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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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飲み込む闇 1

 進む先に浮かぶ雲を見つける。

 薄紫色に光る雲、先ほどのものより大きく天井に張り付く綿飴の様で、積乱雲のような立体感のあるその奥で薄く光る塊の奥で稲光のようなものが重たい音を響かせながら瞬いていた。


「まだいるのか、いやあれがさっきの雲の本体か」

「雷か何か光っているな、さっきのを見ているとあの下を通るのは得策じゃないようだ。でも手榴弾で吹き飛ばせる大きさじゃないよな、どうするんだ」


 ミカも立ち止まり行く手を阻む光る大きな雲を見上げる。


「困りました、進めない……」

「引き返して反対側を道を進むか?」


「そうなりますね。ここまで来て残念ですが引き返します。相手はすでに臨戦態勢の様です急いで離れてください」

「臨戦態勢って相手は雲だろ、あれ目でも見えてるのか?」


 壁に空いた穴を警戒しながら進み額にかいた汗をぬぐって追いついてきたガーネットが尋ねる。


「そこの部屋にはいって壁を壊して隣の部屋に移動できたりしないの?」

「扉を見ての通り壁も分厚く作られています、簡単に壊せるものではありません。時間が惜しいですが引き返しましょう」


 皆が嫌な顔をしながら来た道を引き返そうとしていると、それまで天井に張り付き稲光を点滅させていた雲が動き出した。

 積乱雲のような塊は風も吹いていないのに流されるような動きでベニユキたちの方へと向かってくる。


「こっちに流れて来たぞ、どうする戦うのか!?」

「いいえ、距離を取ります。おそらくはこちらの攻撃がほとんど通じませんから」


「手榴弾は?」

「散らせはすれど倒すことはできませんし、細かく分裂し数が増えるだけでしょう」


 ベニユキとミカの会話にブラットフォードが割り込む。


「水が弱点ならスプリンクラーとか使えないのか? これだけ大きな施設だ水量もすごいと思うんだが」

「残念ながら見える範囲に報知器もスプリンクラーらしきものもありません、問題が起きれば区画ごと隔離か廃棄すればいいだけですからそういう物は作られていないでしょう」


 ギギィィと重たい金属が擦れ合う音が施設内に響く。

 迫ってくる雲の向こう軋むような音を立てて歪んた扉。

 雲から距離を取りながらそれを観察していると部屋の中からドロリとした何かが出てきて、それを見たミカが落胆の声を漏らす。


「あの部屋番号……遅かった……。皆さん武器を構えて、ヨヤミです!」


 光を反射しない異常に黒い体の奥に白や黄色、赤色の光点を持ついぶし銀のような灰色の渦巻く殻を背負っている蝸牛。

 船舶のような大きな体は波を超えるかのように扉を乗り越え、のそりと蝸牛特有のゆったりした動きで部屋から這い出てくる。


「すごく大きい蝸牛の様だね」

「もっと怖いものを想像してた、かなりでかいけど」


 マルティンとテンメイが足を止め振り返った。


 天井を這う巨大な雲は新たに現れた大きな体の方へと引かれるようにベニユキたちから離れて行きヨヤミの方へと引き返していく。

 部屋を出たヨヤミもまた、光る積乱雲へと向かって進みだす。


「勝手につぶし合ってくれるみたいだな?」

「いいぞ、勝手に戦えー」


 戦闘の可能性が減りウーノンとブラットフォードが銃をおろして二つの怪物が衝突する瞬間を待つ。

 先手を打ったのは薄紫色に光る積乱雲、徐々に雲の中で瞬く光の間隔が短くなっていき雲全体が強い光に包まれた瞬間に放たれる赤い雷。

 周囲の色を奪うような強力な閃光がヨヤミへと落ちる。


「うぁっ……」


 空気を裂く音とすべての色を塗りつぶす閃光。

 目を閉じても貫くように差し込んでくる閃光から目を守るように皆目を押さえた。


「目の奥が痛い」

「視力が落ちる、目が潰れる」


 再び目を開けるとそこには積乱雲を飲み込むヨヤミの姿。

 ヨヤミは口から膜のような物を天井へと向かって広げ雲を包み込もうとしていた。

 スコールのように降らす雨も先ほどよりずっと弱い稲妻も広がっていく膜の中へと消えていく。


「何だよあれ?」

「飛び出ているのはヨヤミの胃です、何でも飲み込みます」


「あれを倒すのか?」


 皆が積乱雲が捕食されていく光景を見ている横で武器を構えるネシェル。

 彼女は植物の巻き付いた結晶体の狙撃銃を構えると引き金を引いた。

 放たれた光の弾丸は暗い体に吸い込まれるように消えていく。


「……効かないんだけど」


 ヨヤミの頭の触覚が動きそれがベニユキたちの方を向いた。


「こっち向いたぞ、攻撃するか?」


 天井へと延びていた幕がヨヤミの中へと消えていくとそこにさきほどまであった光る雲の姿はなかった。


「あの雲は食べられたのかな?」

「こっちに来るぞ、下がれ下がれ」


 目の前に現れた討伐目標。

 先ほどまで天井付近を浮いていた大きな怪物の姿が消えてしまったことに驚きつつも武器を構え引き金を引く。

重なり合い広い通路に響く銃声。


 この階物さえ倒してしまえば戦闘は終わるとありったけの弾丸を浴びせるが、しかし弾丸はヨヤミに着弾するもダメージを与えることなくどこかへと消えてしまう。


「銃弾が効かないぞ、おいどうやって倒すんだ? 俺らの持っている武器だ倒せるんじゃなかったのか?」


 いくら攻撃すれど効果は無いように感じられ、弾倉を取り換えながらベニユキが尋ねる。


「体のどこかに核があります、それを撃ち抜けばヨヤミは死ぬはずです」

「それはどこにあるmmだ?」


「すみません。集められた情報にはどこに核があるかまでは詳細なデータがなく、体のどこかとしか」


 ミカもそれだけ言うと弾倉を取り換え引き金を引く。

 しかし体には吸い込まれるように消えて行き背中の殻に弾かれ弾丸が怪物の体に穴をあけることができない。


「距離を取りながら戦いましょう」

「やってるよ」


 ベニユキたちが下がりながら撃つよりも巨体の方が速度は速い、逃げながら戦うベニユキたちへと緩やかに向かってくる。


「体には通じない手ごたえがない、殻は弾丸を弾いているな」

「破壊するなら殻か?」


「どのみち火力不足だ、銃弾じゃかすり傷すらつかない」


 ふと背後に先ほど迂回した雲の姿。

 そしてそれは先ほどより大きくなっており積乱雲と同じように点滅を始めていた。

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