明けの明星 4
ミカの合図で首なしの怪物がヨヤミへと向かって進みだす。
「行きましょう、朝を迎えさせてはいけません」
怪物の後に続きねじれ破裂するように壊れたビーナスの瓦礫と空から落ちてきた衛生砲台の破片、そしてズタズタになった会社の敷地の土、足元が悪い地面を蹴ってミカが走り出しベニユキたちも走り出した。
「コウエイさんには正面には回らないようにと、ヨヤミとの戦い方を既に伝えています」
ヨヤミは口を広げ大きな幕を広げてコウエイの操る首なしの怪物は立ち止まり、背後に回ろうと移動する。
「毛むくじゃらの体でヨヤミの粘液をふき取り、剥き出しになった体に銃弾を。核さえ壊すことができればヨヤミは死ぬはずです」
「あのでかい体の具体的な場所がわからなかったら、ずっと撃ち続けることになるのか」
全てを飲み込もうとヨヤミは幕を大きく広げている間は自分でも前が見えていないようで、首なしの怪物はヨヤミの側面へと回り込んだ。
そして黒い体に飛びつき殻を押さえてその粘液をぬぐい爪を突き立てる。
銃を持つベニユキたちへとその肉を裂いた体をむけさせた。
「撃ってください! コウエイさんの動かす怪物に当たっても痛みはフィードバックはされません。ただしあの生体鎧の心臓部のそばに操縦席があるんで」
光を歪める黒いてかりのある粘液を拭われたヨヤミの藍色の体に、無数の弾丸が浸透していく。
「この場所に核は無いですね、別の場所をぬぐってください!」
ミカの声で首なしの怪物は動き、殻を掴んだまま後ろへと回る。
「殻の中に核があったらどうするんだ?」
「力任せに引っぺがして裏から殻の中へと弾丸をばら撒きます」
攻撃を受け、身を捻じり抵抗をしようとして諦め殻の中に隠れようとするが殻を裏返しからの入口に弾丸を集中させた。
どうにかしてヨヤミの中身を引っ張り出そうとするが、ぬめりで爪すら滑り引っ掛かりが出来ない。
「しゅりゅうだんを!」
体が引っ込んだことで食べられる心配も踏みつぶされる心配もなくなり、ミカたちは近くまで寄って粘液が拭われた個所へと目掛け投げ込まれる複数の手榴弾。
投げ込まれてすぐにグムッっと濁った音を立てゼラチンのような肉が弾ける。
その瞬間、殻が大きく振動し吹き出すように殻に身を隠したヨヤミが飛び出てきた。
「効いています!」
すぐに首なしの怪物が殻を押さえヨヤミを取り押さえようとするが、組みつかれるようにして怪物は黒い体の下敷きになる。
ヨヤミは体の側面から触手を伸ばしその先端を首なしの怪物に付き刺す。
つき刺された箇所がすぐに膨れ上がり首なしの怪物の足や腕が痙攣を始めた。
「コウエイさん毒です! すぐに怪物から出てください! 操縦者に悪影響が出ます」
抵抗するがヨヤミにのしかかられている状態で脱出できる状態ではないらしく小刻みに震える手足で藻掻くようにバタつくだけ。
最後の力を使ってかヨヤミの体に腕や足をこすりつけ粘液を剥がし、ベニユキたちは何とか隙を作ろうと銃撃をつづけた。
だが、首なしの怪物は比較的早い速度で力を失っていき、数分としないうちにピクピクと長い爪の生えた指先が動く程度になってしまう。
鉛玉、光の帯、昆虫、特殊な銃から放たれる無数の銃弾の穴を開けながらもヨヤミは口から大きな幕を広げ足元にいる怪物を飲み込もうとする。
体を曲げたことで斬り裂かれた肉の内側に見える光る結晶体が見えた。
「あれです! 核!」
体の各地を狙っていた弾丸がその結晶体一点にめがけて放たれる。
結晶体は砕けヨヤミは力を失ったかのように地面へと付していく。
「倒しました! 倒しましたヨヤミを!」
喜ぶのもつかの間、内側から泡立つようにヨヤミの体が膨れ始めた。
ボコボコと歪に膨らむ黒い巨体を見てミカが後ずさる。
「いけない、ヨヤミはエネルギーを蓄え過ぎた!」
唐突にヨヤミの死骸の近くの地面に金属で縁どられた穴が開く。
ジャラジャラと重たい金属音とともに逆さまになったエレベーターが飛び出てくるとそれを見てミカが叫ぶ。
「箱舟への入口!! 皆さんあの中へヨヤミを!」
ミカの指示で首なしの怪物は最後の力を振り絞ってボコボコと内側が盛り上がる大きな柔らかい体を押す。
そのまま突如空いた地面の穴の中に体を突き落とす。
殻が引っ掛かりすべてが穴の中に入ったわけではないが飛び出たエレベータを引き戻すと、その体は穴へと固定されエレベータの入口を歪め破壊しながら飲み込まれた。
『あとはお願いしますね、ミカ』
「あとはお願いします……ミカ」
響いてきた管理AIの声にミカが返事を返し穴は消え、その場に静寂が戻る。
首なしの巨人の体が開きコウエイが転がるように出てきて、すぐにエレオノーラやブラットフォードたちが彼女を介抱しに向かう。
ヨヤミは消え空に浮かぶ衛星砲台も消え、遠くに見える金色の炎で燃えるビルの向こうにより強い輝きを放ち太陽が顔を出す。
「倒した?」「これで本当に終わったのか?」
「はい。ヨヤミの体は箱舟の中で爆発し消滅するでしょう。私たちは勝ったのです」