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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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ピリオドを穿つ為に 2

 昔居た世界の夢を見る。

 突如平和が壊れ、警報と轟音が響く世界。

 熱い熱、焦げ臭いにおい、痛む体。


「……ユキ、……ユキ!」


 体中が割れんばかりの痛みの中ベニユキは体を起こす。

 綺麗なプラチナブロンドの髪は黒く土で汚れ、体のあちこちから血を流すルナの姿があった。


「ユキ!」

「聞こえているよ、ルナ。体が痛むが、動ける」


 見渡せば周囲には砲撃を受けた跡があって、二人はその複数の砲撃跡の真ん中で吹き飛ばされた土にまみれている。


「ミサイルが……、運よく全部外れて……」

「……これ、俺らはどこに行ったんだっけ」


「ユキ、頭をぶつけたの!? どうしよう」

「非難するなら俺が守るから逃げるぞ」


「違うの、これからあの研究棟に行って私たちが作っている人工知能たちを取りに行くところだった」

「こんな状態で……必要、なのか?」


 その問いにルナは困った顔で頷く。


「うん、そしたらユキも私を守るために一緒に来てくれるってここまで」

「……そうか、なら行かないとな」


 降りかかった土を払うと血と泥が混じった塊がたくさん手についた。


「ルナは、無事か?」

「ユキほどではないよ。ユキは歩ける?」


 二人は立ち上がりゆっくりと歩き出す。


「どの建物だったか」

「すぐそばの建物、攻撃行けてボロボロだけど……行ってみようか……」


 ルナに肩を貸されベニユキは建物へと向かって歩いていく。

 広い敷地、立ち上る黒煙の間からいつこの光景を作った元凶が現れるかを不安に思いながら移動し、どこからか重たい爆撃音が響いてくる。


「俺はどれくらい倒れていた?」

「わからない。私も少し気を失ってたから……たぶん1分くらいだと思うけど。起き上がったら私らを攻撃してきた奴も消えてたし」


「さっきは運がよかったのか。次狙われたら、俺を残して逃げてくれ」

「一緒にいるよ、わがままで付き合わされてるんだから。どのみち私も足痛くて走れないから」


 敵と出会うことなく無事に建物の中へと入り込む。

 攻撃を受け無残に殺された人々が入り口前に折り重なるように倒れてりう。


「見ないように壁や天井を見て歩けルナ。俺が避けて進むからそれに合わせて歩け」

「大丈夫、久々だったから……驚いちゃただけ。知ってる顔もいたから」


 割れたガラス扉の欠片を踏みながら外から炎の赤い光が差し込む窓からの光を頼りに、ルナの研究していた人工知能の小型サーバーのある部屋へと向かう。


「ありがとうユキ、この部屋だよ。すぐとってくるからここで待っていて」


 残されたベニユキは壁に腰掛け電気系統が破壊され窓から差し込む、揺らめく炎の光を眺めていた。

 建物の倒壊音が響き場にユキ達のいる建物も小さく揺れ子の振動に立ち上がり、ルナを探しに部屋の中を覗ぞく。


「お待たせユキ、またせたね。さぁ、ここから避難しようか」

「それが、目的のやつか。意外と小さいんだな」


 台車の乗せられた段ボール箱。

 中にはクッション材が入れられ、黒い箱のような物が4つ緑色の点滅をしながら納められている。


「1つ、2つなら私でも持てるくらいなんだけど、4つもあるから流石に重いけどね。どこかでこの子らにも説明しないと、不安がっちゃうか。時間あるかな」

「避難場所、どこかあるか?」


「この施設内にもあるけど、災害用でこうなることは予想してなかったからたぶんダメかも。本社の地下なら丈夫な避難場所があるって聞いたけどここからは遠いし」

「この町から離れたいが、今道路はすごい渋滞になっているだろうな」


 彼女は大きな箱を台車に乗せて持ってくるところだった。


「行こう、怖い音が外から響いているから慎重に行かないとね」

「ああ、一緒に行こう」


「体痛むだろうけど、ユキ、台車階段降ろすの手伝って」

「電機は止まってるもんな、エレベーターは動かない二人で下ろしちまおう」


 ベニユキたちが階段までたどり着くと、階段を上がってくる音が聞こえてくる。


