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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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明けの明星 3

 

 勝算が無いままヨヤミと戦っても踏もうと判断し部屋には入らずその場で立ち止まり来た道を少し引き返す。


「いったん離れよう、ウリがどっか行っちまって何か策のあるミカが戻ってこないと俺らには何もできない」

「あいつは食われちまったのか?」


 ヨヤミは何もいなくなった部屋から出て行こうとベニユキたちとは反対側の通路へと進もうとしている。

 ビーナスを破壊し稼働し始めていた施設全体が揺れる振動が止まったが、今再び施設に変化が起き今度は進むべき通路が雨に濡れた紙の箱のように歪みだした。

 建物が歪むという信じられない光景に目をこすったり、頬をつねったりして信じがたい目の前の景色を確かめようとする。


「建物が歪んでいく!」

「今度は何? 今度は何が起きたの!」


 歪みは酷くなっていき通路が天井へと延びたり直線の通路に起伏が生まれたりし、そして限界を迎えて螺子切れるように施設に亀裂が入った。


「大丈夫なのか!?」


 同じようにいろんな場所で建物がねじれ、何かの限界を迎えビーナスは破裂するようにバラバラになって崩壊。

 壊れた施設の天井には空が見え、空に浮かぶ巨大な装置から閃光が地平の彼方へと向かって放たれる。


「外!?」

「地下じゃなかったの?」


 光で視界が白く塗りつぶされ、眩い光から身を隠すように壊れた施設の中へと逃げ込む。

 強い光が収まっていきそこで見えたのはヨヤミが亀裂から外へと滑り出す。


 地下に存在していた建物は気か付けば地上へとせり出しており、本社のビルを中心に華が開くようにねじ切れた施設の壁が開いていた。

 ベニユキたちは感じなかったが施設が壊れた際の衝撃波すざまじかった様で、その衝撃で本社のビルが宙へと浮かび上がる形で倒壊していた。


「外に出ちゃう!」

「ヨヤミが逃げるぞ、外に出したらまずいんだろ?」


 銃を撃とうとその巨体は止まらず壊れた壁を伝って施設の外へと出る。

 下から打ち上げられながら崩れた本社ビルの瓦礫が降り注ぐ。

 瓦礫の雨の中でもヨヤミは足を止めず広い敷地へと出ると、周囲に見える中で近くにいる他の怪物の方へと進みだす。


「逃げられちゃう」


 崩壊した本社の残骸が降り注ぎ終え舞い上がった土煙の中へと消えていくヨヤミを見てエレオノーラが指さす。

 外は暗く、遠くで燃えている金色の炎が敷地内を取り囲んでいて広い地面を移動ウする怪物の数も減っている。


「外、だいぶ静かになりましたね」

「最初に襲ってきた鳥の姿もないし、もう空に浮いてるあの砲台くらいだろ……? みんな、上を空に浮かんでいるのが!」


 その空に浮かんでいる衛星砲台が何度か光ったかと思うと、冷却中の砲身がぐらりと揺れたのを見てマルティンが叫んだ。


「空のが落ちる、みんな離れよう!」


 落ちてくる衛星砲台をヨヤミは頭上を見上げ、その殻の上に巨大建造物が落ちた。

 地響きと土煙が落下個所を中心に巻き起こり、土煙を吸わないように顔や口元を袖で覆う。


「みんな無事か?」

「コホッ、無事です」「目に砂が入った!」


 晴れてきた土煙が再び濃くなり何も見えない中ベニユキが尋ねるとエレオノーラやマルティンたちの声が席混じりに帰って来た。

 衛星砲台は巨大ではあったが形状は長細く、本社ビルのあった場所の近くに浮いてはいたが運よくベニユキたちの方へ落ちてこなかった。


「急に落ちて来たな」

「機械はディーバとかいう怪物が操っていたから、破壊されて制御を失ったとかじゃないのか?」


「そもそも何で浮いていたんだ?」

「さぁ?」


 土煙が収まるとベニユキたちのすぐそばに大きな獣の姿。

 頭はなく二足歩行で両腕には大鎌のような長い爪が伸びている毛皮で包まれた大きな獣人型の怪物。


「また、怪物かよ」


 立て続けに起きる変化に疲労気味に皆が銃を構えると、姿を現した怪物の前にミカが現れて翼を広げる。


「大丈夫です、これは味方です! 撃たないでください!」


 片方の羽根は負傷しているようで半分しか開いていなかったが、現れたミカの姿を見て皆が銃口を下げた。


「ミカ! その怪物はミカが操っているのか? なんでこの建物は爆発した? ついて行った他の奴らは死んだのか?」

「一つづつお答えします。まずの皆さん生きています、そして怪物は機械では無く生きた強化外骨格、生体鎧です。皆さんはあの怪物の中にいます。この施設が崩壊したのはビーナスを破壊したためです。箱舟と同じようにこの施設は空間をゆがめて圧縮していたからです。制御を失い外側に膨張しました」


「あの首なしの怪物の腹の中にいるのか?」

「正しくは胸の中です。骨に包まれた安全な場所」


 質問に答えたミカは辺りを見回して尋ねる。


「ウリは? 彼女はどこです?」


 知らないと皆が首を振る。


「わからない、施設が動き出して激しく揺れるようになったときに一人で先に行っちまって。追いついたときにはいなかった」

「そうですか。近くで戦うはずのガブとラファとも合流出来ていませんし、もしかしたら……いいえまだ戦闘は終わっていません」


 ミカは連れてきた怪物の方を見上げる。


「コウエイさん、皆さんをおろしてください。そしたら戦闘を始めます」


 怪物は屈むと胸が縦に裂けて開く。

 開いた体の中に臓器は詰まっておらず肉と骨が形作る小さな部屋ぐらいある空間の中にカノンたちがいた。

 そして怪物の体の中からカノンやネシェルたちが出てくる。


「おぇ……赤ずきんになった気分」

「湿気はすごかったけど粘液まみれにはならなかったし、暗かったから溶かされるのかってひやひやしたね」


「臭かった」

「確かに獣臭はすごかったですね」


 顔を青ざめさせたネシェルが合流すると怪物は胸を閉じ立ち上がった。


「それではヨヤミの討伐を開始します。皆さん武器の確認をしてください」


 振り返り晴れていく土煙の先には、瓦礫をよじ登り日の出前の地上へと落ちていく月を背後に首を擡げるヨヤミの姿。


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