明けの明星 1
ビーナスの内部、合流したウリの案内で施設を走り出す。
十分に距離を取ったところで武器を持ち直し、襲ってきたミイラたちを食べつくしたヨヤミへと向かって攻撃し注意をひきつける。
「きました!」
「攻撃したらすぐ追ってくる、行動自体は単純なやつだね」
「その単純に手も足も出ないから困ってるんだよ!」
ヨヤミが向きを変えて向かって来た事で全力で逃げだす。
案内する先は怪物を保存する格納庫の扉の一つ。
その扉は締まっていたが人一人通れるくらいの穴が扉の隅の方に空いていた。
「あの穴はウリがあけたのですか?」
「その通り、あの奥が制御室。部屋を隠すなら部屋の中ってね」
二人は羽根を折りたたみ扉の穴から奥へと進んでいき、その後ウリの兵隊たちが先に穴の中へと入っていく。
続いてベニユキたちの番が来て負傷から順に奥へと送り出す。
穴の奥には部屋ではなく大きな階段が広がっていた。
「もう少し広げてくれれば、二人ずつ通れるのにな」
「急いでおくれ、ヨヤミに追いつかれる」
背後に迫るヨヤミの接近に焦る後続は急いで奥へと進むように促す。
自分が穴を通る番が来るまで銃撃で応戦するが無論ヨヤミには通じず速度を落とすことも早めることもなく迫ってくる。
「扉は開かないのですか?」
「制御室に行ければ開けるよ。ここからじゃ何もできない、だから穴をあけた」
「もう一つ開けられませんか?」
「溶かしているから冷めるまで待ってたら意味ないと思うけど?」
先に扉を通り抜けたものは後から分厚い壁に空いた穴を通るものたちを引っ張り出す手助けをして少しでもスムーズに人を移動させる。
30名ほどの人員をヨヤミが追い付く前に何とか扉に空いた穴を通り抜けることができ階段へと向かう。
螺旋階段は暗かったがふわりと浮かびながら階段を下っていくウリが、頭に浮かぶリングを強く光らせ光源を確保し安全に下へ通りていた。
「その頭の灯りとして便利ですね」
「うっさい」
足音とミカとウリの声だけが階段に響く。
その頭上で金属の歪む音がして何か大きなものが滑り込んでくる音が聞こえてくる。
「ヨヤミが来ました」
「ぎりぎりまで人を回収していたんだからそうだろうよ」
扉が折れ曲がる重たく響く嫌な音が収まりかけると、今度は階段の手すりが曲がる甲高い音が響き始めた。
頭上ではわずかな明かりさえも何かに覆いかぶされたかのように消え闇が降りてくる。
「急いで!」
大きな階段を下りるとすぐに同じような分厚い鉄の扉。
しかし、こちらの扉はわずかに開いており小さな穴を潜り抜けるより早く廊下へと出た。
階段を下りると一本道、施設の中央へと向かう太い通路。
そしてそこに立つ濁った水晶のような向こうの光が透け三角形自体が青い光を放つ、数本の細長い逆三角形の結晶体。
「敵です!」
ミカが叫ぶと同じタイミングで青い光が赤へと変わり、下を向いていた尖った先端がベニユキたちの方へと向いた。
ベニユキたちの銃から放たれる弾丸と三角から放たれる光の帯が交差し戦闘は終わった。
前に出ていたウリの隊の兵士が数人が被弾し絶命、結晶体は光を失い粉々に砕け床に散らばった。
「負傷者の手当てを!」
「歩けそうにない奴はとどめを」
「なっ!」
「生かしておいても吸血鬼の手下になるか、この後来るヨヤミに食われるかその他怪物に殺されるだけ! だから殺すの」
ミカの指示にかぶせるようにウリが指示を出し、即座に大怪我や足を負傷したものが味方の手によって命を奪われる。
「施設中央、エレベーターの下部に……構造は本当に箱舟と同じなんですね」
「ここと同じ道が後三本ある。みんな中央に通じてるよ。端に寄って」
扉を出てすぐの小さなスペースに身を寄せ合いヨヤミが降りてくるのを待つ。
通路の奥には白い光と何かしらの音楽が聞こえてくる。
「この音はディーバの歌声ですか?」
「この距離なら問題は無い、耳を澄ませないで」
すぐに追ってきたヨヤミが扉を破壊しようと体当たりをして鉄の扉が拉げた。
そしてスルスルと黒い体が這い出てきて後から殻がさらに扉を破壊し出てくる。
反対側の道には戦闘音を聞きつけ、先と同じ様な三角形の結晶体や楕円形の砲台を背負った戦車もどきが現れ目の前に見える巨体へと攻撃ををした。
ヨヤミは攻撃しながら後退していく命無き塊たちを追って通路の奥へと向かって行く。
すっかり機械兵たちに気が写り扉の横にいるベニユキ達に気がつかず、彼らの1,2メートル先を黒いぬたっとした波が通り過ぎていった。
「ここから、戦力を二つに分けます。一つは上に戻り私とともにとある怪物をしまった保管庫へと向かう班。もう一つはヨヤミを追い箱舟の破壊とディーバの破壊を確認後ヨヤミを地上に出さないように見張る班。この二つに分かれます」
爆発音が響きさらに大きな銃撃音が響いてくる。
「人数が多いのは私の箱舟のメンバーです。この中で戦闘に慣れているベニユキさんやマルティンさんたちにここに残ってもらっていいでしょうか。コウエイさんやギルベルトさんたちは私たちについて来て下さい」
素早く班を分けヨヤミの粘液の残る来た道を引き返していくミカたち。
残されたベニユキたちは通路の奥から差し込む光が黒い闇にのまれていく銃声鳴りやまない通路の奥を振り返る。
「ヨヤミを追いかけるよ」
ウリが床のぬめりを踏まないように空中に浮き皆を呼ぶ。