天を目指す植物群 5
素早く背後に回り込もうとし水から大きなしぶきを上げて飛び掛かる。
咄嗟に銃床で殴ろうとグリフィンが突撃銃を振るが、ワニは牙の生えた大きな口を開くと上顎から水しぶきを噴射した。
ワニから吐かれた液体は噴水のように広い範囲に散らばる。
吐かれた体液にかかったグリフィンは顔半分を押さえ膝をつくとそのまま足元の水で顔を洗う。
「気を付けろ、毒を吐くぞ!」
顔を押さえながらグリフィンが叫ぶ。
「散れ、固まるな混乱すれば味方の射線に飛び出る! 動物をあまく見るなよ、犬であろうと人を殺すぞ」
「こんな怪獣見て侮る奴なんていないだろ!」
黒い機関銃は反動が大きく大きく散らばって狙った場所に命中せず、無数の水柱を立てる。
しかしそれでも放たれる無数の弾丸の一部がが肉を引き裂き傷を負ったワニは大きく暴れる。
片腕で黒い銃を持ち命中率の悪さを接近で補おうとし追撃したアインに更に新たなワニが噛みつく。
「アイン!」
集中的に攻撃されアインに噛みついた一匹を倒すが、気が付けば周囲には8匹と数が増えていた。
すでにアインは取り囲まれ戦闘で濁った水たまりは血で赤く染まる。
おこぼれをもらい損ね代わりに他の物を狙い、テオに迫る腹をすかせたワニの頭にキュリルがバットで殴った。
地下室の壁に穴を開けた威力の攻撃を受けてもワニは止まらず体を横に向け長い尾でキュリルを打ち吹き飛ばす。
「オートマトンを追え。行こう、彼が終わったら我々に向かってくるだろう」
数的に不利と判断しグリフィンが銃を撃ちながら引く。
「……くそっ」
「囲まれる前に離れろ!」
すぐにテンメイが離れ、その後にキュリルとテオが引き、マルティンやベニユキも後ろに下がり、テオやキュリルも水から上がり最後にウーノンが流れてきたカーボーイハットを拾い上げ周囲を牽制しながら離れる。
水たまりから上がり遠回りしながら先に進んでいったオートマトンを追いかけた。
エレオノーラがベニユキの腕を引きワニの集まる場所を指さす。
「あの人、助けないんですか?」
「……ああ、あの数を相手にできない」
「でも、みんなで力を合わせれば……」
「優しいな……でも、弾を当てられなければ助けられない。エレオノーラはそもそも怖くて撃てなかっただろ?」
「……だってこれは、人を傷つける物じゃないですか」
「違うよ、身を守るためのものだ」
水たまりから出て追いかけてくるが陸に上がったとたんワニの移動速度が落ち、前に出た3匹が一瞬にして頭を撃たれて絶命する。
素早く来た道を引き返していき波の立つ赤い水たまりには横を向いて水に浮いているワニの死骸が残った。
皆が戦闘中もオートマトンは止まることなく進んでおり、機械の足跡を探しエンジン音の聞こえる方へと歩いていく。
「大丈夫かよ……その眼、真っ赤だぞ」
毒を浴びたグリフィンの目は真っ赤に純血していた。
「どうしようもないだろう、すごく痛むが。戻ったところで治療薬もない、それに死ぬほどの強さもない、と祈ろう」
痛みか片目が見えないせいか弾倉の取り換えに手間取るグリフィン。
「この後の戦闘に支障が出そうだな」
「そのようだ、迷惑をかけることになるな」
「グリフィンの判断がなければ今も戦ってたと思う、俺らは怪物と戦うことじゃない。あのAIの命令を聞くだけ」
「そうだな、アイン君には悪いことをした」
シダの葉をかき分け進んでいったオートマトンを探す。
水たまりを通り過ぎるとオートマトンは建物の外壁の前で止まっていた。
「ようやく見つけた」
「なんであそこで止まってるんだ?」
1台目の蟹の鋏のようなアームが付いたオートマトンが足を折りたたみ地面に伏せると、酸素ボンベのような細長いタンクを背負った2台目がその上に乗り足を地面に固定する。
最後にショベルヘッドを付けた3台目が重なる二台の横に伏せて待機した。
「合体しました」
「変形型のロボットみたいだね、付属してた腕は使わないのか」
何をしているかわからないがオートマトンからはエンジン音とは別の何かを削るゴリゴリという音が聞こえてくる。
「下に穴を開けているのか?」
「なんであれ、この場所が目的地のようだ」
「何してるかわからないけど。終わるまでここにいればいいのか」
全員で周囲を見て回り危険な生物がいないかを探す。
巨大樹に飲み込まれた建物の残骸、たまに通る人の拳ほどの大きさから大型犬ほどある虫たち。
安全だとわかると改めて毒液のかかった顔を洗うグリフィン。
何度も顔を洗う姿を見て心配しベニユキが近づくとグリフィンは顔を上げて振り返る。
真っ赤になった眼とこすり過ぎて赤くなった目の周り、瞼は痙攣しぴくぴくと動く。
「失明したようだ、こっちの目はもう光を感じない」
「あの箱舟が何とかしてくれると信じよう……」
しばらく、環境音とオートマトンが発するエンジン音が響いた。
移動もなく戦闘もなく、水や携帯食料を食べて時間をつぶす。
ふいにキーンと甲高い金属がぶつかったような音が頭の上から聞こえ銃を強く握って全員が空を仰ぐ。
「何の音? どっから聞こえた?」
「上から、トライアングルみたいな音でしたね。澄んだ綺麗な音」
「何か見えるか、動くものとか?」
「枝と葉っぱしか……」
音が聞こえてしばらくしても何も起きず、すぐに周囲の警戒に戻りエレオノーラが不思議そうに空を見ているだけとなる。
あいも変わらず周囲には動物サイズの昆虫が地面や巨木の幹を歩き回っていた。
時折ふらふらと近寄って来る羽虫を銃撃で落とす音が響く以外は平和な時間が進んむ。
オートマトンが何かを始めてしばらく空が薄暗くなってくる。
「暗くなってきたね雨でも降るのかな」
「木の葉が生い茂ってて空が見えねぇな」
いくら見上げても見えるのは緑色の天井にキラキラと輝く木漏れ日のみ。
どこからか重々しい音が聞こえてきて、皆が立ち上がり銃を構えて警戒していると少しして地面が揺れる。
「なんの揺れだ?」
大きな爆発音のような音がして、遠くに勢いよく芽吹く巨木の姿が見えた。
「何だ? 何が起きた?」
「なんか向こうにいきなりきがにゅっと生えたぞ」
「こっちにはなんも影響はないのか?」