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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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鋼の移動要塞 2

 

 それを聞いてベニユキは少し考え立ち上がる。


「確かに、ならあれを止めるか?」

「どうやって壊すんですか?」


「あのでかいのは流石に殴っては壊せそうにないな」


 ゆっくりと走り続けるトラックからおろされた六両の戦車は、降ろされた順番に動き出しベニユキたちのいる丘の方へと向かって走り出す。


「数が増えたぞ?」

「金属を集めろとの指示だ、向こうが用意してくれるのなら万々歳だな」


 逃げるか鉄を集めるために戦うかをベニユキが考えていると皮肉を言って笑うグリフィン。


「怪我人が随分余裕そうだなグリフィン」

「相手は錆びついた機械だ、ちゃんとした武器さえあればあんなガラクタなど相手になんかならなかった。前にもいったが人用の武器ではな」


「無いものねだりしても仕方ないだろ。一応手榴弾をいくつか持ってきているんだが?」

「人を殺す程度の威力で機械が止められるわけないだろ、もっと強力な兵器が……なんだ、既視感が。いつだったか?」


「何の話だ?」

「こっちの話だ、気にするな」


「で、どうする?」

「戦車を無視してあのでかいやつを追ってもらいたい。俺もキュリル君も怪我をしたなるべく早く帰りたくてね。戦車はこちらでひきつけよう。キュリル君は負傷している、テオ君にでも任せてみるか」


 戦車をひきつけるグリフィンたちのグループと大型兵器を搭載する巨大トラックを追うベニユキやマルティンたちのグループの二つに別れ行動を開始する。


「ならあの戦車は任せた」

「任されよう、何とかしてみる」


 軽く手を振って別れ丘の起伏に体を隠して向かってくる戦車に見つからないようにトラックを追う。


「行くぞ、マルティン、エレオノーラ。あの陸上戦艦を止めれば今日の仕事も終わる」

「そうだけど、あんなものどうやって壊すんだい?」


「ここに手榴弾がある」

「え? それで壊す気なのかい? もっと何か決定打になるものは」


「エンジンに放り込めば止まるかなって、ほら黒い排気ガスを出している排気ダクトが伸びてるあの根本、装甲版が剥げている」

「確かに見えるけど……。いやいや、たどり着ける気がしないよ。よく見てみなよ、車体のあちこちに武装されている近づく前に殺される。タイヤだってすごく大きいし多いパンクさせるのだって難しいはず」


 振り返れば別れたグリフィンたちは戦車への奇襲のタイミングをうかがうため白く枯れた森に隠れていく姿。

 戦車は大きな道路から出て横一列に並んでゆっくりと丘の斜面を登ってきている。


「こっちには気が付いていないな、早くしないと逃げられちまう」

「本当に追うんですか?」


 トラックのタイヤはその大きさからゆっくりとだが確実に人の足より速く進んでいた。

 背後で戦車を殴りに行ったであろう派手な音を皮切りに戦車との戦闘音が響き始める。


「戦闘が始まったみたいですね? キュリルさんは怪我をしているのに、誰か変わってあげたのかな」

「ああ、こっちも早く追いつきたいな」


「やっぱり無理です、離されてる追いつけません」

「この先は街だってグリフィンが言っていた。あのでかいのは速度を落とすか迂回するはず」


 ベニユキのいう通りに巨大なトラックは街の前で減速し停車した。

 大きな火災があったのか黒く煤けた建物が並ぶ砲撃の跡で壊れた町。

 建物の間に高い煙突が何本か伸びており白い煙を吐いていた。


「止まった」

「なんか霞んでてよく見えないんですけど、何本か煙突立ってませんか? しかも煙出てる」


 小走りで追いかけているため息を切らすテンメイにベニユキは声をかける。


「大丈夫か?」

「大丈夫、配分間違えて息が上がっただけまだ走れる。でも、近づいてだんだん大きさが現実味帯びて来たけど、学校の体育館か小さなコンサートホールくらいの大きさない? 手榴弾投げるんだっけ? 元は野球選手か何か?」


「いいやただの民間人だ」

「なんか死ぬ気がしてきた、私まだ死んでないのに」


 グリフィンたちが戦う戦闘音が響き、その音をテンメイたちが気にしながら枯れた木々に隠れながら進みトラックへと迫る。


 森や岩、道路から弾き飛ばされた車両の残骸などを影にトラックから200メートルほどまで近づき町の砲撃の際にできただろうクレーターに隠れて武器を持ちマルティンが尋ねた。


「で、どうするんだいベニユキ君? 近づいたところで荷台から更なる戦車をおろされたらバットを持っていない僕たちはただやられるだけだけど」

「大丈夫、向こうは古くなっていて。それに、あれ、みえるか? 運転席のあるべき場所の後ろの下」


「無人だろうから、センサーカメラみたいのが飛び出ているだけで運転席なんかないけど」

「まぁ、そこに燃料タンクみたいのが見える。エンジンよりはっきり確認できる」


「そんな見えるところに弱点があるわけ……」

「不自然な感じに四角く穴が開いてる、装甲版が剝離した感じだ。もともとは装甲で隠れてた部分だったんだろ、脆くなってあの部分もはがれたとか」


「確かに、見えるねあんな都合よく穴開けて。あれを壊せれば止まる……のかな」

「試してみる価値はあるだろ。さぁ武器を構えろ、誰かが当てれば破壊できる」


「手榴弾はどうしたんだい?」

「エレオノーラ、銃を貸してくれないか? 散弾銃じゃちょっとな」


 エレオノーラからただ握りしめているだだった狙撃銃を借り、ベニユキはマルティンたちとともに銃を構える。

 銃撃を始めるとパカンと音を立てて荷台の天井の一部が開く。

 十二個のプロペラを持つ大きな円盤型のドローンが甲高いプロペラ音ととも飛び立つと、下部に取り付けられたグレネードランチャーの太く短い銃口を動かす。


「何だ、まだ何か搭載してたのか」


 同時に巨大な車体の上側面に取り付けられていたうち三つのガトリング砲が、束ねられた銃身を高速回転させながら首を振りベニユキたちの方を向く。


「隠れて!!」


 ヴァーと灰色い煙を吹き大量の薬きょうをその場で吐き出す。

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