天使のもとへ生きて戻る 2
それでも銃の音と鱗を突き抜け飛んでくる銃弾に驚き巨鳥は後ずさった。
一歩動くだけでも地面が揺れ大量の水しぶきが上がり水面に大きな波が起きる。
「むきになって戦うな、ひるんでいるうちに走り抜けろ!」
グリフィンの指示に皆銃を撃ちながらも走り出す。
進むためには目の前に大きく広がる水たまりの中を通らねばならず、全員が赤い水しぶきを上げて走っていく。
エレオノーラはただ怖がるだけで悲鳴も上げず皆の後について走る。
「足元滑る、ぬかるむ」
「進め、今押し返しているうちに。そこの黒の機関銃君は先に行け、我々が支援する。その武器が一番効果があるようだ、我々が無事に向こうに渡れるように」
鳥に踏まれ拉げて立ち上がることもできず、ただ曲がった足を動かして軋む音を上げているオートマトンの隣りを走り抜ける。
先にわたり切ったウーノン、テンメイ、マルティンらの支援を受けてベニユキたちも水たまりを横断した。
全員が水たまりを渡り先に売っていたウーノンの加勢にグリフィンたちもそれぞれが持った茶色い突撃銃で撃つ。
地価に穴があったのか地面を踏み抜きバランスを崩して倒れる巨鳥。
穴からは黒い虫が噴き出すそうに湧き出て四方に飛び去る。
地面を踏み抜きバランスを崩したことでパニックを起こしたのか巨鳥はその後慌てて逃げ出していく。
「意外と臆病だったな」
「あれが仲間を呼ばないとも限らない、警戒しながら戻るとしよう。あれが複数匹で来たら生きて戻ることは絶望的かもしれないが」
「ここ来てからずっと気を張ってるよ、落ち着けるところがないだろう」
「まぁ、それはあるな。肩が凝る、さぁでは行こう空から襲われる前に」
移動しながらの戦闘のため置いても戦えず、今は使えない白い機関銃をグリフィンは手放さなかった。
テンメイを追いかけるエレオノーラの姿を見つけ歩み寄る。
「それで、エレオノーラは今の戦闘で何をしていた?」
「え、えっと……テンメイさんのお手伝いしてました」
視線を逸らすエレオノーラ。
一人戦わずオートマトンを盾にするように走り回っていた。
そこにテンメイが入ってきてエレオノーラの背中を軽くたたく。
「私の代わりに弾を詰めててくれた。休んでる間にちゃんと撃ち方教えたのに何もしなかったから、私が撃ってエレオが弾込めさせてた、無理させるのは良くないってあきらめた」
「この機械を守るってことまでは期待しないけど、せめて自分の身を守って欲しいんだけど」
テンメイが割って入る。
「昨日は彼女を守れなかったから気に掛けるのはわかるけど、昨日の私らがそうだったようにこの子はまだ混乱してる」
「……まぁな、彼女を見ると昨日のことが頭をよぎるからつい」
「ああ、戦いに参加しなくてあのAIに排除されるのが怖いのか」
「それもあるな、昨日の記憶がないエレオノーラには説明しても伝わりにくそうだから」
来た道と同じを通り、行きでオートマトンが踏み倒したシダの葉の道を進む。
途中どこかの葉の上から落ちて来たのかテンメイの背中に知らぬ間に張り付いた昆虫を、彼女が気が付かないようそっと銃の銃床でつついて落とす。
皆の後をついてくるエレオノーラが後ろからベニユキに話しかけてくる。
「優しいですね」
「騒がれたくないだけだよ」
「私って、いつ死んだんですか?」
「どうした?」
「聞いたんです、それてマルティンさんやテンメイさんもみんな私のことを心配してくれるんですけど。私、その、思い出せなくて」
「みんな自分が生きてきた記憶、思い出を奪われてる。過ごした時間を思い出せないのはあれだけど、死んだときの記憶なんてあったら頭がおかしくなるだろ」
木々の太い幹の奥に宙に浮く箱舟への入口見えてきた。
険しい目つきで周囲を警戒し暗かった表情に希望の表情が浮かぶ。
「やっと戻ってきたか」
「早く安全なところに戻りたいです」
「もう寝たい」
「起きたらまた別の場所で何かと戦わされるんだろうな」
戻ってきたエレベーターの周囲には誰の姿もなく複数のオートマトンの足跡だけ。
湿気の多い風が吹き抜け木々がざわめく。
「俺たちが一番か?」
ベニユキの問いに辺りを見渡しテンメイが希望を失った声でつぶやく。
「誰もいないね……生き残ったのまた私たちだけかも」
エレベーターのもとまでくると宙に浮かぶ施設の入口からミカの声が響く。
『皆様おかえりなさいませ。先に燃料を集めてきたオートマトンの回収をさせてもらいます、せっかく皆様に守っていただいた資源をここまで来て失うわけにはいきませんので。皆様の帰還まで数分お待ちください』
円筒を積んだオートマトンだけが先にエレベーター通路から延びてきた細い鎖に吊るされて登っていく。
もう一両はその場に残りミカの声がまた聞こえてきた。
『お待たせしました、どうぞ……』
残ったオートマトン一台は待機したままで動かずベニユキたちがエレベーターに乗り込もうとしているとエンジン音と足音が聞こえてくる。
音の聞こえてくる方を見れば荷台に大量の円筒を積んだオートマンが一本足を失って帰って来た。
オートマトンとともに行動する人の影はなく機械は金属の擦れ合う耳障りの音を上げてエレベーターへと向かってくる。
「向こうは大変だったみたいだな……」
『……すみません。最後の一台も戻ってきましたので先に回収してもよろしいでしょうか?』
オートマトンの回収にそこまで時間がかからない為、なるべく素早く回収してもらうためベニユキたちは一度エレベーターを降り損傷し戻ってきたオートマトンを先に進ませた。
傷つき一人で戻ってきたオートマトンの回収が終わりようやく生存者たちがエレベーターに乗り込む。
『回収に協力していただきありがとうございます。お待たせしました、それでは引き上げます』
皆が乗るとたたまれていた手すりが上がり鎖を巻き上げてエレベーターは施設の中へと戻る。