世界を蝕む者 1
銃を構えながらベニユキたちは道に広がり、ホルテン達に照らされ闇に浮かび上がった怪物へと狙いをつけた。
「撃て!」
一斉に放たれる光の筋が怪物へと集約し皆が落ち着いて一点を狙ったことで外骨格を手早く貫通し、続いて倒した先頭を乗り越え奥から現れたもう一匹へと攻撃は移る。
二匹目を倒したところで怪物の追加はなく再び地下通路に静寂が戻った。
「もういないか?」
「たぶんな、点滅してた光も見えない」
「足音は無いね、あれだけ大きいから重さも相当なものだし足音を立てずには歩けないとは思うけど」
「足音がなかったから気がつかなかった、真っ暗って怖いね」
「暗いところだと鳴かないのかな?」
ガーネットが落ちていたゴミの中から白いビニール袋を拾いライトにかぶせ、わずかに周囲を明るく照らせるようになる。
ボンヤリとした数メートルくらいなら手元が見えるようになり再度武器の確認をする。
「これで全周囲照らせるよね、ないよりはましな灯りだけど」
「助かる、これで手元が見える」
他にどこか怪物がいないのかを探すためにベニユキとコウエイは近くの店へと向かって歩いていく。
ここにも血が飛び散った跡があり、店内は破棄の限りが尽くされている。
「中に敵はいないな。狭い店はめちゃめちゃに壊されているが」
「お、お弁当屋さん、ですかね?」
割れたショーウインドウの欠片を踏み割りながら店内へと進み、コウエイは床に散らばるお弁当の中から無事なサラダの入った容器を一つ手に取った。
「この、おべんと、腐ってません……食べれはしないでしょうけど……しおれてますけどまだ葉っぱがきれいです」
「怪物が現れたのはこの世界の最近ってことか」
「まだ、人はいるでしょうか?」
「このあたりにはいないだろうな。別の世界の武器を持った俺たちと鉢合わせたらややこしいことになるだろ」
「た、確かに、そう、そうですね。いるなら強力とかしてくれないかと思ったんですけど……」
「外の戦車を見た感じだと共闘は無理そうだったけどな」
巨大な方の怪物は遠ざかって行っているようで地響きはあるものの振動は弱くなりつつあった。
一通り落ち着いた一同は水を飲んだりして休憩をはさむ。
「揺れもだいぶ収まってきた、わからないけどひとまずは安心か。先を見てくる、誰かいっしょに来てくれないかい?」
「俺が行くっす」
ホルテンとマルティンが道の真ん中を占領する怪物の死骸を避けて通路の奥を確認しに行く。
彼らに続いて皆出口を探して前へと歩き出し、恐る恐るアンバーが今しがた倒した怪物の死骸に触れる。
「危ないよアンバー、まだ動くかも」
「すごく熱いね、表面はワックスみたいのでネチャッてしてるねぇ。水をはじく役目かな?」
「熱いんでしょ、火傷しない?」
「そこまで熱くはない……、あくまで体感上の話だよ。傷から体液が流れている、下がっていなさいガーネット。虫の体液だ毒か酸かわかったもんじゃないからねぇ」
「ならアンバーも早く離れて、あぶないよ」
「ああ、心配させないようもう戻るさ。毒針とか何かないか調べようと思ったけど、特にないね」
奥へと進んでいると分かれ道が見えてきた。
「分かれ道だ、どちらへ曲がる?」
左右の道をライトで照らすと片方の進行方向が崩れている。
「向こうにも道があったみたいだ、崩れているがそこに埋もれた怪物も見える。さっきの二匹はここから来た奴だろ」
崩れた通路の下を照らせば怪物の足が一本、土から延びているのが見えた。
足はまだぴくぴくと動いており、銃を向けるが土の中から出てくる様子はなく放置しまだ通れる通砲の道へと向き直る。
「みたいだね、あっちの道はまだ無事の様だから行こうか」
通路の奥に小さく黄色と緑の光が見え立ち止まった。
「この通路の先、光ってます」
「また出たか」
暗闇の奥にライトを向けるが、照らした先に大きな存在は無く足を止めて狙いをつける。
「何もいない」
「光が小さかったから遠くにいると思ったんすけどね、見間違いっすか?」
「いいや、俺も見た見間違いじゃない何か居る」
「いないのはどういうことなんっすかね」
通路の奥だけでなく付近の天井や壁などを照らすが通路に大きな姿は見えない。
「流石に天井にあの大きさのは登れないんじゃないかな」
「まぁ、そうか」
そういった瞬間、ベニユキとホルテンの間に何かが降ってくる。
「なんだ!」「天井が落ちてきた!?」
慌てて落ちて来た物にライトを向けると、それは1メートルほどの小さな怪物。
離れると地面をけり跳ねるように追いかけてくる。
地上を騒音を鳴らし大挙して押し寄せてきたものと同じ形をしているが、より小さいタイプ。
長細い体は丸まり足で床を蹴ってぴょんと跳ねて迫ってきていた。
「変な動きで飛んできた! ジャンピングダンゴムシ!」
攻撃をかわして銃を撃ち仕留める。
奇怪な動きで飛んでくる怪物に皆が慌てている間に、皆の後ろに隠れてライトで照らしていたテンメイが叫ぶ。
「奥にいる、来るよ!」
倒した敵を調べる間もなく次の壁を探して通路の奥へとむけて銃を向けた。