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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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飲み込む闇 6

 ビーナスが動き出し施設が揺れる。

 その揺れを感じているかいないか、銃を構え引き金を引き続けるものたち。


「これ以上は持ちません」

「咄嗟に近くの部屋に飛び込んだもののここまでか」


 アインの放つ大きな銃の電流が先頭を進んでいたミイラを突き抜け、背後や周囲の他のミイラたちにも電流はダメージを与え続け動きを止めていた。

 その隙にテオやキュリルそして他に取り残されたメンバーとともに銃撃で倒していたがいくら倒してもきりはなく死体を乗り越え死体を押しミイラたちは死を恐れずに武器を振り上げ向かってくる。


「手榴弾であの死体の山を吹き飛ばしますか? 部屋を塞ぐだけ倒せば何とかなると思いましたけど意味はありませんでしたし」

「ああ、俺が投げる。アインを後ろに下がらせろ」


 グリフィンが手榴弾を一つ手に取り入口に詰まる死体の方へと向かって行く。

 人の背丈ほど積もった山も奥から怪力で押されることで部屋の中へと転がってきて、小さな保管庫の中を圧迫する。


「これを繰り返したところで俺らに勝機は無いんだが、この階物らを少しでも長い時間引き付けられればヨヤミ討伐の時間稼ぎにはなるだろう」


 ピンを抜いて少し数を数えてから軽く投げ扉の外に手榴弾を転がす。

 直後に爆発しミイラが吹き飛ぶ。


「アイン、また頼む」

「わかっている勿論だ」


 部屋の入口に固まっていた怪物や死骸が排除されまた次が駆け込んでこようとし、アインが持つ銃が電流を放ってそれを食い止める。


 部屋が激しく揺れ出し皆が床に手を突く。


「何だどうなった!」


 元々うまくバランスもとれる動くミイラたちは大きな揺れで床に転がり手足をばたばたとさせるだけ。


 揺れで四つん這いになるのがやっとなグリフィンたちに引っ張られ横へとスライドしていくようなへんな感覚が襲う。

 それも一瞬で、気がつけば部屋は四方の壁が倒れて行き風が吹き込んでくる。


「外?」


 周囲に見えるのは建物や怪物の姿はなく、手が届きそうな位置にある空に浮かぶ雲だけ。


「俺たちはどこにいる?」


 立ち上がり見回すと周囲に見えるのは雲だけでないことにも気がつく。

 風船のように浮かぶ真紅の臓器のような物。

 みればそれが雲の中に隠れているだけで周囲に何個も浮いていた。


「これも怪物?」

「心臓みたいだ、心拍してる。のびている血管はなに」


 血管のような物を下へと伸ばし地面に張り付いている。


「血管を踏まないように気を付けろ。それと正面ミイラたちが起き上がるぞ、戦闘続行!」


 周囲の臓器のような物を観察しているその間に、揺れで床に倒れていたミイラたちが起き上がり武器を拾いなおし向かってくる。


「俺らは外に放り出されたのか?」


 怪物に銃を撃ちながらテオが尋ねた。


「床が地面じゃないな」

「金属? 装甲版みたいな? 少し滑るぞ」


 迫ってくるミイラから距離を取り戦うため、部屋の残骸から降りて銃を撃ちながら地形を確認する。

 グリフィンらの立つ地面が緩やかに湾曲しており細長いことに気がつく。

 そして建造物のように見えるでっぱりには折りたたまれた太陽光パネル。


「わかったぞ、ここはロンギヌスの上だ」


 低い位置を浮かぶ雲に視界を遮られてどちらが衛星砲台の先頭だかわからないが、ひとまずはミイラの処理が先。

 ずっと戦闘をしてそれなりの数を減らしていたにもかかわらず、それでもゆうに100を超える数のミイラたちが向かってくる。


「逃げる場所も隠れる場所を失った、どうしてここにいるかわからないがここで決着をつけるぞ!」


 あらかたミイラを倒し大きくため息をつく。


「怪物らは皆倒したか?」

「向かってくるものはな」


 あたりを見回しキュリルとともに戻ってきたテオがグリフィンに報告する。


