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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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生き抜くために戦う 1

 ホログラムは一度消え中央を廊下から舞台まで真っすぐ延びる通路を挟んでベニユキの横にある長椅子へと移動するミカ。

 ミカは空中に投影されている浮かび上がった映像のため実体はないが、彼女も椅子に座りベニユキに目線を合わせる。


『体が重いと言っていましたね。強い疲労感を感じるのは、現在この箱舟の人体のクローニングが完全ではないからです。現在の箱舟は燃料の節約のためクローニングを行うにあたって若干の簡素化を図っていました。その副作用で、過度な運動をすると一気に疲労が押し寄せるようになっています』

「完全ではない? ちょっとまて、クローンは死んでしまったエレオノーラたちだけじゃないのか?」


 驚きから立ち上がろうとし、力が途中で抜け椅子から滑り落ちるベニユキ。


『箱舟にいる皆さんはすでにクローン体です。オリジナルのベニユキ様たちは、我々箱舟を見送り元の世界に残りました』

「なら……俺らは初めから模造品、死のうが死ななかろうがどのみち帰れないのか? 俺らはここで何かをさせた後、いなかったことにされるんじゃないのか? 悪趣味な非人道的なゲームの駒じゃなくて、必要なものを取りに行かせるための作業員、この箱舟って施設に組み込まれた歯車ってことか……」


『いいえ、あなた方を連れて箱舟は元の世界に帰ります』

「どうして?」


『歯車というのなら本来の世界でも、人は世界を動かす歯車であることは変わらないのではないでしょうか? この箱舟は必要なものを手に入れ皆様とともに元の世界に帰ること。どうか、私の目的を達成させる手伝いを』

「断ったらほかの誰かが明日から俺の代わりに戦うんだろうな。それで、わざわざ俺を呼び出した目的はなんだ?」


『ご相談がしたくて』

「相談?」


『皆様への戦闘の説明と箱舟稼働の燃料を手に入れ、箱舟は徐々に本来の航路へと戻ろうとしています。次に箱舟が回収すべきものは、やむなく切り離した娯楽関係の施設の復旧か、より生存性を高めるためにより充実した武装、出来れば防具や支援道具が回収できる見込みのある場所の捜索か、ベニユキさんに決めてもらいたいんです』

「俺に相談する必要あるのかよ?」


『こちらも使命で行っていること、出来れば協力する皆様とは敵対ではなく友好的に事を進めていきたいのです』

「……なら、娯楽関係がいい。戦っては寝るだけの日々は心がすさむ、戦闘から逃避できる場所が欲しい。食事や風呂場を必要としているからな、これらが用意できればひとまずの不満は軽減されるんじゃないか?」


『わかりました。……ではすこし危険度が高いですが箱舟を修復できる金属が豊富な場所へと向かいます』

「今度も人が死ぬか」


『とはいえ、皆さまが理不尽に殺されるような場所ではないはずです。目星をつけた世界は5つ、現在の皆さまの能力からしていけそうな世界は一つ』

「何に話し、だ」


『……すでに体も動かなくなっていますか? 無茶をさせてしまい申し訳ございません、作業ドローンでお部屋へとお運びします。明日もどうか皆さま生き抜いてください』


 目に見えない強制的な力で眠らされるようにベニユキはそのまま長椅子に横になった。



 --



 どこだかわからないがベニユキは住居の屋内のソファーに座っている。

 どういった経緯で集めたか思い出せないが室内は見慣れた家具が並んでおり、鮮明に思い出すことができなかったがひどく懐かしさを感じる空間だった。

 窓から先込む光の下で白い猫が丸まって眠っている。

 箱舟の中の人工的な明かりではない太陽の明かりが差し込む白く眩しくぼやけた世界に明るい声が響く。


「なぁ、ユキ! 見てくれ、条件付きだが私の研究に資金援助をしてくれるそうだ! これで、希望は何とか繋がったな! 私の!」


 とても短く切られたわずかに金色を帯びたプラチナブロンドの髪の女性が、透明なまな板のようなタブレットを両手で抱えてベニユキへと近寄ってくる。


「浮かれないな? 嬉しくないのかユキ、応援してくれた私の夢に近づいているのだぞ」


 そして隣に腰掛けると彼女は反応の薄さに怪訝そうな顔をしてベニユキの顔を覗き込んできた。


「ユキ、私の応援はしてくれないのか?」

「いいや、嬉しいさ。出会ったときから言っていたことだし、夢がかなうっていうのなら応援する。大企業だし、そんなところに誘われるっていうのはすごいことだっていうのもわかるさ」


 彼女とのやり取りは思い出を再生しているようで自分意志と関係なく口が動く。

 彼女は膝の上のタブレットを置き天井に向かって両手を伸ばす。


「人と寄り添い、人と生きる人工知能。学習を重ね一緒に成長だってする、素晴らしくないか? ペットはご主人に癒しを提供し、私の作りたいAIはご主人の健康を管理し未来を保証する。世間話の相手になり、相談相手になり、専属の医師となる素晴らしくない?」

「いいことだと思うよ、こんな世の中だし」


「予算も進行具合によっては打ち切られるけどAI技術部門の一角を貸してもらえるってだけだけど、独学でなんとかするよりよっぽど進みが早いと思うんだ。あそこには、技術もノウハウもある。ユキの心配は私と一緒の時間が取れないってところか、ふふっ」

「なんだよ」


「今夜は覚悟しておけよ? 甘え殺してやるから」




 --



 そのまま意識は遠のいていきベニユキは睡眠カプセルの中で目を覚ます。


「夢……いや、昔の記憶か。中途半端に記憶を返してきたな……知り合いのはず、思い出せないか……夢に出てくるほどの間柄……猫」


 猫に引っ掻かれてつけられた手の甲の傷があった場所をなぞる。

 起き上がると服を着ていないのも慣れベニユキはすぐに着替えようとしてクローゼットの扉を開く。

 用意されていた服装は変わらないものの、黒かったジャケットは焦茶色に変わっていた。


『皆様おはようございます。皆さま着替えましたらロビーへとお集まりください』


 ミカの声が響き渡っている。

 廊下に出るとベニユキ以外の他の者たちの衣装も色が変わっており、すぐにテンメイを連れたエレオノーラが近寄って来きた。

 2人も服装がかわっていて、ベニユキと同じこげ茶色の色合いのジャケット。


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