ダンジョンからの脱出 5
けたたましい銃撃音が聞こえ皆が振り返る。
そこには何かを叫びながら黒い機関銃を撃つタリュウの姿と、縦にも横にも膨らむように大きくなった怪物の姿。
そしてその大きな音に引かれて次々と建物の中から走って現れる怪物たち。
黒い機関銃は横薙ぎにできるが巨大な怪物だけは止まらない。
「あいつ生きてたんだ」
眉間にしわを寄せてキュリルがつぶやく。
機関銃の音に気を取られながらも逃げていると、忘れられていたテンメイの金切り声が聞こえてくる。
「待って、置いてかないで!」
体を強くぶつけたせいか車内から這い出せず、割れたフロントガラスから腕を伸ばし彼女は助けを求めていた。
エレオノーラとベニユキが助けに向かうが、グリフィンたちはそのままAIミカが待つ施設へとつながるエレベーターへと向かって行き止まらない。
「置いていかれちゃいます」
「みんな自分がまず生き残ろうことが優先だからな、止まってもいられないだろ。俺らも捕まる前に逃げないと」
見れば辺りには怪物の姿が至る所に、すでに百に近い怪物の姿が見え速度はバラバラだが走ってこちらへと向かってきている。
音なのか危険と判断してなのか怪物のほとんどは黒い機関銃を撃つタリュウの方向へと走っていく。
その間にテンメイのもとへとたどり着いたベニユキは、置いて行かれかけ絶望し目に涙を浮かべた彼女へと手を伸ばす。
「助けて!」
「わかった、大丈夫か体は動くか?」
白い銃をポケットにしまいベニユキとエレオノーラは腕を伸ばし自力で車内から出られないテンメイを抱きよせる。
投げ飛ばされたときにダメージを受けテンメイは自力で立っていられず弱弱しくもしがみつく。
「背負うから抱き着かないでくれ」
ベニユキはテンメイを背負うとエレオノーラとともに先へと進む皆の後を追う。
より大きい音を立てるものを追うのか銃の危険度がわかるのか、タリュウの次に狙われているのはグリフィンたちの様だった。
茶色い銃の掃射で怪物たちは倒れるがその数は減らない。
「弾はないといっていたけど、結構弾持ちいいのかあの銃は」
「あの人、追いつかれちゃいます」
ふいに背筋に嫌なものを感じ振り返るベニユキ。
見れば怪物に囲まれつつあるタリュウの持つ機関銃の黒い銃口がこっちを向いていた。
「伏せろエレオノーラ!!」
「え?」
銃口から吹かれる火と激しい銃声。
躱せるはずもなく、ばら撒かれた無数の銃弾がベニユキたちをかすった。
銃を扱うのが素人でありさらに怪物に囲まれつつあり焦っていたのもあって、銃の狙いはそれ地面や止めてあった車両が被弾し音を立てる。
「どうしてこっちに!?」
飛んでくる弾丸に驚き自分の足で躓き地面を転がり四つん這いになると、戻って車を盾にしようとするエレオノーラ。
見れば機材を持つマルティンたちの殿を務めていたウーノンとグリフィンかコンテナの影に消えていくところ。
「走れエレオノーラ! 置いて行かれるぞ!」
「置いて行かれちゃう、やだ!」
ベニユキの言葉に彼女は盾になる車の影へと引き返すのをやめ、箱舟のエレベーターが待つコンテナの積みあがっている方向へと走り出す。
何かを叫ぶ声が聞こえまた後ろから撃たれるのではと思って振り返れば、すでにタリュウがいた場所には多くの怪物が集まっていて声だけが聞こえ彼の姿は見えなくなっていた。
銃弾がかすった頬から耳の下にかけて赤い血が流れている。
「いつつっ……かすったのが反対側だったら、せっかく助けたのに頭が撃ち抜かれてたな」
頬が切れ血が流れる反対側にある背負ったテンメイの頭。
「うん……」
息の乱れるテンメイの無事を確認し彼女を背負いなおし、後ろにいるエレオノーラの無事を確認するため振り返る。
「エレオノーラは大丈夫か?」
彼女はでたらめに撃たれた凶弾が当たり血を流して倒れていた。
「エレオノーラ! 銃弾がどこかに当たったのか、大丈夫か奴らが来てる立てるか……えれお、のーら?」
何度呼び掛けても返事はなく、彼女は目に涙を浮かべたまま天を仰ぐ。
「くそっ、おぉぉ!」
「えれおのーら……」
テンメイの弱弱しい声を聴きながらベニユキは歯を食いしばり最後の力を振り絞り走り出す。
コンテナの壁を越えた先にあるエレベーターは動いており、降りる際に邪魔にならないよう倒れていた手すりが起き上がっている。
「早くこっちに!」
テンメイを助けて追いついてきたベニユキたちにグリフィンが銃を構え銃口を向けた。
銃撃とともにベニユキたちの後ろで倒れる音。
「もうすぐだ! あきらめるな!」
「追ってきてる追いつかれるぞ、もっと早く!」
エレベーターの床に機材をおろしたマルティンたちにも射撃の支援をされ、がむしゃらに走るベニユキ。
重たい足音が聞こえベニユキたちの背後に巨体が現れている。
銃撃がベニユキたちより高い位置にある頭に集まるが頭が削れても怪物は止まらない。
追ってきているのは巨体だけではなく、コンテナの影の奥から何十人と走ってくる足音が聞こえてくる。
「足を撃て! 立てなくすればすぐには追ってこれない!」
グリフィンの指示で攻撃が地面の方を向き、ベニユキの背後で足音と跳弾する音が響く。
死に物狂いで走り手すりの乗り越えてエレベーターにたどり着いた。
テンメイを床に下ろしベニユキがむせ込み倒れ込む。
『生存者の収容を確認、撤収します。振り落とされないよう近くの物にしがみつきその場でお待ちください』
懐かしさすら感じるミカの声。
人を一人担いでの死に物狂いの全力疾走。
今まで走れていたのは火事場の馬鹿力たったのか、一度足を止めた足はがくがくと震え起き上がることさえもできない。
ベニユキたちの到着を待っていたかのように、二人がエレベーターに乗り込むと鎖を巻き上げる音を鳴らして動き出した。
「隠れていれば安全だったかもしれなかったのに、俺が呼んだから……」
息絶えたエレオノーラを置いてきた方向を向きうなだれるベニユキ。
すでにエレベーターは建物の二階ほどの高さに上がっており、もうじき原理不明の空中に浮かぶ円盤のようなものの中に消える。
もう安全だろうと引き金から手を放しアインがつぶやく。
「なんだったんだあの場所は、あの怪物は……」
キュリルもテオも戦いが終わり腰を下ろす。
「人の様で人じゃなかった」
「だな、俺らが連れ去られている間に世界は滅んだのか? あの遠くに見えたキノコ雲、でけぇ爆弾落としたってことだろ?」
グリフィンは手すりのある淵に立ち銃を撃ち続けている。
怪物が飛びあがってきてしがみついてきた。
小さいものだったら大したことはなかったのだろうがしがみついてきたのは巨体の怪物。
「うわっ!?」「飛び込んできた!」
床に寝ていたベニユキが跳ねあがるほどの揺れ。
エレベーターは太い鎖で吊るされただけのため、ベニユキたちの休む足場が大きく揺れた。
グリフィンは手すりにつかまっており、よろけるアインの腕を掴んで手すりを持たせる。




