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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
24/173

天使のもとへ生きて戻る 3

 外の光が消えてようやく全員が力を抜く。

 テンメイが銃を床に置きへたり込むとすぐに水たまりに足を突っ込み濡れた靴と靴下を脱ぎ棄てた。

 同じようにエレオノーラも濡れた靴を脱いだ。


『みなさま、本日もありがとうございました。皆様のおかげで箱舟は本格的に動き出すことができます。今後は要望のあった箱舟内の施設のいくつかを稼働させたいと思います』

「これからも、あんな怪物と戦わさせられるのか」


 ミカにベニユキが尋ねる。


『はい、必要なものを確保してもらうためこれからもお願いしたします』

「昨日と違う場所だったけど世界はどうなっちまったんだ?」


『この前とは別の世界です。当箱舟は並行世界を渡る船、今日の世界もベニユキさんたちがいた本来の世界とは他の世界でございます。私たちは世界を渡り目的を達成させるのです』

「別の世界だって? だったら、俺らって別の世界から集められたのか?」


『いいえ、皆さまは私、そしてこの箱舟を作った世界の生まれです。箱舟を完全な形へと戻し、あなたたちには強くなっていただく。そのために箱舟と私は作られあなたたちはここにいます』

「それが本当だとして、俺たちはちゃんと元の世界に返してくれるのか」


『はい、旅の果てに必ず私たちは箱舟はあの世界に帰ります。まずはあなた方に強くなっていただくこと、多くの世界を巡り戦闘経験を積んでください。ベニユキさん、グリフィンさん、持ち帰っていただいた武器をお渡ししていただければ解析します』


 その手に持った灰色の銃を見てグリフィンが持ち帰った拳銃と機関銃を床に置く。


「そうだった、この武器のことお願いしようか。今日も、生きて戻ったのは俺たちだけなのか?」


『いいえ、先の戻ってきている班もあり彼らは先に戻り休んでおられます。原生生物との戦いで怪我をなされた方はすぐに自室に戻りカプセルに入ってください』

「今回は昨日より生存者がいたか、よかった」


 話を聞いていたマルティンは水を飲むと大きく息を吐いた。


「このまま記憶が戻らない人たちだらけってのも大変だからね。いろいろ考えたいことが増えたけど、この地獄で生きていく仲間が増えて嬉しいよ」


 エレベーターが速度を落とし上へと戻ってくると礼拝堂の長椅子に座り水や食事をとって休む、生き残って戻ってきた数人の姿。

 武器などはその辺に置き捨てられておりベニユキたちが戻ってきても視線を向けるだけ。


「目のこともあるしグリフィンはすぐに部屋に戻った方がいい」

「ああ、激しく痛むからそうさせてもらうよ。ではお先に、また明日会おう」


 舞台を降りそのまま奥へと消えていくグリフィン。


 ウーノンやテオたちはグリフィンと軽い挨拶をかわし水と携帯食料を取りに行き近くの長椅子に座って食べ始める。

 テンメイも裸足でペタペタと足音を立てて舞台を降りていく。

 ベニユキも彼らの後を追って部隊を降りようとするとエレオノーラに袖を掴まれた。


「どうしたエレオノーラ、疲れただろ。俺らも休もう、起きてからなにも食わずだったし歩き回って腹も減っただろ、食べるものあれしかないけど」

「こんなことを毎日続けていかなければならないのですか?」


「あのAIに聞いてくれ」

「うぅ、どうしてこんなところに」


 エレオノーラとともに元あった位置に武器を返し代わりに携帯食料を取って長椅子に向かう。


「それはみんなが思ってるだよ。記憶が戻っていったら思い出せるのか、それとも本当にどこかで誘拐されてここで戦わさせられているのか」

「どのみち戦い続けなければならないんですもんね」


「いつか解放されると信じるしかないだろ、記憶が返されるうちは従うつもりだよ」

「思い出すためにも帰るためにも、それしかないですもんね……」


「明日からは戦ってくれるか? 戦力になってくれないときつい」

「はい……、出来るだけ頑張ってみます」


 テンメイと食事を始めるエレオノーラと別れ、ベニユキは離れたところで食事をする他の生存者のもとへと向かった。

 数人はすでに部屋に帰っていて見知らぬ顔は3名ほど、青い顔をして椅子に腰かけ頭を抱えている。


「……あんたらもお疲れだったな、大丈夫か?」


 ベニユキに声を掛けられ足を小刻みに揺らしていたウェーブのかかった暗い赤毛の髪の女性が顔を上げた。


「……君は?」

「俺はベニユキ。今日と同じように昨日を生きぬいて今日がここで暮らす2日目だ」


「あの世界を2日も……、昨日の私は……私は何日耐えられるか……きっと精神がおかしくんってしまう。君たちが見たかどうかわからないが巨大な鳥が襲って来たんだ、戦おうとしたがどうしてこんなことをしているかもわからないし、自分たちの生きてきた記憶もないし、怪物は現れるしでパニックを起こしてしまって半数があの機械を離れてしまってそのまま行方不明に」

「ああ、俺らも鳥やらワニやらに襲われたよ、2人死んだ」


「そっちは、たった2人か」

「数を気にしても仕方ないだろ死んでるんだ。一日程度じゃ、そんなに変わらないよ。それに一つ訂正しておくことがある、あの場所は昨日とは違う場所だった」


 話を聞いて彼女はまた頭を抱えた。


「ああ、わけもわからないところで目を覚まし深い理由も教えられず、なぜ自分が戦うのかどうしてこんなことをするのかと考えながら戻ってきてしまったよ。あの場所がどこの国だったのかわからなかったけど、人工物があったってことは人が住んでいたということ。逃げた何人かについて行けばよかったかもしれない」

「それでもあの機械を守りながら戻ってきたんだな」


「ここには食べ物もあるし、まだどうなっているのかわからないからもう少し情報を集めたかった。それにここにあるのは掃除ロボットとホログラムだけ水と食料を確保し部屋に籠れば最悪戦いに行かなくても済むと考えたんだ」

「ああ、……でもあのAIのいう通りにしないと明日には消されてここから消える。逃げたやつらも明日にはここで目を覚ますこともできる……たぶんないけどな」


「……そうなのか?」

「とりあえず、しばらくはあのAIの言うことを大人しく聞くことにするのをお勧めするよ。従った果てがどうなるかわからないけどな」


「ああ、そうだな……少し考えさせてくれ」

「そういえば、あんたの名前は?」


 彼女は顔上げて髪をかき分け疲れた目でベニユキを見る。

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