混沌極まる世界 4
万全の装備を整え通路の先、舞台前のエレベーターへと向かう。
背中に生える羽根を小さく畳み、気配を薄くしそっと皆の後ろに立つミカ。
彼女はどう接したものかと皆から距離を取られていたが、戦う準備を終えたエレオノーラが近寄っていくと手を差し出し挨拶をする。
「初めまして。いつももやもやっとしてる投影映像ですぐに消えてしまって、こうしてしっかり挨拶をするのは初めましてですよね」
当たり前のような接し方に少し動揺して笑顔で返し握手を交わす。
「そうですね、エレオノーラさん。私は移動中のあなた方の体の管理と装備の用意、そして異界へと送るだけの存在でした。ウリのおかげでこういう形になるとは思いませんでした。力不足ではありますが皆様のお役に立てればと思います」
話しているとホルテンが近寄ってきてエレオノーラの横に立った。
今度はミカの方から手を差し出しホルテンと握手を交わす。
「えっと、立体映像から人になったんすね? 元から人だったんすか?」
「はい。箱舟管理AI皆で話し合った結果、技術的には生産が可能でウリが実験的に作った子から、なら我々も勝利を祈るだけではなく同じ戦闘に参加しようということが決まりました」
話している間にグリフィンやキュリルたちも集まってきて、遠巻きにミカたちの話に耳を傾ける。
「……でも、私自身には葛藤もありました。人の手で取り返さなければならないのに、我々が手を貸していいのかどうか。こうして、体を与えられ戦うということは旅を始めた当初は考えられませんでした。ですが今こうしてここにいる以上私もなるべく役立てるよう頑張ります」
初めからあなたたちだけで戦えばよかったのにとテンメイがエレオノーラの後ろに隠れ気味に呟く。
小さなつぶやきを聞いてミカはテンメイの方を向いて一呼吸おいてから答える。
「私もこの箱舟も本来は元の世界なかった異質な存在、元の世界を取り返すのは人でなければならなかったのです。異界の技術で起きた問題を異界の技術で解決するのではなく、あくまで人が人として異界の技術を扱い制御し使いこなして解決すべきなんです」
「今まで私たちが見てきた世界はみんな滅んでいました。私たちが異界の技術の武器を使って戦っても結局世界は滅んでしまうんじゃないですか?」
「正しく使うことが大事なんです。物としてではなく手足のように、刃物も乗り物も正しく使わないと人を傷つけてしまう、それと同じなんです。今まで見てきた世界は人の世とは関係ない場所から現れたものや争いや天変地異で人の制御を超えてしまったものたち、人が正しく抑え込み制御が出来ていれば滅ぶことはなかった。……行きましょうか、私たちが最後みたいですから」
見渡せば装備を整えエレベーターに乗り出発を待つ他の箱舟の者たち。
エレオノーラたちと話していたミカ以外の3人の異形たちもエレベーターに乗っていた。
ミカは武器を乗せたドローンを自分のそばまで引き寄せ手近なものを手に取り鞄に弾倉を詰め込むと外套を入って翼を隠す。
「お待たせしました、箱舟3号も準備は完了です」
ミカたちもエレベーターの上に乗ると1台のドローンが遅れてやってきて最後の武装を受け取る。
「剣ですか?」
「はい。私たちそれぞれの能力を補佐する強化武装という物でしょうか」
『それでは、エレベーター降下時により詳しい説明をします』
その言葉を合図に4機のエレベーターがゆっくりと降下を始める。
別のエレベータでルナが手を振りベニユキも降り返す。
すぐに周囲は壁で囲まれホールの天井の灯りだけが上に残り小さくなっていく。
エレベーターが下降する奇妙な浮遊感のある中、エレオノーラは大きく深呼吸してベニユキのもとへとやってくる。
「いつもでしたけど、緊張しますね」
「そうだな。今日で終わるって聞いたし失敗したら次は無いって言われた」
「世界滅んじゃうんですものね」
「痛いのも死ぬのも嫌だけど、もっと戦闘訓練を積むべきだったんじゃないのか」
ミカがやってくる。
「武器の扱いも戦闘に関する知識もすべて記憶装置で皆様の頭の中にあります。今までの戦いで育ててきたのはその知識を有効に生かせるようにと、恐怖に立ち向かう勇気と覚悟です。前回の戦闘、大きな犠牲はなく生きて帰ることができたので達成されたのです。欲を言ってしまえば、もっと安全に勝利してほしかったところですが。それでも本日の戦いは勝ちます」
『こちらからもできうる限りのバックアップをします。それでは本日の目標の説明を。目標は全部で4つあります。事の発端となるテロリストとされている異界の怪物の排除、箱舟の原型ビーナスの停止、本社から逃げ出した大型の怪物識別名ヨヤミ一匹、同じく識別名ディーバの破壊。その他の異形については脅威度は低く世界の人間に排除を任せても構いませんが必要なら戦闘をしてください。各箱舟で分担しことに当たる予定ですがどこかが失敗した場合他の箱舟に任務が引き継がれます』
説明にホルテンはミカに尋ねる。
「要は世界を滅ぼす可能性があるのは4つの怪物ということっすか?」
「そういうことです」
ミカが肯定した。