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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
1章 --永久を繰り返すアルカアンヘル--
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天使のもとへ生きて戻る 1

 少し見ない間に撃ち落とした怪鳥の死骸に群がる虫を食べるため、より大きな昆虫が集まってきていた。

 ウーノンは弾倉を取り換えながら空を見上げていると隣に額の汗をぬぐいながらマルティンがやってくる。


「守るってのは難しいな」

「助かったよウーノン。全滅するところだった」


「だけどまた、一人死んでしまった」

「仕方ないさ相手は人ですらなかったんだ、あんな化け物がいるんなんて誰もわからなかったよ。直前まで気が付かなかったわけだし」


「思い出した返された記憶、俺はどこかで誰かを守る仕事をしていた。記憶の中だとしっかり守れていたんだ、誰かを」

「そうだったんだ、それは辛いね」


「クローニングで死んでも明日にはまた会えるらしいが、今日の記憶はない」

「そうだね、自分が死んだ記憶はない。……にしても、クローニングは一人当たり十数億円、記憶の転写技術は国の認可を受けた施設でないと大罪なんだけど」


「解放された時、捕まったりしないだろうか」

「そこだよね……」


 ずっと作業を続けるオートマトンの上にはすでに40を超える塊が乗っていた。

 話しているとマルティンたちのところにベニユキがふらふらと現れる。


「どれくらいたったかわかるか?」

「さぁね、感覚だと1時間以上はいる気もするけど。誰も時計を持っていないから正確な時間はわからない」


「腕時計とか、何か時計が欲しいな」

「そうだね、時間がわかったからって何が変わるわけでもないけど」


 日の位置からおおよその時間を判断しようと見上げても、空を覆う緑の天井に太陽の位置を見つけることもできない。

 皆が空を見上げたり森の多くから怪物が現れないかと見回していると、ふとベニユキが崩れた建物のコンクリートに埋まった鉄の塊を見つける。


「なぁ、マルティンあれって戦車か?」

「建物の陰でよくわからないけどそうっぽいね」


 瓦礫の間から履帯と長い筒が伸びていて似たようなものがその奥にも見えた。


「ちょっと見てくる」

「気を付けてベニユキ君、どこに何がいるかわからないから」


 グリフィンが茶色い銃を拾ったようにあの戦車の中で何か見つけられてないか探しに行こうとベニユキは二人のそばから離れる。

 怪物だらけの森は穏やかで襲ってくるものがいなければ平和そのもの。


 建物と太い蔦の陰に隠れているグリフィンのもとへと身を屈めて近寄った。


「そこに見えるのは戦車か?」

「みたいだな」


 毒を浴びた目が痛む様でグリフィンは片目を手で押さえ険しい表情をしている。


「目、大丈夫か……」

「できることは何もない、出来れば早く帰りたいってだけだな」


「グリフィン、少し向こうを見てくる」

「負傷さえしてなければ俺も行きたいところだったが……。まぁ行くのは勝手だが、怪物は引き連れてくるなよ」


「何かあったら援護頼めるか?」

「ならそっちに何かあったら、俺にも分け前をもらおうか。良いものが見つかることをここで楽しみにしているさ」


 ベニユキは一人崩れた建物の瓦礫のもとへと近寄っていく。

 市街地仕様なのか灰色の塗装の戦車があった。


「昨日とは違う国の装備か? あの施設はいろんな国を移動して回っているのか」


 開いたハッチから戦車の内部を覗くことができ、内部には大きな落ち葉と雨水がたまっている。

 車内に砲塔に乗せられていただろう白色、黒色、灰色の迷彩のついた銃身の短い機関銃が落ちている。


「やっぱり見たことない武器か、そういう記憶が帰ってきたところで何がわかるわけでもないけど」


 使えるか当かは別として一度その銃を回収しベニユキは他の戦車も見て回る。

