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異界巡行の世界 箱舟天使は異界を旅して帰還する  作者: 七夜月 文
4章 --光目指し加速する箱舟天使--
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試練 4

 4つの箱舟分の人数全員がエレベーターへと乗り込むと静かにゆっくりと降下を始める。


『一度皆様のそれぞれの箱舟へと送り返します。各箱舟の管理AIの指示に従いそこから各自出撃してください』


 管理AIの声が響きその放送を聞いて何人かが顔を見合わせた。

 ベニユキは隣にいたグリフィンに尋ねる。


「わざわざ箱舟に戻るのか? せっかく一同に集まったっていうのにばらける意味はあるのか?」

「4方向から出撃するという話だったな、相手が逃げるにしろ戦うにしろ囲んで叩く。知らん奴と連携もできないし妥当だろう」


「これだけいるなら作戦がなくても、全員で正面突破した方が火力も集中できてよかったんじゃないのか?」

「画像で倒す怪物大きさを見ただろう。相手は怪獣だ暴れてビルなどを倒され一網打尽にされたら笑い話にもならんぞ」


「確かに。全員で顔合わせしたのも今回は敵同士ではないって意図もあったか?」

「さぁな、少なくとも鉢合わせて撃ち合いには今回はならないだろうな」


「なんか不服そうだなグリフィン?」

「二度も逃げっぱなしだった。負けっぱなしは気分がよくないだけだ」


「今までの戦いはずっと逃げてただろうよ」

「それでも何かしら成し遂げた感じはしただろ、過去二回はそれがなかった」


 エレベーターはゆっくりと降りていく。

 止まることはなく数分か十分くらいたったころには緊張感も解け、ぽつりぽつりと私語が飛び交い始めていた。


「なかなかつかないね?」

「エレベーターが降りていくこの浮遊感苦手だ」


「そうだな、俺も閉鎖された空間っていうのは苦手だ」

「他の箱舟はこう時間がかかるのかな。それとも人数が多いとかそういう理由か」


 ベニユキも近くにいたマルティンと会話する。


「ゆき……」


 小さな声で名を呼ばれた気がして辺りを見回すベニユキ。

 少し離れたところに武器を背負ったプラチナブロンドの目立つ髪色の女性が立っていた。


「ルナ!」


 彼女は強く名前を呼ばれ驚く様子を見せるものの、周囲の注目を集める中恥ずかしそうに人の間を縫ってベニユキへと近づいてくる。


「や、やぁ……ひさしぶり……、前回の戦闘ぶり、だねユキ」


 ベニユキも彼女へと向かって歩を進めた。

 近寄りルナはベニユキに飛びつくと強く抱きしめ、ベニユキも彼女を強く抱きしめ返した。


「記憶は戻ったのかルナ」

「記憶、返してもらったよ……全部思い出したけど、同時に今までやってきたことが忘れられないんだ」


 記憶を奪われていた時間を含めても数日と立っていなくとも、二人は久しぶりの再会を喜んだ。


「それでその、ほら前回の私は記憶がなかったからあんなことを。気まずいし恨まれてそうだけど、でもやっぱ謝らないといけないよね……ユキ、謝るのを隣りで見ていてくれない?」


「謝る?」

「私の口から言わせないでくれ、私も記憶を取り戻すために必死だったんだ。与えられた武器を扱う知識で必要だと思ったことをした、それだけだったの」


「話せばわかってくれると思うから」

「ならまず、あの私が、直接、ボコボコにした……女性から。その後、こっちで勝手にそう判断してたベニユキたちのリーダーの男性の人」


「後者はグリフィンだとして誰だ?」

「生体爆弾つけてベニユキたちの方に返したんだけど……」


「エレオノーラか……死んだときの記憶があるって言ってたよな」

「謝るのが怖いから最初にユキを探したの」


 ルナを連れエレオノーラと目が合う。


「ひっ」


 彼女は小さな悲鳴のような息を吐くと顔を青ざめさせてその場から離れようと後退りする。

 水さっきのことのように思い出す苦痛を与えられた記憶、傷も負っていない体に痛みがよみがえった。


「待ってくれエレオノーラ。ルナが謝りたいって」


 隣りにいたテンメイを盾にして隠れようとするエレオノーラをベニユキが呼び止め、彼女は振り返り女性と一緒にいるベニユキを見た。


「ベニユキさん、その人」

「ああ、昨日エレオノーラを捕まえて痛めつけたんだってな。そのことで謝りたいそうだ」


 ベニユキの横をすり抜けルナは前に出てエレオノーラに向かって深く頭を下げる。


「ごめんなさい。私はあなたにとんでもないことをしました。謝って許されることでは無いかもしれません。記憶がなく命令されていたとはいえ、私はユキの知り合いをこの手にかけあなたを殺した」

「えっと、ユキ? ベニユキさん?」


「あ、ああ。ユキは私の夫だ。記憶が戻ったのはついさっきでそれまでは顔を見ても気が付きもしなかったけど」

「そうなんですか! 初めまして、エレオノーラと言います。ベニユキさんにはいつも助けてもらっています」


「ええとその話はあとにして、それはそうと、ごめんなさい私はあなたを殺した」

「でも、記憶の中の私は誰かに撃たれて……?」


「あなたの胸に生体爆弾を取り付けたのは私だから、どのみちあなたは……」


 小さく揺れてエレベーターが止まるとアナウンスが流れた。


『箱舟に到着しました。ミカの箱舟に乗っていた皆さんはここで降りてください』


 知らない空間で新しく作られた区画のようだが差し込む見慣れた青い光のさす礼拝所へと到達しエレベーターは停止した。

 アナウンスに従いブラットフォードたちが大きなエレベーターから降り別の箱舟へと移っていく。


「私たちはここで降りないと、また落ち着いたときに話しましょう」

「え、ええ。わかった、またね。あなたの無事を祈ります」


 エレオノーラは会釈しエレベーターを降りて行き人ごみに消えていく。


「リーダーの人に謝れなかった」

「時間があったら俺が連れていくから」


 ベニユキもルナに手を振り彼女も小さく手を振り返す。


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