生き抜くために戦う 4
町を歩いているとマルティンがベニユキに話しかける。
「そういえば、みんなは記憶戻された?」
「ああ、大切な人を思い出したよ。名前も暮らした時間のほとんども思いは出せないけど、そういう人が居たってことを思い出せた」
「人によって戻される記憶が違うのかな、僕は実家の両親を思い出したよ。実家の庭で野菜を育ててね」
マルティンの話に割って入るテンメイ。
「私も大事な人を思い出した、……といっても少しあやふやで結婚式の予定を立てるところまでだけど。あと大事な人の名前が出ない、すごくもやもやした」
「まぁ、それぞれ記憶は違うだろうから」
「これ、本物の記憶だといいんだけど」
「記憶の転写って言っていたからね、誰かと混ざっていたら大変だよね」
「別の人の記憶と交換できるなら、エレオノーラみたいなかわいい子と入れ替わったりできるのかな?」
「できるだろうね、自分の体の複製以外に記憶を入れるのは整形とは違うからたしか違法だったはずだけど」
町のはずれに一つ鉄の塊を見つける。
道路を外れた土に半分埋まった戦車の様。
「いた、擱座した戦車」
「やっと鉄を見つけたか、戦車は一両だけか?」
「みたいですね、道路のどちらにも他の戦車は見えません」
「なんか小型ですね」
普段は大型トラックのような威圧感のある車体サイズをしている戦車だったが、それは乗用車ほどのサイズの戦車。
丸みを帯びたおわん型物体を二つ重ねた車体は道路からはみでて傾き土に半分埋まるような形で停止している。
雨風のせいか砲塔や各部が雨だれの跡が付いていてしばらく動いていないよう。
「さて、白い銃で報告するか」
「そうだね」
戦車は破損し乗り捨てられたものだと思って油断して近寄っていたが、突如黒煙を吹き砲塔が軋みを上げながらゆっくりと回りだし慌てるベニユキたちを狙いだす。
「動いた!」
「みんな隠れて!」
砲塔がこちらを狙って動き出しているとわかるとベニユキたちが近くの崩れていない建物の中に飛び込む。
直後に轟音とともに戦車から放たれる砲弾。
砲弾は建物から大きく外れるが空中で炸裂し無数の破片が地面や建物の瓦礫に当たり土煙が上がる。
体に深く浸透する爆発の衝撃に皆が反射的に地面に伏せさせた。
「外れたか助かった」
「あれ今回の敵なんですか!? あんなのと銃でどうやって戦えと?」
無数の破片で抉れた地形を見てエレオノーラが悲鳴を上げる。
「ははは、壁も地面も蒸しパンみたいになっちゃったね……」
「大丈夫? テンメイが爆発音で竦みあがっちゃっいました」
マルティンがテンメイに肩を貸して支え皆は薄暗い部屋の奥へと進む。
「崩れていない建物は鉄筋コンクリート造りだからかな」
「屋内は焼かれた後か、焦げ臭いな。有害なガスとかたまってないよな?」
黒い機関銃を構えウーノンがマルティンに尋ねた。
「どうやって倒す? 向こうは戦車だぞ?」
「どう戦っても全滅な気もするけど、やれることはやってみよう。ここにいたって建物を崩されたら同じだ。大丈夫あれだけの音だしグリフィンたちも来てくれる」
「来たところで相手は戦車だ、銃でどうにかなる相手じゃないぞ!」
「わかってるさ!」
部屋の奥へと進むと戦車の2度目の砲撃、建物全体が揺れ建物のあちこちで砂ぼこりが降る。
建物の中は火災の跡で真っ黒で煤の上に足跡が残っていく。
「崩れる!」
先ほどん砲撃からテンメイはパニックを起こしており揺れで慌てて建物から飛び出そうとし、マルティンとウーノンに力尽くで止められる。
建物の外、戦車の方からガチンと音がし何かが地面に落ちる音が聞こえた。
「何かを落とした」
「空薬きょうじゃないかな?」
「迫ってくると思うか?」
「遠くから撃つだけで僕らは手も足も出ずにむこうの勝ちだから何とも」
小さなモーター音が聞こえてくる。
「何の音」
「知らないよ迂闊に顔をひょっこりのぞかせないでくれよ、砲弾が飛んでくるかもしれないから」
音はだんだんと大きくなり階段を上って最低限の素材で作られたフレームだけのラジコンカーが建物の中に入ってきた。
高速で回転するゴムで作られた履帯が地面に張り付き、ピョインピョインと跳ねながら走る。
「玩具!」
「じゃない!」
走ってきたラジコンの上には蠍の尻尾のようなものがあり、それが拳銃だとわかるとベニユキは散弾銃を慌てて構えて撃つ。
高速で飛ぶ無数の金属片を受けラジコンは砕けて破片が散らばる。
「あのラジコン、武器乗ってたぞ!?」
「まだ音が聞こえます!」
二台目がすぐさま飛び込んできてベニユキを真似てエレオノーラが銃の引き金を引く。
自分で撃った銃の反動と音に驚き、茶色い突撃銃の反動を制御できずエレオノーラの銃が天井を向く。
「しっかり押さえて撃ってエレオノーラ」
ラジコンに搭載された拳銃が発砲する。
走りながらで小刻み揺れていることもあり、弾はあちこちに飛びその一発がベニユキの足をかすめた。
「逃がすな!」
小さなモーター音をうならせてベニユキたちが隠れた部屋の中を駆け回る。
暴れまわったあとラジコンが部屋を出て行き、轟音とともに部屋を満たす土埃。
壁に大穴が開き外の光が差し込む。
誰も直撃こそはしなかったが飛び散った大小さまざまな瓦礫が全員を襲う。
「みんな、無事か!?」
「……何とか」
「……耳が、キンキンします」
自力で立ち上がり何とか奥の部屋や他の部屋へと逃げる。
ウーノンやマルティンは部屋を出て階段を上がっていく。
奥の部屋に逃げ込んだベニユキとエレオノーラは後ろを振り返る。
「みんなと離れ離れになってしまいました」
「すぐ向こうの部屋にいる、それよりまたラジコンの音がする気を付けろエレオノーラ」
巻きあがった土煙は下へと溜まりラジコンの姿が隠れ見えなくなった。




