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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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時が進む 2

 店主のマルティンによってテーブルに料理が並べられグラスに飲み物が注がれている最中に、足を負傷し自分で歩けないルナを車椅子に乗せベニユキたちが来店してきた。


「すまん遅れたか?」

「やぁベニユキ君、今ちょうど料理を運び終えたところさ。ルナさんを連れこちらに、今二人分持ってくるから。そういえば彼女は?」


「ああ、店の外にもう二人いる。そこで道に迷ってたネシェルと出会って4人で来たんだ」

「この店の場所分かりにくかったかな?」


「まだあちこち工事中だからな、防音幕や鉄骨の足場で目印になる建物が隠れてるせいだろうな」


 ワインの注がれたグラスを傾けテンメイが呼ぶ。


「遅いよ、もう先に始めてるからね」

「私とアンバー以外全員遅刻だからねテンメイ? 乾杯してないから、まだ飲んじゃダメだよ」


 エレオノーラが立ち上がりベニユキとともに、ルナを車いすから椅子に映す手伝いをする。


「お久しぶりですベニユキさん、ルナさん。足の調子はどうですか」

「お久しぶりエレオノーラさん。再来月にはリハビリの開始かな。お金がないからすぐに治る治療は受けられなかったけど、傷跡は残らないみたいでよかったよ」


 席を移動しベニユキとルナが隣り合って座れるように場所を開けるガーネット。

 ホルテンが席を立って二人の方へと歩いていく。


「すまないな、ペットに。ルナの足が悪くて地面もまだあちこちデコボコで、振動で痛まないようゆっくり来たんだ」

「ごめんね。この中じゃ私が一番関係ない人なのに」

「いえいえ、別の箱舟と言えどともに戦ってきたんすから一緒に祝いましょう」


 扉が閉まらず半開きのままでその隙間から外に人影が見えた。

 ホルテンと同じく体を作り直したのか年齢が下がった姿のネシェルが扉を押し、一緒にいる者の手を引く。


「何入口でもじもじしてんの、早く入って。自動ドアじゃないよここ」

「は、はい。ごめんくださいお邪魔します」


「店に入るのそんなこと言う人いないよ、今ドアにノックしようとしてたでしょ? 普通のお店に入るときはしないよ」

「そうなんですね、失礼します!」


「日常生活不便そうだね……半年間何してたの?」


 ボーイッシュな服装をしたネシェルに押されて、頭を下げて店内へとはいってくるスーツ姿の銀髪の女性。

 彼女はエレオノーラたちの姿を見て改まって頭を下げた。


「お、お久しぶりです皆さん」


 まだ新しい生活に慣れておらず何をするにも探り探りな彼女を席に座らせネシェルも席に着く。


「ネシェルちゃんもホルテン君みたいに体作り直したの?」

「私も学生ですから、学校に一人だけ大人の姿だとおかしいですから。でも流石に一般家庭の私じゃ、どうしようもなかったけどホルテンが助けてくれた」


「へぇ、優しいね。人一人作るのは決して安くはないでしょうに」

「みんな一緒に戦った仲間っすから、困ってたから」


「子供の頼みで見ず知らずの人間を、世界が違うねぇ」

「違う世界はいろいろ見てきましたから、それらと比べればお金の有る無しは小さい世界っすよ」


「嫌味に聞こえないから困るねぇ」


 場に小さい笑いが起き、席に着いたミカがグラスを渡されマルティンにお礼を言うと改まって皆に尋ねる。


「皆さまは事件後、企業は解体されバラバラになりましたが、今は何の仕事を?」


 ミカの問いに順に答え順に答える。


「私とガーネットは、異世界探査の研究を引き続き別の企業で行う予定だよ。あんなになっても異世界の技術は暮らしを良くすることに間違いは無いからね。声もかかってる」

「でも、ビーナスは無くなっちゃったし。他の研究者もデータもみんな吹っ飛んだから進みは遅いだろうけどね。それでもなぁ何とかなるでしょ、4つの箱舟だってこの世界で自力で作られたものだし」


