ダンジョンからの脱出 6
大きく揺れ傾いたエレベーターの床。
それでも強引な形で揺れるエレベーターは上に上がり続けた。
エレベーターの端には飛びつき登ろうとして施設の淵とエレベーターとの間で切断された巨体の怪物の腕が落ちている。
ベニユキはそれを全力で蹴飛ばし壁に当たって床を転がり、刺激に反応した指先がぴくぴくと動きグリフィンが白い銃を取り出し穴だらけにした。
それでも時折ピクリと指先が動いていて皆がそれから距離を取る。
「なんて生命力」
「あれ、腕だけで這って襲ってこないよね?」
外からの明かりが消え施設の明かりに照らされるようになると次第に外の異臭の匂いが消えていく。
撒きあがっていく鎖がジャラジャラと音を立てていて、その間誰も何も言わない。
どこからかミカの声が聞こえてくる。
『……皆様お疲れ様でした、戻りましたらごゆっくりお休みください。怪我やあの土地での食べ物を食べてしまった人は自室に戻っていただきメディカルチェックを受けてください』
ミカのホログラムは出現せず天井に向かってグリフィンが尋ねた。
「我々を上に運んだあと、他の生存者の救助にはいくのかな?」
『生存者は皆そろっています。目的の物を回収していただいたときに、他の方を置いて帰るかの確認をとりました。それ以外では全員そろったときでしか皆様の回収は行いません』
「つまり他の生存者いないと?」
『はい、生存者はこの場にいる。アインさん、ウーノンさん、キュリルさん、グリフィンさん、ベニユキさん、テオさん、テンメイさんの7名だけです』
ベニユキがエレベーターの向かう先、上に向かって尋ねる。
「どうして記憶を奪って俺たちにこんなことをやらせる。何が目的だ?」
『今はまだお話しすることができません。今はただ生き残ることだけを考え行動してください』
エレベーターは鎖を巻き上げる速度を落とし長椅子の並ぶ教会の礼拝堂のような場所に戻ってきた。
そこで光を纏ったホログラムのミカが皆の帰りに深々と頭を下げる。
『持ってきていただいたものはその場に置いておいて構いません。皆さんはどうぞ就寝時刻までおくつろぎください』
先ほどまでの地獄の余韻が消えることのないままベニユキたちはエレベーターから離れていく。
マルティンとウーノンに支えられ体を強く打ち自力で立つのもやっとなテンメイが部屋へと向かって運ばれていった。
すぐに長方形の清掃用のドローンがやってきて、床に落ちる怪物の腕とベニユキたちが回収した機材を運んでいく。
ドローンを追いかけ回収したものをどこへ持っていくのか気になったのかウーノンが追いかけようとしたが、すぐにドローン用の出入り口に消えてしまい追跡は失敗した。
キュリルが顔を赤らめてお腹を押さえる。
「ねぇミカ。ご飯、とか無いの?」
『お食事ですか……。すみません、現在資材不足で温室などの稼働は現在できませんので暖かい料理を用意することができません』
「じゃぁ、この袋に入ったお菓子みたいなやつを食べろと?」
『資材がそろいましたら、皆さまの満足が行く食事が提供できると思います。それまで我慢していただくしかありません』
「それはいつ頃? いつ資材……が届いてご飯が食べられるようになる?」
『こちらではどうしようも、皆様の頑張り次第でごさいます。本日のように下の世界へと行き必要な資源の回収をお願いします』
「汗をかいたのだけどお風呂は、……あったり?」
『それも申し訳ありませんが、資材不足で準備が出来ておりません。ご要望が多ければ後日増設いたします』
少し悲しそうな顔をしてキュリルは携帯食料を手に取り長椅子に腰掛けた。
グリフィンたちも水と携帯食料をそれぞれ手にして長椅子に座っていき、質問は無くなるとそのままミカは続ける。
『本日はこの後の予定はありません。皆様後ゆっくり休んでいただき、次に備えてもらいます。就寝時は自分の眠っていた部屋に戻っていただいて、睡眠カプセルに入ってください体調の管理や約束通りに記憶の返却を始めたいと思います』
「俺たちは死に物狂いで目的のものを持ってきたわけだが……。さて、約束の俺たちは記憶を戻される?」
『寝ている間でございます。多くの技術の詰まった箱舟特性の睡眠カプセル内で就寝中に記憶の転写を行い、少しずつではありますがお返ししようと思っております。お戻しする記憶はこちらの事情に合わせ時系列などが前後します、多少混乱すると思われますがまごうことなき本人の記憶ですので』
「小分けなのか? 全部は返されない!? くそっ完全に記憶が戻るのは、ここからはいつ出られるんだ?」
その問いにミカからの返事はない。
『それでは皆さん、本日はお疲れ様でした。おやすみなさいませ。使用した武器はこちらで片づけますので、この場に置いておいてもらって構いません。それでは』
30名ほどいた空間には負傷し先に部屋に戻ったテンメイを覗いた6名、広い空間は音を吸収し会話もなく静まり返っていた。
生存者たちは不満はあったが疲労感が勝ち、水と携帯食料を貪りそれぞれ目覚めた部屋へと渋々帰っていきカプセルの中へと入り眠りについた。
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ベニユキたちが自分たちが目覚めた部屋に戻って眠りについて少し経ち、誰もいなくなったエレベーターのある空間。
電源は落とされ漆黒の闇が包む中、ホログラムが浮かび上がった。
銀色の髪を揺らし銀色の瞳はエレベーターの方を見る。
『破損個所の修復、完了。パスワードの解除、完了。記録媒体に損傷はなし、テクノロジーの抽出開始』
運ばれた箱型の機材にケーブルが刺さり中の情報を読み取りはじめ、吸い出したデータが武器の設計図となりミカの周囲で組みあがっていく。
『復元できたデータの回収。あり合わせを使っての施設の再建度10%、工場稼働。同時に箱舟の武器製造工場の再稼働開始。食堂の修復、完了。温室の再稼働……エネルギーおよび資源不足』
箱舟と呼ばれた施設のどこかで工場が稼働し始め、重々しい音とわずかな施設の揺れる。
『次回の探査は不完全な箱舟を再稼働させるためのエネルギーおよび資源回収、条件に合うものをワールドリストより照合、天上樹木を設定』
ホログラムは光となって消えていった。




