鋼の移動要塞 1
片方の戦車の上には丸い砲塔の上にさらに瘤のような小さな砲塔がのっかっている。
その瘤砲塔には一門の機銃が付いており、建物の瓦礫の間を走り抜けるグリフィンへと向かって掃射する。
攻撃から身を躱すためにグリフィンが足を止めたところに砲撃。
砲弾の一つは離れたところに着弾するが、もう一つがグリフィンが隠れた瓦礫の山が吹き飛ばす。
「無茶しやがって!」
ラジコンを排除し戦車の気を引き、その間にキュリルが回り込んで一両目の戦車の側面へとたどり着く。
自動車ほどの大きさの小ぶりの戦車、バットを高く振り上げ振り下ろす。
「フンスっ!」
砲撃や爆発を思わせる激しく重い音。
殴られた戦車は上面が凹み下部が割れて裂けていく、歪んだ砲塔が火花を吹く。
「もう一つ」
残った一両は後退しながら車体を回転させ一緒に動いていた砲塔をキュリルの方を向ける。
そして破壊した戦車の陰に隠れるキュリルに砲撃。
火花を放つ戦車の砲塔が吹き飛び高く火柱を数秒上げて横転、黒と茶色の混じった爆炎の中からキュリルが現れ下から振り上げるように残った戦車の車体を殴った。
履帯が外れ車体がわずかに浮かび戻った勢いで地面がわずかに揺れ激しく破損するものの、大砲のついた砲塔の上にある機銃の砲塔が火花を知らす動きキュリルに向かって火を噴く。
そこで車体から火花を吹き機銃の射撃も止まった。
「大丈夫か!?」
テオはキュリルに駆け寄る。
「最後に、油断、した」
最後の銃撃で腕を負傷しその場に座り込むキュリル。
テンメイやエレオノーラも心配して駆け寄り腕の手当てに入り、ベニユキたちは周囲を見ながら戦車へと近寄る。
「ほんとに無茶をするな……」
「命がかかっているからな、死ぬ気でやらねばならないよ。どうせ死んでも明日には蘇る」
土埃にまみれた無数の切り傷だらけの血だらけのグリフィンはアインに支えられ歩く。
「まだ音がするな」
「向こうに、ラジコンがいる。何かが壊れているのか同じ場所をくるくる回っているな。着地に失敗してひっくり返ってるのか」
指をさした先でウーノンが黒い機関銃で最後のラジコンを破壊する。
「数が増えると厄介だ少し離れた方がいいのではないか?」
「白い銃で位置は伝えた。すぐ移動しよう」
「向こうに援護に行くのか?」
「負傷者も出たけど人が減れば俺らの負担も増える。なんとか助けたいな」
ウーノンとベニユキが話しているそばから、町の方からオートマトンが3機一列に並んでゆったりと歩いてくる姿が見えてきた。
黒煙を上げ迫ってくるオートマトンに一瞬表情の固まるキュリル、すぐにバットを握り立ち上がろうとする。
「また敵……」
「あれは味方だ、昨日見たやつ。オートマトンとかなんとか」
「昨日? ああ、私は……」
「ああ、そうだったな……」
テオの肩を借り手当てを受けたキュリルは立ち上がり皆と合流した。
他の戦車が集まってくる前にどこへと移動しようか話し合っていると、丘の向こうから低い汽笛のような大きな音が聞こえ激しく地面が揺れだす。
その揺れに立っておれず全員が地面にしゃがみこんで揺れが収まるのを待つ。
「わっわっわっ!」
「地震か? この音はなんだ?」
揺れは激しく周囲の木々が揺れ、枯れてボロボロだった木が乾いた音を立てて何本か倒れる。
揺れが収まってからベニユキたちは立ち上がった。
「おさまったか」
「今の揺れは何だったんですかね?」
立ち上がったエレオノーラは武器を構えて辺りを見回す。
ベニユキはグリフィンの方を向く。
「音は丘の向こう側で聞こえたな? 向こうで何か見えたかグリフィン?」
「いいや、我々が上ったときには高速道路のような大きな道しかなかったな。もっと奥となると少し奥に大きな町があったようだが霞んでいてよく見えなかった」
太陽がぼんやりと浮かぶ白みがかった空を見る。
「今の揺れでも見なかったんですけど、虫も鳥もいないんですかね……?」
「湖があんな状態だからな、動物がいるのかも怪しいよな」
「木も枯れちゃってますしね、大気汚染とかなんですかね?」
「草はまだ生えているけど虫がいないってのはな」
揺れでも止まることなく歩き続けたオートマトンは燃える戦車の上にたどり着く。
一機はその場に伏せて、一機が戦車の上にまたがり戦車の直上から勢いよく白いガスを噴射させ消火する。
アームのついた一機が周囲に飛んだ装甲版を集めて伏せている荷台へと乗せる。
「ここであの蟹ばさみの腕が役に立つんだな」
「そういえば向こうの方もなんとかなったみたいですね、音が静かになってます」
「そういえば静かだな」
湖の向こうを見ると黒煙を上げる戦車とその周りにいる人影が見えた。
「自力で倒したんだな」
「なら、丘の上に上がるとしよう。揺れの原因を探さないとな」
丘を登ると緑と黒の迷彩柄の家一つ分の大きさがありそうな、とてつもない大きさのタイヤのついた巨大なトラックが見えた。
四車線の道路の上を窮屈そうな状態で走る八輪で二重のタイヤ、一つ脱輪し一五個のタイヤで動くその巨影の荷台には灰色の煙を吐く建物を背負っている。
「おいおい、何だあれ……」
「でっか。モンスタートラックとかいうんでしょ?」
けた外れの大きさにテンメイがあきれたように溜息をつく。
巨大トラックは後輪の四つのタイヤの間から戦車をおろす。
「戦車の空母?」
「戦車の揚陸艦?」
「陸にいる揚陸艦ってなんだ?」
「乗っているのは戦車だけじゃないかも、兵器が戦車だけってのもおかしな話でしょ」
エレオノーラはあきらめた声でつぶやく。
「船一隻分の金属、ですね」




