飲み込む闇 5
部屋を見渡しミカは通路の奥を見る。
「急に壁を見始めて、何か探しているのか?」
「とある怪物を……、脱走する恐れがないオブジェクト型の怪物なのですが調べた際に収容している部屋番号を記憶しているのですが」
「どの部屋だ? このままあの怪物を眺めていても勝機は無いだろ?」
「おそらくは、こことは反対の道の奥の部屋だと思われます」
「ビーナスの内部もエレベーターを中心に組み立てられた輪状の建物、ヨヤミが地上に出る道を見つけられずこのまま進んでいけばいずれは部屋の前を通り過ぎるでしょう」
「それまではただ追いかけるしかないのか」
途中に更の天井付近を浮いていた薄紫色に光る雲を捕食しヨヤミの体がさらに大きくなる。
「また大きくなったっすね、まだいたんだあの雲」
「攻撃が通じるようになったとして弱点見つけられるの本当に? ヒトトリがふき取った粘液も元に戻っちゃったし」
「あ、人と鳥と書いてペンギンっていうんすよ」
「今どうでもいいよそんなの」
ただ見ていることしかできすホルテンとネシェルが呟く。
「さっき、毛むくじゃらの蛸と戦っている間にわかっていれば横槍を入れられたかもしれなかったのにね」
「わからなかったんだから仕方ないねぇ。過去のことではなくこれからどうするかを考えないと」
ガーネットとアンバーが通路を見渡し何か使えるものがないかを探していると、何かの動く音が聞こえ歪んだ扉の方を見る。
「何か音が聞こえるね?」
そこは毛むくじゃらの蛸がいた部屋で、壊れた扉の隙間から現れるからからに乾いたミイラのような人型の大集団。
集団はベニユキたちを見つけると走り出し襲ってくる。
すかさずミカが走り翼を開いてミイラのような集団とアンバーたちの間に壁を作り守り、力任せに集団を押し返し銃を放つとベニユキたちも我に返り銃を構える。
「上から降りてきたの!?」
「テロリストのやつらか、吸血鬼!」
「本体はまだ健在の様ですね」
銃撃で応戦し押し返すも数が多く、倒したそばから新しいのが奥から現れる。
「通路の向こう側に残されたグリフィンさんたちは……」
「言うな、指揮が落ちる」
銃撃音を聞きヨヤミも方向を変え始めていた。
それを見たウーノンが叫ぶ。
「ヨヤミ、こっちに戻って来るぞ! こいつらと戦っていると喰われる!」
「移動を、しましょう……数が多い」
きりなく倒しても倒しても部屋の奥から引きを持ったミイラたちが襲い掛かってくる。
ヨヤミから逃げるためその場で戦ってもいられず、味方を撃たないよう武器をおろして走り出す。
しかし走り出した先で別の部屋からもミイラが現れたことで足を止めざる負えなくなる。
「何人いるの!」
進行方向と後方から現れたミイラたちに挟まれそれの対処のために足を止めるベニユキたち、後方で巨大な意志を持った黒い波が迫ってきていた。
「ここまでか……」
何らかの力によって前方のミイラが吹き飛ばされる。
そしてベニユキたちと違う方向から銃声が響く。
「グリフィンたちか!!」
ベニユキたちの進行方向の怪物を掃討するとそこには武器を持った人の姿。
「ミカ、あんたと合流出来た!」
その中の一人は、頭の上に光の輪を浮かべ白く大きな羽根で少しばかり地面から浮いている。
「ウリ! あなたがどうして、ビーナスの制御室へと向かっているはずでは!?」
「それが、こいつ自己改造で私らがここに乗り込んだタイミングで新たな機能を追加していた」
「それはなんです?」
「ディーバとの同調、機械系の怪物で制御室も動力炉も守ってるから打つ手なし、大音量で音楽も流しているし近寄れない。それであの怪物がヨヤミ?」
振り返れば大きな影はそばまで迫ってきていた。
「そうです、とりあえず距離を取りましょう」
ミカたちは同じ道を何度となく往復し再びT字路へと戻ってくる。
ウリの戦闘員とも合流し、ベニユキはルナとの再会を果たす。
「ユキ、無事でよかった」
「そっちこそ、仲間の数が少ないな。大変だったろ」
「ユキこそ、疲れた顔してる」
「怪物を追いかけたり追いかけられたりで、走りっぱなしだからな」
ヨヤミの口から広がる幕が武器を持ったミイラたちを包み込むようにして飲み込んでいてベニユキたちを追ってはこない。
安全を確認し足を止めミカは肩を落とす。
「目先の獲物を優先するおかげで逃げきれましたが、何もできずまたここに戻ってきて……」
何もできずに遠い目をするミカの横で合流したウリがため息混じりに不満を漏らす。
「聞いてよミカ、機械系も自己増殖タイプや学習改良タイプが混ざり合いはじめて、第5の危険存在になるかも。元をたどればディーバの影響だけど。弾丸さえ届けば簡単に壊せるのに、私の力でも怪物が一斉に攻めてきたらどうしようもないし。なにか戦車みたいに攻撃を防ぎながら攻撃出来るものがないかと、ここには怪物だけじゃないものもしまってあるし」
溜息をもらすウリの横で考えていたミカが声を漏らす。
「あ……」
「どうしたのミカ?」
ミカは振り返りそれを見る。
「あれは使えませんか?」
何かを思いついたミカが指さすのは、黒く巨大で怪物の攻撃をものともせず一方的な攻撃を行う怪物の姿。
「あれを制御室まで連れて行きましょう」