ダンジョンからの脱出 4
派手に銃声を打ち鳴らした後で慎重になる必要がないと感じグリフィンが少しばかり声を張った。
「君ら再会を喜ぶのはそのくらいにしてそろそろ逃げたいのだが、どうかな?」
負傷はなかったものの恐怖で腰の抜けたエレオノーラたちを支えながら機材を持つマルティンとグリフィンたちのもとに走って戻る。
そして一気に階段を駆け上がっていく。
「今日のこと、これからしばらく夢に出そうです」
エレオノーラが青ざめた顔で震え、その後ろでウーノンが白い銃の残弾を見て周囲に尋ねる。
「誰か弾が余っていないか? 撃ち続けて残りが少ない」
「僕のを使ってくれウーノン、今荷物を持っているから戦いには参加できない」
マルティンに荷物を預け身軽になったベニユキが白い銃を持って階段を上がり、地上階へと戻ってきた。
扉を開けるとまだ屋内で見覚えのない場所。
「どこだここ? どこに出た?」
見回してもベニユキたちが下まで降りてきたエスカレーターのある吹き抜けは見当たらない。
しかしこちらも他の場所と変わらず、砂ぼこりと誰かの残した荷物のゴミが散らまばっている。
ひとまず周囲に怪物がいないとわかると階段を駆け上がった息を整えるために休憩をはさむ。
「どうやら建物の裏側についてしまったようだ」
「中を突っ切っていくか、建物の外から回るか」
「中から帰った方が近いが、あの怪物がうろついている。入るときは外に怪物なんていなかったし安全とは言えないが開けた土地の方が敵の発見は早くなる」
「しかし、外の地形を知らないからだいぶ遠回りになるかも。それに建物の中にどれだけの怪物がいるかわからない、最悪この建物の上の階から怪物が次々飛び出てくるかも。早く戻りたいのもあるから屋内がいいと思うけども」
「なら多数決にするかね」
正面に出入り口が見えるがベニユキたちが入ってきたところとは別物。
別の出入り口から見える外ははオレンジ色の外の明かりが差し込んでいる。
グリフィンがマルティン、エレオノーラ、ウーノン、テンメイやアイン、テオ、キュリルに問いかけ建物の外を回るか、迷路のような建物内を進むかの決をとった。
結果は屋内からの移動に決まりすぐに行動に移る。
目的のものを手に入れ怪物たちのいる建物にいつまでもいる必要はなく、一刻も早く帰りたい一行は決まったことに誰も文句は言わず速やかに移動し
記憶を頼りに元来た入口のある方角を目指してすすむ。
「静まり返っているな。俺たちが入ったときもそうだったけど、あの化け物たちは普通に言葉はなせるんだろ。だったら知恵が回るってことは無いか?」
「そういえばたしかミカさんが30人くらいいるって言ってましたよね? 他のみんなはやられてしまったのでしょうか?」
「誰、ミカさんって……ああ、あのAIの名前そんなんだったな」
「はい、記憶は返してくれるらしいけど解放はしてくれないんですかね」
「生き残った俺たちは減った人数で続きをさせられるのかもな」
「だとしたら、逃げてしまった方がいいんでしょうか……」
息を切らし壁に寄り掛かるマルティンは抱えた機器を見て言う。
「みんなこれを探しているはずだから銃を向ければ、目的地が動いているのがわかるはず。僕たちが持っていることはわかると思うんだけど」
「確かに、無事ならみんなここを目指してくるから合流してくれるんですね」
エレオノーラが辺りを見渡し生存者が合流してくるのを期待した。
そんな彼女にあまり期待をさせないようにもう一言加える。
「無事なら、だけどね」
建物の外に出ると日が大きく傾き施設の長く伸びた影と黄昏時のオレンジ色の空が待っていた。
アインはかけていたサングラスを外し内ポケットにしまう。
「夕暮れか、ここは明かりがついているが周りには何もない。暗くなるとあのAIの待つエレベーターに戻れなくなるぞ」
「お月様も出てます」
施設を山を越えた遠くに巨大なキノコ雲がいくつも見る。
空高く昇った白茶色い土煙は夕日を浴び禍々しい赤茶色をしていて、時折遥か上空から地上へと向かって稲妻を発し青白く瞬く。
「なんだよ、あれ?」
「ひぃふぅみぃ、火山の噴火……とかではなさそうですね」
「爆弾とみるべきだろうね、それも特大級の」
入り口前に止められていた戦闘車両の脇を通り過ぎ、皆が唖然となって人的に作られたであろう現象を眺めていた。
その時グリフィンが大声を出し皆は我に返る。
「遠くを見るのも良いが、もっとそばに目を向けてももらえないか。敵が来ているぞ!」
グリフィンの警告と同時に、彼も持つ茶色い突撃銃の銃声。
辺りを見渡せばベニユキたちが入った建物以外にも建物はいくつかあり、他の建物から目を赤く輝かせながら怪物が出てきてベニユキたちに向かって走ってくるのが見えた。
「走れ、あの駐車場の向こうだ」
「来た時はいなかったのに、俺らが来て外に出て来たのか? コンテナの陰に隠れていないといいな」
冷静に白い銃を撃ち続けるウーノンと突撃銃を持つグリフィンが殿を務め、白い銃を持つベニユキとアインが援護をする。
テンメイとテオが先を走り自分たちが降りてきた施設への入口を探しに行く。
キュリルとエレオノーラが機材を抱えるマルティンとともに周囲を警戒しながら走る。
「あと少しだみんな」
コンテが積み上がる駐車場の手前に並ぶ大型バスの影から人影が現れた。
施設で配られていた服を着た男性。
一瞬怪物かと思って身構えたがベニユキたちはすぐに白い銃の銃口をおろす。
「何だ味方か、びっくりした」
「援護頼めるか! 目的のものを手に入れた!」
しかしその男の動きはおかしく銃を構えるどころか真っすぐこちらへと向かってくる。
「よく見ろ!」
アインの言葉に下ろした銃口を向けなおした。
薄暗い影の中、暗く見ずらくなっていたがその肌は青紫色で目は赤黒く純血している。
「敵だ!」
名前も知らないがおそらくはさっきまで生きていた人間。
怪物とはわかっていてもその一言で動きが止まってしまう。
「みかららぁ、撃たないでくえ」
呂律のまわらない言葉だったが意味のある言葉にテンメイが躊躇する。
「まだ生きてるの?」
向かってくる人影に捕まらないように足を止めたテンメイの背を押しまた歩き出させテオが狙いをつけて引き金を引く。
「あれは敵だ、撃て!」
何発かが男に当たるが男は止まらない。
テンメイも銃を撃つがすでに遅く怪物となった男は、腕を伸ばしテンメイの首を掴む。
「ヤダッ、がぁ!?」
そしてそのまま怪物は力の限り振り回し彼女の体は片腕で投げ飛ばされ、近くにとめられていた乗用車にぶつかる。
凹むボンネット、割れるフロントガラス、衝撃で反応し鳴り響く警報音。
彼女の体はフロントガラスを貫通し車内へと滑り込んでいった。
怪物は続いてテオにも腕を伸ばすがその腕をいなして接近し、拳を握り顎に一撃入れ後ろへとのけぞらせる。
そこで頭に数発撃ちこみ怪物となった男を倒す。




