ようこそ、箱舟へ 3
間をおいてミカは説明を続ける。
『簡単に言えばここにいる30名、何名かでチーム作ってもらい外へと出てもらいます。まず手始めに最初にあなた方に求めるのは、とある施設から兵器設計図の入ったデータ、記憶媒体の回収です。この箱舟はトラブルに見舞われ皆様に提供する武装もままならず、現在提供できる武装は貧弱な装備のみ。ですから戦うための武器、それを皆様に取ってきてもらいたいのです』
ミカが改めて頭を下げると消えていた天井の明かりが戻り、再び白い光が礼拝所を照らす。
そして明かりが消える前にはなかったミカの立つ舞台の前長方形の大きな箱がいつの間にか並べられていた。
明るくなっても舞台の上に立つホログラムは消えることなく、その場に残り段の上から箱を指す。
『この箱舟で今用意できるすべての武器です。本日はこれを使ってデータを回収してきてほしいのです。どうぞ皆さま前に来て武器をお取りください。少しトラブルがありまして、このような物しか用意できず申し訳ございません』
話を聞いていたベニユキたちは席を立ち前に集まり、並べられたものを確認する。
「武器、か? 戦う相手は、人間だろうな……」
「やっぱりいいことは起きませんね……」
並んでいたのは水と一つづつ梱包されていた携帯食料、それと手に収まる白い拳銃と何らかの装置が組み込まれたバットのような先が太くなっている棒。
用意された武器をこれから何が起きるかもわからない為、誰一人拒むことなく手にしていく。
『皆様に重要なお願いがあります。外の世界では決して物を飲み食いしないでください、命にかかわりますから』
ベニユキもエレオノーラとともに前に出て箱の中から銃を取り、引き金に指をかけないように見回す。
純白と言えるほど白く無骨な銃というより、デザインされた玩具の銃という印象のある小さな銃。
「知らない銃だな」
「知っている銃があるんですか?」
しかし重さは玩具というよりはずっと重く、マガジンには銀色と赤褐色の実弾が込められている。
銃にマガジンを籠めると、白い銃の表面に残弾数を示す赤い文字が浮かび上がった。
「いいや、言葉が悪かったモデルガンか映画で見たんだと思う銃ではないってことだ。…でも不思議だ、自分が誰なのかは思い出せないのにこれが見たことのない武器ということはわかる」
「そうなんですね。私は武器とかさっぱり」
銃とは別に置いてある変えの弾倉をいくつかポケットに入れる。
荷物が嵩張り重くなるからか水や食料を取るものは少なく、エレオノーラも水の入ったボトルを一つ手に取るだけ。
ベニユキたちが武器をまじまじと見ていると、銃を手にした一人がミカへと銃口を向けた。
『こちらは束縛している身。私に敵意を持つことはとがめはしませんが、私はホログラムです。プログラムで作ったこの体に実体はありません。その銃には電子回路が組み込まれておりそれによってこちらで管理でき、施設に損害を与えぬようにセーフティーがかかりここで銃を撃つことはできません。皆さん武器と予備の弾倉を持ちましたらこちらへとお集まりください。こちらが当施設の唯一の出入り口となるエレベーターとなります』
何人かは長椅子に座ったままその場を動かず、何人かは武器はとったがそのまま離れていく。
ベニユキの隣にいた赤毛で糸目の男がミカに向かって話しかけた。
「取りに行くというが、歩いていくのか乗り物でそこまで行くのか?」
『ご安心を、当施設はとってきてもらいたいデータのある建物上空に移動しております。降下すればすぐそばに目的のものがしまわれている建物の前、あなた方は建物に入り目的のものを手に入れてここへと戻って来るだけ。作業自体は数時間で終わります』
「簡単に言われても、出来るかどうかわからない。そもそも戻ってこなかったらどうなるんだ、僕らが逃げたりしたら?」
『それは、こちらからどうすることもできません。負傷した時は他の方の力を借りて戻ってきてもらう、私のもとで働くのが嫌なら逃げだしてもらう。皆様の行動を妨げることは私にはできませんから』
「それはつまり逃げようと思えば逃げられるという意味?」
『そうなってしまいます。とても良い判断だとは思えませんが、その場合は私の管理を離れてしまい逃げた方の記憶のデータも回収はされず消去してしまいます。つまり二度とこの場所へと戻ってくることも記憶が戻ることもありません』
それを聞いて離れていた数人と長椅子に座っていた、集まってこなかった何人かが武器と弾倉を持ってエレベーターへと上がってくる。
舞台の中央に立つミカから一定の距離を離れるように輪を描くようにしてベニユキたちは立つ。
『よかった、皆さん来てくれましたね。それでは降下を開始します、外の世界については降下をしながら話そうと思います。それでは動き出しますので揺れに気を付けてください』
ジャラジャラと太い鎖が音を立てて30人の乗った床が緩やかに降下していく。
「どこへ連れていかれるのでしょう?」
「奪って来いって話だから、どこかの施設の敷地内だろうな。俺たちは警備員か警備のロボットとかと戦わされるんだろうな」
「……痛い、ですよね」
「痛いで済めばいいけど、向こうも必至だろうし最悪死ぬだろうな」
降下するエレベーターの真ん中に立つホログラムは、自分の周囲に宙に浮くモニターに何枚もの画像を表示させた。
草木が枯れ、町のいたるところから煙を上げる町の写真。
『皆様がこれから向かう世界は私が命名した煉獄腐肉の世界。荒廃し命の気配が薄い世界です。動くものが見えますがどれも意志を感じません。あと、この世界はひどい異臭がしますのでご覚悟ください』
「世界?」
画像を見た何人かが集まって話し合う。
降下していたエレべーターの下から眩しい光が差し込む。
それと同時に暖かい外気が流れ込んできた。