 ハハハと笑うアンバーと同じく軽く笑うガーネット。


「ここからは遠いですけど新しい病院で働き始めました。環境は変わりましたけど人を救う仕事に変わりはありません」

「エレオノーラと同じで遠くの病院さ、この体のままだからちょっとばかしいろいろ面倒な書類が多かったが私も今は普通の生活に戻りつつあるな。新しい人生さ」


 前の職場と今の職場での仕事を交互に思い浮かべるエレオノーラとブラットフォード。


「俺はまだ学生っす、日常に戻って少し退屈にはなったっす」

「私も、もう授業も始まってて課題が多い。銃撃ちたい」


 淡々と答えるホルテンと頭を抱えるネシェル。


「別支部で働いててここにただ観光ついでにデータで渡せない紙の書類を届けに来ていた私は、会社の名前が変わったけど事件の前も後も何も変わらなかったわ!」


 ワイングラスを顔の前で傾けながらテンメイが答える。


「ベニユキさんたちは?」


「俺は今まで通りの警備会社で働いてる。若返って少し驚かれたくらいだ」

「私はまた人工知能開発を、機械に滅ぼれた世界を見て来たからって夢は諦めないよ。それでミカが……」


 ルナに振られ答える少し恥ずかしがりながら答えるミカ。


「えッとですね、日常生活の勉強をしている間に家にお邪魔させていただいていて。ベニユキさんがお仕事に行っている間、ネコさんのお世話と足を怪我したルナさんのお世話をしています。知識と実際にやるという子とは違って戸惑うことばかりですけど、なんとか」


 追加でマルティンが料理を運んでくるとミカたちのグラスを用意し話に加わる。


「僕は見ての通りここで店を開いているよ、あれだけの戦闘だったけどこの建物は無傷でよかったよ。まぁ、お客はあんまりこないけどね」

「さてとりあえず、人はそろったかな。ほら早くマルティンも席について、乾杯するよ」


 テンメイが仕切り皆が席に着きグラスを持つ。


「ああちょっと待って、厨房の彼女らも呼んでくる」

「早くね」


 マルティンが厨房へと戻ろうとするとちょうど店の扉が開く。

 誰が来たのかと振り返ると十数人がぞろぞろと人が入ってくる。


「すまんな、怪物が出たというから見に行っていた。もう始まっているか?」

「大丈夫、グダグダでまだ始まってない。今ちょうど始まるところでまた開始が遅くなった」


 ため息をつきテンメイは席を立つと店の入り口へと歩いていく。


「私今日のために昨日からごはん抜いてきてるんだから、早く席についてよ亡霊」

「君が楽しみにしていたのはよくわかるが、それは知らんよ」


「記憶を引き継ぐなんかよくわからないやつが、機械じゃなくてなんかよくわからない力のおかげで体が復元されたときに死んだときの記憶が勝手にインストールされてよかったね!」

「説明ありがとうテンメイ君、君が空腹で不機嫌なのはよくわかったよ」


 ちょこんと座っていたミカが説明のために立ち上がった。


「あれは思考の転写です、思想侵攻の世界の怪物がアンバーさんの行動を操ったものと飽和蒸気のエース機の情報転送技術をもとにしました。ディーバの影響でダメになるかと思われたのですが……」

「聞いてないから座って」


 店を見回しアインやウーノンたちが近くの席へと座る。


「いい匂いがするな」

「見慣れたやつしかいないな、ほかの箱舟の奴はいないのか?」

「いくら店が広くても100名以上が入るわけないでしょ、他は別の日って話!」


 同じくギルベルト、ドミニク、コウエイ、カノンとともに席に着く。


「おいおい高そうな店だな……支払いできるのか?」

「貸し切りだし、金額が過ごそう」

「新婚は恨めしいからあっち」


 テンメイの指示でキュリルとテオを席につかせ、そこにマルティンがエプロン姿のよく似た顔の白い髪の女性を三名連れ台車を押して料理を運んできた。


「テキパキしてるな、戦場での指揮に向いてるんじゃないか?」

「マルティンも配膳を早く、お腹すいたの!」


 料理を配りみな席に着く。


「さてみんな揃ったし。じゃあ、ミカ、乾杯の挨拶を」

「わ、わたしですか!」


 ミカはグラスを持って立ち上がると、がやがやとしていた店内が静まり返りみながミカを見る。


 箱舟で短い間旅をしたものたち、それと自らの製作者の姿。


「わたしからすれば長い時、皆さまからすれば数日とはいえ無事使命を全うとして世界を救うことが出来ました。こうして新しい今日常を何事もなく過ごせているのもそれができたのも、本日ここにいない方を含めて皆様のおかげです。ありがとうございます」


頭を下げミカが席に座りなおそうとすると隣に座るルナが小さな声で伝える。


「乾杯忘れてるよ」


 あたりが静まり返り慣れていたはずの皆の前での耳を赤くする。


「えっとえっと、それでは、乾杯です」


 皆の乾杯の掛け声とともに小皿に料理を取り始めた。


 長く困難で終わりが見えなかった旅も終わってしまえば、どんどん過去へと過ぎ去っていく。

 窓の外には自分たちが救った世界が広がり事件から前へと進む。

以上で終了です、ここまで読んでいただきありがとうございました。

なんやかんやあって更新が止まったり、投稿する時間帯がバラバラになりましたがかき終えました。


それではまた、どこかで巡り合えますように。

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