 近くには大型の動物の骨が散らばっており、白い流木のような太い骨に鉛玉がめり込んでいるのが見えた。


「この骨もかなり古いものでもないか、死んで虫に食われたってことか……」


 どれだけ見回してもこの戦車に乗っていた兵隊の骸を見つけることはできず、最終的には機関銃と拳銃を二つ、それといくつかの弾倉を拾って皆の元へと戻ってきた。

 両手に武器を持って帰るベニユキを見て戦車の方向を見ていたグリフィンが興味深げに尋ねる。


「それは? なかなか面白いものを持ち帰ってきたな」

「持ち帰ればあのAIが新しいのと作ってくれると思って、拾ってきてみた」


「この武器みたいに量産してくれるというわけか」

「これはデータからの復元だったみたいだけど」


 ベニユキの持ち帰った機関銃を差し出しグリフィンは銃を受け取ると引き金には触れずに構えた。


「銃身が短い、変わった設計だな。ほぉ、銃身を切り詰めただけじゃないな、黒い機関銃より幾分か軽いな。銃身が短く威力と命中精度は期待できないだろうが、短い分取り回しやすく至近距離での戦いでは活躍してくれるだろうな」

「詳しい奴がいて助かるな、使える武器か?」


「どちらの意味か分からないが、整備さえすればまた扱えるだろう。戦力としてなら少し心もとないな、軽く負担になりにくく扱いやすいというだけで先ほどの怪物に通用するかと言われれば今ある黒い機関銃に劣るとは思うな」

「こっちの銃は?」


 差し出された拳銃を取り軽く見るグリフィン。


「口径は大きい、が。まぁ、ないよりかはまし、程度の武器だろうな」

「そうか」


 音が止まりオートマトンが結合を解き立ち上がる。

 積みあがった円柱の上に網がかけられ固定され、それを見て回収が終わったと悟り隠れて様子を見守っていたベニユキたちが立ち上がり体を伸した。

 塊を積んだものを中心に3機のオートマトンは黒煙を吐き出し歩き出す。


「行こう、帰れる!」


 テンメイが元気よく来た道を戻るように歩き出したオートマトンの後を追って駆け出した。

 受け取った白い機関銃を持ったままオートマトンの後について行くグリフィンはテンメイに警告する。


「大きな声を出さないように、空の捕食者と戦うのは厄介だ。君の不注意でみんな死ぬ」

「あ、ごめんなさい」


 来る時と同じ歩き出すオートマトンを追いかけながらベニユキたちはしきりに辺りを見て回りながら進む。

 ここまで来て死ぬわけにはいかない。

 来た道を戻るということは再びアインが犠牲となったあの水たまりを横切ることになる。


「上だけでなく下にも気を付けて」

「湿っていて転びやすいからな。冗談だよ」

「何度でもいうが引き金に指をかけたまま歩くなよ、滑った拍子に手に力が入り誤射する」


 大きなシダの葉をかき分け剥き出しの木の根が絡まり合い、そこに雨水の溜まった場所へと戻ってきた。

 去り際と同じく水たまりは赤く濁っている。


「なっ!」


 ただ先ほどはなかった大きなものがそこにいた。


「くそっ」


 音を立て煙を上げるオートマトンに気が付いており、人の背より高く育つシダの葉をかき分けて追いついたときには既にそれは目と鼻の先にいた。

 翼は退化し小さく、代わりに発達した太い二本足で立つ緑と藍の光沢のある鱗を持つ巨大な鳥。


 頭だけで乗用車ほどの大きさ首を上げ立ち上がればビルの四階ほどに達する巨体は、最後尾のオートマトンをその足で抑え嘴でつついており金属の脚はプラスチックの玩具のように容易に破損した。

 皆はすぐに武器を構える。


「何なんだこの生き物は!」

「でかすぎる……、怪獣じゃないか」


 怪物が何かをする前に先制攻撃。

 至近距離で的は大きくその体に命中こそするが、羽毛の代わりに生える鱗がほとんどの銃弾を弾く。

 嘴の硬度が最も高く頭を狙って撃つウーノンが持つ黒い機関銃でもほとんど傷がつかない。


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