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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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天使のもとへ生きて戻る 4

 整った顔立ちだが顔色が悪く、赤黒い髪も乱れさながら幽霊の様。


「ああ自己紹介が遅れた。私はブラットフォード、というらしい。それ以外はどこの誰ともわからない……。何も思い出せない……そうだ、あのホログラムが言っていた記憶を戻すというのは本当なのか?」

「それは本当だ、返されたのは一部だけどな。完全な記憶ではない、何回かわからないが小分けにされてる」


「それは本当に自分の記憶なのか? 返される記憶は本当に自分の記憶なのか?」

「それは……どうなんだろうな」


「生きていた思いではないが記憶の転写技術は悪用されないように、国が管理していたはずだ……おぼろげだが、この建物は国が管理しているのか?」

「そうなのか、ちょっとわからないな」


 光が集まりホログラムがベニユキの背後にミカが立つ。

 ベニユキのそばにいたブラットフォード以外の数人が、現れた彼女の姿を見て逃げるように礼拝堂を後にし部屋へと帰っていく。


『横から失礼しますブラットフォード様。当箱舟の目的のため協力していただけることで返却される皆さまの記憶は間違いなくすべてが本物の記憶、思い出ででございます。この旅の果てには、日数に関係なく完全な形で記憶をお返しします』

「信じられないと言えば、私を消すか?」


『少なくともプラスには働きません、ですが態度はどうであれ協力する姿勢を見せていただければ問題はありません。あくまで目的を果たせればそれでいいのです』

「こんなことをしなければならないのが、どうして私たちだったのか説明はあるのか?」


『それは旅の途中で開示されます。それでは、どうか皆さまが戦い生き残れること、この旅が終わることを祈っております』

「最後だが……私は消されるか?」


『戦闘中の誤射は非協力的とはみなしません、もとより戦闘のプロはそれほどおりませんでしたから。今回はただの悲劇、ですが続くようならば……少し考えなければなりませんので、出来るだけ避けてくださいそれでは失礼します』


 お辞儀をしてミカは消える。

 少しの間ミカの現れた場所を見ていた。


「なんで出てきたんだ?」

「常に私たちを見ているぞということではないか?」


「ところで誤射って?」

「怪獣が現れ皆パニックを起こして私の射線に入ってきた味方を誤って撃ってしまった。死んではいないが大怪我をさせてしまって戻ってきてすぐに寝かせた、そうしてくれとあのホログラムに言われたのでな」


「そういえば、そっちは何人残ったんだ?」

「誤射してしまった仲間と私を入れての5人だ。重ね重ね済まない、いろいろ起こり過ぎて頭が整理できず頭が回らないんだ。怪我の痛みと過度な心的負荷、これが夢でないことは」


「わかった。無理に話させて悪いな、休んでくれ」

「また明日会おう。……そうなるとまた外に出ることになるが」


 ブラットフォードは立ち上がりよたよたと危なげな足取りで部屋へと向かって歩いていく。

 彼女を見送るとエレオノーラがやってくる。


「むこうも酷かったんですか?」

「そうみたいだ、話は聞けなかったが俺らも休むか? やけに疲れた」


「そうですね……なんか疲労感も酷いですし。私も休もうかな」

「じゃぁ、また明日なエレオノーラ」


 食事を終え話すこともなくなりごみを捨て次第自分の部屋へと戻っていく。



‐‐



 睡眠カプセルに入ったベニユキは眠りに落ちたが少しして目が覚めた。

 部屋の外は電源は落とされ漆黒の闇、カプセルの明かりだけが狭く無機質な部屋を照らしている。

 今回は服は着たまま寝ており、ベニユキは起き上がると部屋の外に出る扉の鍵も開いておりそのまま部屋を出た。


 廊下には誰もおらず動きを検知して真上の発光パネルが光る。

 誰もいなかったことでベニユキは自分だけが途中で目覚めたことを知り首をかしげた。


「俺だけ目が覚めたのか?」


 暗闇に向かって話しかけると虚空からミカの声が帰って来る。


『はい、誠に勝手ながらこちらでベニユキ様をお呼びしました。どうぞ、ロビーまで来てください』


 廊下に進むとベニユキの上の発光パネルが点灯していく。

 しっかり休めなかったからかベニユキはまっすぐ歩けずによろけ壁に手をつきながら歩く。


「ちゃんと寝れなかったからか、体がだるいな……まっすぐ歩けな……」


 礼拝堂へとやってくると暗闇に光が集まっていき、舞台の上にミカのホログラムが浮かび上がった。

 体が重く長椅子の背もたれを掴んで歩いていたがベニユキは途中であきらめ腰掛ける。


「なんか体が重いな……。それで、何の用があって、俺を呼び出したんだ?」

『そう警戒しなくても、いいではありませんか。どんな人にも気さくに話しかけるベニユキ様。ひとまずはこの二回でしっかりとこちらの要求に従い戦い、生き残っていただいたので感謝をのべようと思いまして』


 距離があり遠くにいても静まり返った礼拝堂は声がよく通り、彼女にもベニユキの声が届いているようで離れた場所から話しかけても返事が返ってくる。


「なんか声が響くな」

『反響音はこちらで調整できます』


「こっちはこんなこと早く終わらせて帰りたいだけだよ。それにそれは、俺だけの力じゃないだろ?」

『ですが、些細なことではありますがあなたがいなければ最初のデータ回収はもっと難航する可能性がありました。それにあなたは私を他の方に比べて敵視していませんので、出来るだけ早くお話をしておきたかったのです』


「いまは、だけどな。今後もそうとは限らないだろ。……ところで昨日今日とうまくいっているけど失敗したらどうなるんだ?」

『やむなく諦める場合もあるでしょうが、最悪、うまくいくまで何度繰り返す必要もあります。全滅してしまえば皆様にはその日の記憶がありませんから』


「どうして俺らを戦わせる? やっぱり、どこかで誰かが俺らがあたふたした姿を見て笑っているのか?」

『そうではないんです、ですが何度も言っているように今は言えません。今話したとしても今以上に疑念を深めるだけですから。まだその時ではないのです。説明する時まで待っていてください』

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