世界を蝕む者 2
暗くて正確にはわからないが数は10匹前後。
最初1匹と同じように細長い体を丸め、その横から延ばした足で床を蹴って跳ね回って転がってくる。
ホルテンがナイフを構えるとボンボンと音を立てて弾んでくる塊をよけて、その背後を狙って追いかけていく。
「強くはないけど接近するまで気がつかなかった、みんな誤射には気を付けて!」
「この銃威力があり過ぎて、少しの攻撃でこの小さな怪物を貫く!」
ガーネットがライトにビニール袋をかぶせ作った工作で局所的ではあるが周囲を照らしているため、はっきりとは見えないが蠢く影としてぼんやりと相手の姿が見え戦闘を続けていた。
それぞれ戦っていたコウエイとブラットフォードが体当たりを受けて吹き飛ばされた。
体を丸め転がる怪物たちは人のそばまで跳ね飛んでいくと丸めた体を伸ばして鎌のよな顎と鋏のような爪を大きく広げて飛び掛かり、転倒したブラットフォードにも遅いかかりベニユキが銃で怪物の体の上半分を吹き飛ばして助ける。
「大丈夫か!」
「何とか、服が丈夫で爪が食い込まなかったよ。痛いが泣きごと行っても仕方ないし」
「無理はするなよ」
「戦わされてることがすでに無理なんだ今更だよ」
立ち上がり周囲に他の怪物がいないか確認してから苦笑し体当たりで強い衝撃を受け床に倒れ気を失い伸びているコウエイを引っ張り、テンメイとエレオノーラに協力を頼んで下がっていくブラットフォード。
ネシェルが目の前を通り過ぎて行った怪物に拳銃を放った。
「人に向かってくるから、乱戦になるか。あまり距離を取り過ぎると暗闇に混ざって敵か味方かわからなくなる」
「でも固まってるとボーリングのピンみたいに体当たりで押し倒されるよ」
怪物も数匹は倒せはしても集団の間に転がってきたりするとお互いを打ってしまわないように距離を取ろうと離れ、注意がそっちへと向いているうちに背後から飛びかかってくる。
しかし、変な動きが特徴だった怪物が普通に襲い掛かれば、落ち着いて狙って撃つ時間を与え排除されていった。
点滅する光も撥ねる音も聞こえなくなりまた辺りは静かになる。
「タイヤ野郎はみんな倒したようだ」
「最初に見つけたときに手榴弾を投げていれば、バタバタしなかったか?」
「衝撃で天井が落ちてくるかもしれなかったらからそれはだめだ、俺らの持っている武器は基本的に威力が大きい、今の戦闘で床も壁もボロボロだろ」
みれば戦闘の後で床のタイルを砕き、円柱のコンクリートの柱にも大亀裂が入っていた。
地上にいる大型の怪物の足音に合わせて少しずつひび割れが大きく広がり、小さな欠片が零れ落ちている。
「強い武器は強い武器でいろいろ厄介だな。ここも危ないな、移動しよう」
ライトで周囲を照らして安全を確保すると、皆武器をおろして弾倉を取り替えたり水を飲んだりする。
「ふぅ、終わった」
「エレオノーラ、誰か怪我人はいるか?」
「大きな怪我じゃないですけど打撲や捻挫した人ならいます。マルティンさんとガーネットちゃん、でも軽症です熱くのは少し辛いでしょうけど戦闘には問題ありません」
「よしならゆっくり進むか」
「最悪、痛覚を麻痺させる痛み止めとかもあります」
「その薬で体に無理がかからないなら飲ませてくれエレオノーラ」
行き先を照らし出して歩き出すとベニユキの隣にやってくるマルティン。
「武器の扱い方はわかるんだけど戦術とかの知識がないから、とっさの時にわちゃわちゃしてしまうね」
「でも、誤射もなく無事で勝ててよかった。数度とは言え戦闘した経験が生きているのか?」
「そうだね、どうなんだろう経験を積むにも僕らは何回か死んでいたりするし。でも経験が生きてるってのは間違ってないかもね、いつもなら世界に降りてすぐ大怪我する人が出てたけど今回はまだ軽症者が数名いるだけだから。武器が強いってのもあるかもだけど」
「でもこんな戦闘も明日で終わる」
「だといいね。痛い思いも怖い思いもしない日常に帰れるわけだから」
「ああ、進もうマルティン。どこにいるかわからないけどグリフィンたちを援護しないと」
進んでいくと通路の先は大きく開けていた。
幅が広くボンヤリとした明かりが届かない為、皆いっそうかたまって移動する。
「地下の大通りに出てしまったね」
「ここは何の地下施設だったんでしょうか? 地上がごちゃごちゃしたから移動しやすいように? 作ったのか?」
「近道ってことかい? ……うぅん、失礼。さぁ? 探せば電車でも走っているんじゃないかな」
「でも目指すのは地上だから上に続く道を探さないと」
大きな通りの奥で怪物たちの蠢く足音が聞こえ一同は別の細道へと隠れる。
逃げ込んだ細い道の奥に階段を見つけてホルテンが確認へ向かい、ウーノンを連れて階段を上がっていき少したって戻ってくる。
「上に続く階段ありました、別の大通りに続いていて外に敵はいません」
「よし地上に上がろう」
入ったときと同じような地下への入口から周囲に警戒しながらそっと外へと出た。
まだ大きな都心の中央らしく大きな道路とその両脇を巨大なショッピングセンターが取り囲んでいる。
見通しの悪い町を見回し怪物を探す。
「いないな、デカ物はどこだ?」
「足音は聞こえるね、さっきの場所からどれくらい離れたんだろう?」
「そんなに離れていないとは思う、遠くても500メートルくらいじゃないか?」
敵もおらずこの隙に残りの残弾を確認し弾倉を取り換える。
「私このライフルまだ3発しか撃っていないんだけど」
「もっと戦ってネシェル」
「拳銃なら結構撃った」
「当たった?」
ホルテンの問いにネシェルがそっぽを向いた。