「雲の中に入って何人かとはぐれた、逃げ出したのかやられたのかわからない」


「そうか。さて、どうやってここから降りるか考えるか」


 グリフィンたちがいるのは空中に浮かぶ構造物の上。

 ビーナスの中へと突入し怪物に襲われ咄嗟に逃げ込んだ一つの部屋から気がつけばこの場所。


 心臓のような鼓動する物体が浮いている建造物の上でグリフィンはもう一度周囲を見回す。

 衛星砲は高い位置に浮いていることもあり一部が雲の中に隠れてしまい、流れてくる雲の端が近くにいるキュリルやアインたちの姿をも隠す。


「雲の中にいる間は下手に動くなよ。足を踏みアズしても助けには行けんからな」


 流れていく雲の中から普通の人間より一回りほど大きな人影が姿を現す。


「まただ、また吐き出されたぞ! 機械の分際で!」


 新たに現れた怪物は苛立っており怒気のこもった言葉を発し拳を握って走り出した。


「人じゃないよな、そのでかさで」

「新たな怪物だ!」


 人型ではあるがその大きさに一目で怪物と判断しテオやグリフィンも引き金を引く。

 一匹の怪物に向かって放たれる弾丸と電流。


 銃撃を受けるとよろめき射線上から逃げるように移動するが距離を詰めて来る。


「鱗も翼もないシンプルな怪物だ!」


 放たれる電流が走って向かってくる怪物を貫きその体を赤く光らせ黒く炭へと変えていく。

 だがその足は止まらず距離は縮まっていく。


「……グリフィンらの弾丸は当たって、感電し焼けているというのになぜ止まらないんだ」


 弾丸を頭や心臓付近などに何発も食らうが死ぬことはなく歩みは止まらない。

 逃げようと後ずさったが鼓動する心臓のような物が張る根に足を取られよろける。

 そして迫ってきたその拳がアインの胸を貫き持ち上げ首元に噛みつく。


「アイン!」


 動かなくなったアインを投げ捨て怪物はグリフィンの方へと向かってきた。

 感電し焼き焦げた手足も炭がパラパラと剥がれてその下から真新しい白い肌が現れる。


「何だこいつ不死身か?」

「どんな生き物も首を落とせば倒せる」


 死なない怪物に向かってキュリルがナイフを構えて走り出しテオが銃を撃ち気を引く。


「まだ戦わなければいけないし、むやみに死ぬわけにもいかないな」


 一人呟くと怪物は刃の先端が虹色に煌めくナイフを持って素早く近づいてくるキュリルを躱してそのままテオへと走り抜けていく。


「こっちに来るか」

「テオ!」


 弾丸で怪物を食い止めることはできず、追いかけようとしたキュリルの肩を誰かがつかみ振り返る。

 変わり果てたアインの姿に気後れし首を噛まれてから反撃しミイラを倒す。


「くそ! 噛まれた、何だこいつは! ……アイン!?」


 銃を叩き落としテオの首に噛みつく怪物が生命力を吸い取りながらキュリルの方へと向き直った。

 力を吸われる中、テオは力を振り絞り手榴弾のピンを抜いて怪物ごと自爆する。


「テオ!」


 負傷を追うが怪物は損傷が肉体が再生しテオの残したダメージの後が消えていく。


「余計に再生力を使わされた。自爆するとはな、お前たちは死ぬのが怖くないのか?」


 再生が終わる前に射撃をしながらグリフィンが近寄り、銃に持ち替えたキュリルとともに再生する怪物の頭を破壊し続ける。


「頭破壊しても死にませんグリフィン! それに、こいつテオを殺して!」

「再生力といっていたな、限界があるのかもしれないな。落ち着いて対処しよう」


 怪物は自分の腕を引き千切り思い切り投擲すると、直撃したキュリルが吹き飛んでいき雲の中へと消えて行く。

 一人になってもグリフィンは銃を撃ち続け怪物を倒そうとする。


「怖いさ、命は一つ人生は一回だからな。でもな世界を救えるチャンスも一回限りと聞いた。そもそも俺は戦って命を張る仕事をしていたわけで命を捨てる覚悟はできている。もちろん死なないに越したことはないがな」

「意味が分からないな」


体中弾丸を浴びバラバラにもかかわらず怪物はグリフィンのもとへと向かって行き彼にとどめを刺した。

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