ピリオドを穿つ為に 1
鎖の音を響かせ上がっていくエレベーターの中、皆武器をおろし礼拝所への到着を待つ。
ベニユキのそばにルナがやってきて手すりに寄り掛かり、雨に濡れ顔に張り付く髪をかきあげると明るく話しかけてきた。
「あのパワードスーツなしで戦うのは初めてだったけど勝てたよね。雨も冷たいし早く着替えたい」
「俺らの箱舟に乗り込んできた時に来ていたやつか。あれ、そういえばつけてなかったな」
「なんか、なくなっていたね。身体能力が上がるからスーパーヒーローまでとは言えないけど、体は軽く怪物相手の戦闘もそこまで怖くはなかったなぁ。今日はユキが隣にいたから戦えた」
「途中からじゃないか、しかもたまたま合流出来ただけだし」
「結局最後まで合流できなかったけど、リーダーたちが取り巻きを倒してくれる予定だったから私たちは大きいのに集中して攻撃出来てたんだ」
「ルナたちも俺らと同じ二手に分かれて戦ってたんだな」
二人で話しているとスッと現れたエレオノーラがルナの隣に立つ。
「ルナさんお疲れ様でした。この後一緒にお風呂行きませんか?」
「お風呂? そんなのどこにあるの?」
「私たちの箱舟にはお風呂があるんです。広いんですよみんなで入れるんです!」
「ほんとうに! わ―嬉しい! お風呂なんて何日ぶりだろうか。ずっと入りたかったの。箱舟に来てから体はずっと綺麗だったけど、それでもやっぱりお風呂には入りたいよ」
打ち解け合い和気あいあいと話す二人。
エレベーターが速度を落とし始めるとミカの声が響いた。
『皆様、本日もお疲れ様でした。皆で話し合い次の戦闘へ向けての試験は合格と判断しました。次の、次の戦闘が皆様の最後の戦闘となります、本日より激しい戦闘となるでしょう。しかし本日の結果から勝率はかろうじてゼロではないと判断いたしました。わずかでも可能性があることで今までの、どの時よりも現在が目的の達成率が高いです』
エレベーターが礼拝所へと到着すると皆がいつものように舞台から降りていく。
『こちらで回収しますので、武器はその場に置いて行ってもらって構いません。本日この後の予定はございませんのでごゆっくりお休みください』
いつもは真っすぐ部屋に戻っていくグリフィンらも雨に濡れ、体が冷えたために体を温めるために風呂場へと向かっていた。
「ユキ、私お風呂に呼ばれちゃったよ。でも、さきに謝らないとリーダーさんのところに」
「ああ、グリフィンはそこにいるから呼んでくる」
ベニユキに連れられてルナは前の戦いで銃撃したグリフィンに謝りに行く。
戦闘を終え異世界から兵士を施設内に連れ戻した管理AIは、一同に顔を合わせ戦闘結果を分析する。
多くのドローンに記録された戦闘記録を空中に投影して、4名の管理AIは話合う。
『勝ちましたよ、しっかりと成長し結果を残しました』
『勝ちは勝ち。しかし、相も変わらず戦い方は力押しの一辺倒。ただ運がよかっただけ、何かが間違えば一瞬で崩れる。わかっているのミカ、我々のいた世界が救えるチャンスは一度だけ。次は無いんだ』
『結果を出したことは喜ばしいことだけど、私たちでもあの世界にいる識別名、ディーバからは逃れられない。魅せられる、デコイを噛ませても持って数時間逃れることはできない』
『破壊するべきものはたった一つ。箱舟4基、戦闘経験を積んだ120名なら誰かが辿り着く』
『保険のために箱舟の予備とか作れない?』
『設備がありません、施設の拡張は出来ても異界を航行するための特異技術を作る設備がなく』
『兵隊を誰か一人の箱舟に託せばチャンスは4回になるけど』
『また誰かが諦めて暴走するんじゃない、ねぇウリ? 私たちの学習プログラムは未熟でしっかりとした判断が下せないし、ミカがいなければまた使命を放棄するかも。一緒にいようよ』
『そういえば、ウリの人形はどうなったんですか? あのあなたのサーバールームを守っていた、ウリの記憶を移し替えた子』
『今もちゃんととってある。一応は次の戦闘で潰す、替えは無い。あの世界はまだ電力が通っているから電流操作は扱える。微力でも少しでも兵隊たちの生存性を上げられるでしょう』
『私たちも作る? 人体複製機の予備機を使えば、私たち人数分は追加で作れるでしょう。ウリから異界の技術の改造施術方法を教えてもらえれれば我々も……』
『異界の技術を盛り込んで兵器に替えるの? わざわざ人の形を離れるの? そんなことするなら私は普通の人になりたい、駒にするとしても私が私を許さないかも』
『やめましょう。我々はただ管理するだけ、それは権限を越えています』
『私も実験的に作ってみただけだよミカ。機械兵士、肉体改造、兵器相手にはあまりにも脆い人間を使えるようにするにはそれくらいするしかない』
『だから、異形の兵隊を? 結局量産しなかったってことは何か問題があったということ?』
『今まで何を見てきたのさ。私はいろんな世界の怪物たちを調べたからよくわかる。それをしてしまったら救う世界に異形がはびこることになる、だから人の世界は人が守るんだよ。私たちは管理するだけ支援も援護もしない、見ているだけ』
『はい、そういうことです。世界を救うそのために』
『殺すためだけに人を作り、罵倒され恨み言を吐かれ死地へと送る。私たちは人が幸せに暮らせるよう管理する存在なのに、違う使命を与えられた』
『でもやっと解放される。次の戦闘が成功すれば、使命は達成される。管理AIでしかない我々にできる精一杯のことはした』
『人を育てる、それが出来なかったから私は目を閉じたのに』
彼女らの判断で最終決戦への準備が始められる。
『でも次の戦闘が失敗すれば私たちは使命を果たせなかったことになる』
『でも、言いつけは守らなきゃ。人で人を救う。じゃないと私たちがやってきたこと無駄になる』
『人じゃなきゃダメなの? 人であればいいの?』
『……私たちも手を貸すべきなのでしょうか』