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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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時が進む 1

 ビクンと光の弾丸に消し飛ばされていた吸血鬼の体が跳ねた。

 そして皮も臓器も不完全のまま、必要な筋肉だけを急速に再生するとネシェルめがけて走り出す。


「鬱陶しいぞ!」


 狙われたルナを助けるために追いついてきたベニユキが吸血鬼の正面へと回り込む。

 吸血鬼は無言で腕を振りかぶりベニユキの頭を殴りつけるが、彼はその攻撃をかわして腕を掴み背負い投げる。

 速度と自らの体重を利用されベニユキより大きな体が地面を離れ、尖った瓦礫に胸を貫かれ吸血鬼は見悶え苦しんだ。


「ベニユキさん! 手榴弾っす!」


 走ってきたホルテンが手榴弾をベニユキに投げ渡す。


「これで本当に終わってくれ」


 瓦礫を砕き強引に起き上がろうとする怪物の貫かれ風洞となった胸に、ピンを抜いた手榴弾を置きベニユキは急いでその場を離れる。

 急速に再生する肉体が異物を取り込み再生が終わると同時にボムッと何かに包まれた爆発音とともに血飛沫が上がった。

 先ほどより大きな穴が開いた吸血鬼。

 目を見開き腕が胸に空いた穴へと延びかきむしるような動作をする。

 吸血鬼は苦しみ出すが胸に穴が開いているために声は出ない。

 すぐに体は再生をしようとするが吸血鬼は苦しんだまま、その体は次第に干からびていき砕け砂へと変わっていく。

 ベニユキとホルテンは構えていた銃を下ろし上ってきた太陽を見る。




 誰かにとっては長い数日、誰かにとっては激動の一日から、半年。

 爆心地のようになったとある巨大企業の本社跡地。

 そこは今でも人の侵入が制限されており、巨大な防音幕のしきりと無数のプレハブ小屋によって周囲の高い建物からも中の様子をうかがい知ることはできない。


 しかしその周囲は復興が進み路上には、機械をおかしくする謎の電波を受け二度と電源の入らなくなった機械や電化製品が山済みとなって回収を待っている。

 突如現れた怪物の死骸、残骸はすべて回収されどこかへと運ばれていき残っているのは破壊後だけ。


「やはり、一連の騒動で企業は立て直すことはできなかったようだねぇ」

「テロリストのせいもあるけど、怪物を街中へと解き放ったからね。半年たっても怪物たちの出本がわからない状態が続いてて、世界中の調査隊がビーナスの残骸を調べ続けてる」


「まぁ、あれらがどこから来たか知っている人間も少ないだろうからねぇ」

「企業のお偉いはみんな行方不明、ランクの高い職員も同じく行方不明。死んでたとしても蘇生させて話を聞こうにも、情報銀行で厳重に守られ記憶にも手が出せない状態。真相がわかることはないんじゃない?」


 店の前に高級車が停車し上質な服で身を包んだ十代後半くらいの青年が下車する。

 彼はガーネットたちを見つけると手を振り近寄って来る。


「お待たせしたっす、ガーネットさんアンバーさん」

「早いねホルテン君、到着は君一番だよ。背が縮んたね」


「うっす、まだ学生なんで。体を作り直すよう言われました」

「君んちはお金持ちだからね、御曹司」


「やめてください、恥ずかしくなる」

「体大きくなって驚かれなかった?」


「びっくりされましたけど、企業の緊急蘇生措置の話をしたら納得はしてくれました」

「年齢を選べないけど、急速に培養した肉体に記憶を転写する技術。まぁ、企業への多額の投資をしている投資家の息子さんだから特別に適応できたといえば何とかはなるのかね? 病院は跡形もなくなったっていうのに」


「隠し事が多い企業だったからでしょうか」

「未発表の技術も多かっただろうしそうもなるかね、何であれ怪物が暴れっていた混乱時だったからできた言い訳か、ディーバの影響なのかこのあたり一帯の機械製品もほとんど壊れたらしいしね調べようもない」


 大きな道路、路地裏、交差点、ビルの上、様々な国旗と装備を持った兵隊が対人対物入り乱れた武器を持って佇んでいる。


「ところでどうしてこのお店を選んだんすか?」

「ここからなら企業がよく見えるからさ」


「幕で仕切られてて何も見えないんすけど」

「冗談だよ、私らみたいに巻き込まれた生存者の営む店」


 純白のコックコートを着た男性が店の奥から三人の座るテーブル席へとやってきた。


「やぁ、……ホルテン君、でいいのかな少し見ない間に幼くなったね。まだみんな揃っていないのかい?」

「あ、お久しぶりです」


 コックコートの男性は席に着いたホルテンにお冷を配る。


「シェフ、料理は出来てしまったかい?」

「今日は貸し切りだから、シェフなんて呼ばなくていいよ」


「吸血鬼さえ出なければもう少し人が集まったのにねマルティン」

「本当にそれは残念だよ」


 がらんとした店内を見渡す。

 そこへ丁度、次の来店者の姿があった。


「うわ、広い。高級そうな店じゃんすごっ!」


 赤いチェック柄の派手な帽子と洋服を着た女性は帽子をかけ壁際にあったハンガーに上着をかけると皆のいる席へと向かう。


「あれ、みんな揃ってない。集合時間過ぎてたよね?」

「遅刻して言える言葉じゃないんだよ、テンメイ」


「女の子のおしゃれには時間がかかるの」

「私らは何だっていうのさ」


 テンメイの後に続いて扉が開く。


「遅れました!」

「先に始まっているかな?」


 扉を開け店内を見回しテーブルへとやってくるエレオノーラとブラットフォード。


「始まっているか心配なら時間前に来るといい」

「さっきそこで、怪物が出たらしいんです。その影響で道路が封鎖されてて回り道しかできませんでした。今う回路はすごい渋滞ですよ」


「まだいるのか、もう半年たつというのに。下水道とか解体されていない廃墟ビルとかにまだ潜んでいるらしいね、怖い怖い」

「大きな奴は倒されてるけど小さいのがこそこそしてるみたいで、まだちらほら怪物がいるみたいです」


「あれ、他の皆さんは?」

「まだ来ていないよ、その渋滞が影響しているのかね?」


 テンメイとともにエレオノーラたちも席に着き、お冷を配り終えるとマルティンは厨房へと戻っていく。


「ぜんぜんそろっていないけど、先に始めようか。世界を救った祝勝会を」


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