね」


「燃料タンク壊れた?」

「壊れてないんじゃないかな、多分僕らの攻撃は全部外したんだと思う」


 銃身が高速回転する音が止まると、トラックは戦車をおろそうとし始める。

 戦車の動き出すエンジン音を聞くことしかできず攻撃を恐れてベニユキたちがクレーターの中に隠れていると遠くからの銃声。

 トラックにつくガトリング砲が遠くから聞こえてくる銃声の方に向かって向きを変え銃撃を始める。


「キュリルたちかな?」

「戦車を倒して応戦しに来てくれたのか、助かる」


 そっと銃を上げてみるが攻撃が来なかったので顔を出して改めて燃料タンクと思しき場所を狙う。

 改造の施されていないシンプルな狙撃銃。

 照準器がなく狙うのに難があったが数発の発砲ののち、燃料タンクに穴が開き装甲版に銃弾が当たり散った火花で気化した燃料に引火し火柱が上がった。


「うっし、やったか!」

「燃えたよ、でもまだ動いてる」


 タイヤに漏れた燃料が燃え移り車体が激しく光る。

 消火機構があるのか車体のあちこちから燃えてる部分へとむけて泡を噴射し火を消そうとしていたが、機能不全で噴射されないものや噴き出ても泡の量が足りず炎の勢いは衰えなかった。

 センサーが誤作動を起こしガトリング砲が横薙ぎに放たれ、朽ちた木々が軽い音を立てて倒れる。


「苦しんでいる?」

「機械がか、熱で誤作動したんでしょ?」


 降ろされた戦車が向かってくるが燃える巨大トラックが後退し、そのタイヤで戦車を踏みつぶす。

 消火剤が広範囲に広がるように撒かれるが薄まった消火剤では火は消えない。


「センサーが壊れたんじゃない? なんであれ、ここから出るのはもう少し待とう」


 トラックの一部が開く音が連続し中からドローンが何機も飛び立つ。

 武器ではなく消火剤を搭載しており火災位置に白い泡を吹きかける。

 それでもいくつかは機能不全を起こしており、うまく飛べずふらついて他の機体にぶつかり炎の中に落ちたり噴射する泡がうまく出ず液状の物体が垂れるだけ。


「火が消される前にドローンを撃ち落として」

「わかってる!」


「このすきに接近して手榴弾を!」

「車体内部にそれを投げ込む気かい? それがベニユキ君があれを倒そうとした理由かい? また無茶な、でももう引き返せないしね」


 全員銃を持って隠れているクレーターから身を乗り出す。

 マルティンたちの一斉攻撃を受け次々とドローンが墜落していく。

 消火をしようとしながらも後退を終えるとトラックは旋回を始め、ベニユキたちに向かって正面を向ける。

 そこには黒煙と炎にセンサーをつぶされていないガトリング砲。


「やばい!」


 ぎこちなくもベニユキたちに狙いを定め銃身が高速回転を始める。

 慌ててマルティンたちは岩などに隠れるが、先頭を走っていたベニユキの付近に隠れる場所はない。

 銃を撃ち始めた直後、火花を散らし束ねられた銃身がはじけ遅れて背後から発砲音が響いてきた。

 遠くに赤髪の女性の姿が見え仲間を引き連れトラックへとむけて銃を撃ちながら丘を下って来る。


「ブラットフォードたちか!」


 ガスの噴射音とともに空高くにサッカーボールほどの物体が撃ち上げられ、落下傘が開き緩やかに降下。

 半分は落下傘がうまく開かず地面に落ちる。

 物体は落ちた衝撃で壊れ中からたくさんのビー玉ほどの錆びた金属の球体が転がった。


「いけない、あれを撃ち落として!」


 マルティンが叫ぶと同時に残った物体の半分が空中で炸裂し真下にいるものすべてに鉄の雨を降らせる。

 障害物も関係なく真上から降り注ぐ無数の散弾に屋根の無い屋外では隠れる場所がなく広範囲に降り注いだ鉄球の跡が残った。


「……助かった」


 偶然誰かの撃った弾が空からゆっくり降ってくる物体に当たって揺れていなければ、ベニユキは無数の鉄球が食い込み耕されたような地面の一部になっていたかもしれない。


「マルティン! ウーノン!」


 悲鳴が聞こえベニユキが振り返れば掘り返された土壌に染み込んて行く肉片と血だまり。

 凄惨な情景に耐えきれず不発で終わり運よく生き残ったエレオノーラとテンメイが嗚咽を漏らし、空の胃から無理やり中身を吐き出さそうとしている。


 少し前まで聞こえていた声の主の変わり果てた姿にベニユキも胃から何かがこみ上げてくるが、その間も戦っている音が続いておりその音を聞いて我に返り武器を構えてと楽へと向かって走り出す。


 破壊され炎上し機能不全で攻撃が止まったトラックはベニユキが近づいても攻撃はない。

 援護に来たブラットフォードたちの銃撃を受け平坦な装甲から飛び出るようについた武装やセンサーの類を破壊され消火もうまくいかず黒煙にまかれている。


 いくつもの巨大タイヤに支えられる車体の下部はベニユキの身長の倍ほど高いところにある。

 ベニユキが上を見上げ投げ込む先を探していると後部の装甲版が開いていく。


「また戦車をおろすのか。早いところ破壊しないと」


 巨大な壁のようにそびえるトラックに向かって手榴弾を全力で投擲した。

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