ダンジョン 4
ミカが軽い銃撃で倒した小さな怪物を見て首を傾げる。
「どうかしたのか?」
銃撃で角が粉々に折られた小さな怪物。
少しの間眺めていたがすぐに顔を上げ通路の先を見る。
「いいえ、気のせいだと思います。進みましょう」
閉じてきた防火扉を叩く音だけが不気味に響き、その音から逃げるように進みだす。
グリフィン、テオ、アインたちは防火扉をいつ破って襲ってくるかわからない研究員たちの成れの果てに警戒し後ろを守るため最後尾を歩く。
何人かは先ほど強引に元人間だったミイラたちの攻撃を受けた傷で、腕を抑えたり足を引いたりしてぎこちない歩みをしている。
「怪我人が何人かいるな、ミカは大丈夫なのか? あの数を押し切っていくのに無傷なのか?」
「ええ、片羽根を強引に進む際に折ってしまったようです。動かすと少し痛みます。羽毛を硬化できる力もそれほど防御力は無いようです」
羽根は折り畳み背中に隠しているため負傷の度合いはベニユキには見えない。
「痛むならエレオノーラに見てもらうか?」
「毒にある程度の耐性を持たせるため、私は薬の効きはよくありませんから痛み止めはあまり効果がないでしょう。それに完全に動かなくなったわけでもありません、大丈夫です」
電力が通っており施設内は明るく照らされていて、左右の壁には大小さまざまな穴が開いていた。
壁の向こうの灯りは壊されていて誰も穴の中を覗こうとはせず、エレオノーラはいつ次が現れるかわからない怪物に怯える。
「この建物の壁穴だらけですね、壁に沿って歩けない」
「怪物が逃げたんだろ。逃げ残りか隠れているのがいるかもしれない、道の真ん中を進むしかないか」
床に残る怪物の足跡。
その中でも爪痕や足跡でない粘液や何かしらの残留物をよけ歩いていく。
時折、地上での攻撃か施設内が不定期かつ小刻みに揺れた。
「地上まだ揺れてるな」
「戦闘は続いてる。でかい怪物も、ミサイルとかなら倒せるだろ。銃弾が効かない敵だって俺らは倒せたわけだし」
「ここまで来て銃が効かない相手が出てこないことを祈るよ」
「さっきの溶岩だか溶けた鉄だかの巨人みたいなやつか」
地上の戦況のことを考えていると近くでも何かが動き暴れている音が聞こえてくる。
音は大きくなっていき通路に響く。
「何か来るな、大きい奴だ」
「どの方向から音が来ているかわからない」
壁に空いた穴から距離を置き、通路の真ん中を歩いていたことから細長くなった隊列。
その長くなった隊列の真ん中あたりの床が歪み、下へと吸い込まれていくように抜ける。
何人かが開いた穴の中に吸い込まれるようにして消え、後続が来た道を引き返す。
「分断された! グリフィン!」
「穴の中に何か居る、近寄るな」
ライトを照らすと毛むくじゃらの太い触手が暗闇の中でのたうっていた。
銃撃しないように指示を出し渋い顔をする。
「この下は大型の怪物を補完する部屋の様ですね。今、目覚めたのか」
よく見れば触手の毛に絡みつくようにいくつも白い何かが付いていた。
それは先ほど現れた角の生えた小さな獣の様だったが触手がひどく荒ぶり確認はとれない。
「このまま進みます。分断されてしまった後の人たちは引き返してください」
「引き返す? 合流はしないのか?」
「時間がかかってしまいます。おそらく先ほど私が倒した小さな怪物、あれがどこからか侵入しいまだ眠っている怪物に噛みつき目覚めさせています、怪物の一斉脱走でビーナスのあちこちに穴が開きヨヤミが何かしらの要因で外に出てしまったらおしまいです」
「くそ、グリフィンたちが。みんなで行動していたのに半分くらいになっちまったな」
「急ぎます」
振り返ることなくミカは進みだし、残りも渋々走り出した。
床に穴が開き半数を置いてきた、その置いてきた半数の方から銃撃音が響いてくる。
「戦闘音?」
「置いてきたグリフィンたちの方だ、先の怪物たちか」
「防火扉を破って来たのか……。助けには……進んだ方がいいか……」
「数が多かった、何人いるのかわからないほどだ。グリフィンらが強くても全員を倒せるとは思えない。くそっ、あれが後ろから追ってくるのか」
通路を入っていると時折、壁に空いた穴から角だらけの小さな怪物が飛び出してくる。
一匹では決して強くはないため軽くあしらうように射撃し動けなくしたのちに放置する。
「まだちらほらいるな、開いている部屋の確認をしっかりしないとな」
「背後の銃撃音が鳴りやみません、向こうが時間を稼いでくれているうちにヨヤミを探します」
「場所がわかっているんじゃないのか?」
「おそらくはもう一つ下の階層、大型の物体を収容する部屋を探します」
探すは下へと降りる階段。
そのために何が潜むかわからない通路を進む。
「今ついて来ているのは誰だ」
走りながらベニユキが確認を取るとマルティンとエレオノーラが返事を返す。
「グリフィンたちは後ろを守っていたから他の奴らと分段されたよ。テンメイ、ウーノン、ホルテン、ネシェル、カノン、コウエイ、エレオノーラ、ギルベルト」
「ブラットフォードさん、マルティンさん、ガーネットさん、アンバーさん、それとベニユキさんです。あとミカさん」
時折怪物を見つけ攻撃する射撃音が響く。
「14名か、聞きなれた名前だ」
「箱舟の人員の半数もいます、大丈夫です」
通路の終わりは巨大な吹き抜け。
その吹き抜けの周囲に張り付くように螺旋階段が伸びている。
「何だこれ上に続いているけど? 上は地上だよな、建物の中にそんな大きなものがあったか?」
「いいえ、これはおそらく我々の箱舟で言うエレベーター。異界との出入り口ですね」
ミカは階段を下りはじめ皆それについて行く。
不思議と通路と違って吹き抜けのどこにも穴は開いておらず、下からはただならぬ威圧感が湧き上がっている。
「下から嫌な感じがしますね」
「これがヨヤミって奴の放つ威圧感が?」
「おそらくは違うでしょう」