「誰か上がってくるぞ?」

「誰だろう、私たちみたいに研究成果を避難させるためにきた?」


「そんな研究熱心な奴いるのか?」

「夢を叶えたい人はいるよ、ここは未来を夢見て熱意と技術さえあれば、お金と技術提供で夢をかなえてくれる場所」


「いい場所だったんだな」

「叶えた先が戦争の道具になったりするけどね、ハハハ……」


 階段を上がってくる音はすごくゆっくりで足音からして負傷して早く上がれないわけでもなく、他の音に注意して慎重に歩いているわけでもないよう。


「何だろう、足音この階に向かってきてるかな」

「ここにいたら鉢合わせるな。何者だろう」


 痛む体を奮い立たせて引きつり顔でベニユキは廊下へと戻り近くにあった消火栓から手斧を取る。


「ちょっとユキ」

「念のためだ、相手が研究者だとは限らない。外の戦闘は終わっていて、これが救急隊ならいいんだけどな」


 聞こえてくる足音に二人が待ち構えているとそれはやってきた。

 半階ごとに折り返すタイプの階段を上がってくる装甲服に身を包んだ兵士。

 その胸元のロゴを見てルナがほっと胸をなでおろす。


「この会社で雇ってる警備会社の人だ」


 安心したのもつかの間、階段を上がってくるそれの動きに二人は警戒の姿勢を解かないでいた。

 人として不信感を覚えたのではなく、生き物としての動きがおかしかった。

 ゆっくりと階段を上がってくるその姿は何かに動かされているよう。


「あの、どうしてこんなところに上がってきたんですか?」


 相手は口を半開きにしたままベニユキの問いに相手は答えない。

 ベニユキは手斧を構えて前に出てルナを台車ごと廊下の方へと逃がす。


「なんかおかしいな」

「ユキ、気を付けて」


 それは階段を上がり切りベニユキの方へと向かって進む。


「それ以上来れば容赦はしないぞ、これでもこっちは要人警護で飯を食ってるんだ一対一なら何とかなるんだぞ」


 ベニユキの言葉に一切の反応を見せず相手は飛び掛かってきた。

 やむを得ずベニユキは手斧を振りそれを強く打つ。

 流石にいきなり頭をかち割るわけも行かず、かといって相手は完全防備な状態のため慎重な攻撃。

 万全ではないベニユキの攻撃を受けて相手は簡単に吹き飛び階段まで下がっていき足を踏み外し落下していく。


「何なんだよ」

「ユキ、やり過ぎなんじゃ……」


「踏ん張ろうとすれば何とでもなるような攻撃だった、不意打ちでもないし相手が過剰な反応をし過ぎなんだ」


 二人は恐る恐る階段へと近寄り半階分下に落ちたそれを見下ろす。

 落下の衝撃でヘルメットが脱げておりそれはミイラとなって死んでいた。


「なに、あれ。なんで、ミイラ……?」

「わからない。行こうルナ、なるべくそれに近寄るな」


 二人で台車を持って階段を下りていく。


「先のあれは何なの?」

「わからない、でもすぐにここから離れよう。気味が悪い」


 階段を下りたところで広い敷地内を移動するための貨物運搬ドローン見つけ、持ってきた人工知能4つを台車から乗せ換えルナが手押す。

 バッテリーの内蔵された電動アシスト付きの運搬ドローンは静かなモーター音を立てる。


「俺が押すか? これ人も乗せて運べるだろ」

「ううん、ユキは私を守って」


 割れて散らばるガラス片を踏み越えふらふらの体の二人が建物を出ると、ルナが何かに気がつき建物の入り口を振り返る。


「ユキ、ユキユキユキ!! 後ろ!」


 ブワッと一気に脂汗をかき叫ぶルナの声に従い振り返る。

 そこには割れたガラス度と血の跡が残るだけ。


「走って、怖いよ!」

「何にもいないじゃないか」


「そうだよ殺された人もいない!」


 急ぎここから離れようと走り出すルナと追いかけるベニユキ。

 建物が遠ざかっていくと同時に施設の外へと続く門が見えてくる。


 もう少しで敷地の外へと出られる、そんなところで急に二人の周囲は爆ぜ大量の土が舞い上がった。

 必死に何が起きているかを確かめようとするが舞い上がる土で視界が遮られる。

 高熱と飛んでくる無数の石の礫、それからルナを守ろうとよろけながらも彼女に覆いかぶさり、そこでベニユキの記憶は途切れ夢から目覚めた。


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